天正十年のサロメ

私にヨカナーンの首をくださいまし。
　　　　　　　　　――オスカー・ワイルド『サロメ』


遥か昔、異邦の地にて無垢なる少女は預言者の首を求めた。
ただ、その唇に接吻するためだけに。


そして、時は戦国。天正十年六月二日。
世に知られる本能寺の変。
ここにも首を求める者がいた。
男の名は明智秀満。
主君・光秀の命に従い、秀満は織田信長の首を狙う。
それを阻むは信長に仕える森蘭丸。

首を巡って争うは戦国の世の定め。
しかし、信長の首は一つきり。
ならば、その首を手にする者はただ一人。

サロメの末裔たりうるのはただ一人のみ。