episode2 雨だれの前奏曲

 田中 楓たなか かえでは良く笑う人だった。

 依織の記憶のなかで彼女は、最後の頃を除いてほとんどが機嫌良さそうに笑っている。

 音を立てて降る雨に起こされて、依織はぼんやりと天井を眺めた。ベッドの中で身じろぎをすると頬に冷たいものが伝う感覚があり、自分が涙を流していることに気がついた。

 ゆっくりと体を起こし、手の甲で頬を拭ってため息をつく。

 雨に誘われて、高校時代の夢を見ていたようだった。

 雨が軒先から落ちてポタポタと音を立てている。

「……雨だれ……」

 依織は窓の外に目をやると、ポツリとつぶやいた。

 ふと時計に目をやると時計の針は四時半を指したところだった。もう一度大きくため息をつくと、依織は再びベッドに倒れ込んだ。そのまま静かに目を閉じる。

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