episode3-5 雨と南東風が運ぶ言葉
耳が聞こえなくなって以来、突然途切れた日常を受け入れられなかった光は、ほとんど言葉を発することがなくなっていた。高校に入学して環境が変わると、誰かと話すことが一層難しく感じられた。
誰かと話すことを取り戻したきっかけは、光がペンケースを落としたことだった。
落とした音に気がつかず、それを拾ってくれたのがみな実だった。そのとき、みな実はおもむろに自分のペンケースを光の目の前に差し出してきた。そこには、時代遅れのキャラクターが描かれたキーホルダーがぶら下がっていた。
「おそろいだね」
みな実の唇がそう動いた気がした。
光は自分のペンケースに視線を動かす。みな実のキーホルダーと同じものが光のペンケースにもつけられていた。小学生のときに流行ったキャラクターを、時代遅れになってもなんとなく気に入っていて、外さずにずっとつけたままになっている。
たったそれだけのことだった。それをきっかけに、みな実は光の世話を焼くようになり、光は「誰かと話す怖さ」が薄らいでいった。
次の更新予定
2024年9月21日 21:00
祈りの光を君が描く世界で 理唯 @padawan-panda
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。祈りの光を君が描く世界での最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます