裏切りは朝日を連れて
浅い眠りから
――遠い。だが、何かが近づいてくる。
異変の
「――
見慣れた旗印が
未だ
水色桔梗。
明智の桔梗紋が白く染め抜かれたその旗印を蘭丸は幾度も
頼もしく誠実で公明正大なその人柄。知略と武勇を兼ね備えた
蘭丸はかぶりを振る。
ありえない。明智殿に限って、万に一つも。
しかし、心情とは裏腹に胸の内に巣食った不安は広がっていく。
何故、ここに明智殿の旗が
火急の用が起こったのであれば伝令を遣わせればよい。そこに敢えて旗を掲げる必要はない。また、既にこの京とその民に名を知られた織田家中に連なる明智一党が
何はともあれ上様の
駆け出した蘭丸の胸に一つの考えが浮かぶ。旗を掲げるに足る理由が。それは蘭丸にとって分かりきっているはずの答えだった。
これに勝る理由などないではないか。刀を握るまで思い及ばなかったことが蘭丸は不思議でならなかった。けれど、その結論に至った蘭丸は自らにさらなる問いを重ねる。
敵は
天下布武を半ば果たしたとはいえ、上様の首を狙う輩は数知れずいる。いつ
上様の号令に従わず上洛を拒んだ者どもであろうか。それとも生き残りの悪僧どもか。何処に。我らの敵はどこにおるのだ明智殿。
自問によって育まれた疑心の芽から蘭丸は目を背けることが出来なかった。
今や耳を澄ませずとも隔てた塀の先から隠しようもなく
確証はない。それでも一刻も早く、上様の許へ。
床板が軋むごとに胸の早鐘は拍子をいや増していく。その鼓動を掻き消す
「敵は本能寺に在り!」
廊下を渡る蘭丸の
敵。
その言葉を聞き違えるはずもない。それは最早、後戻りの叶わぬ言葉。
我らの道はいつ違ったのだ、明智殿。
心中で蘭丸は
――
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