第16話 ロールバック


 暗闇の中、俺は自分の手を触ってみた。自由に動く。意識もある。ただ、周りは暗闇だ。自分の座っている場所を手さぐりで確認してみる。段差があるので階段のようだ。


「階段のようだ」?


 俺は螺旋階段まで移動できたのか? 

 四つん這いになって自分の位置を確かめようとした時、再びガシャンという大きな音が響いて、俺のいる場所が明るくなった。


 螺旋階段。


 俺は立ち上がった。


 螺旋階段の途中に立っている。

 上を見上げる。階段はどこまでも続いている。

 下を見下ろす。やはりどこまでも続く階段が広がっている。


 やった……!!


 俺はループから抜け出たのだ。興奮のあまり息が荒くなった。


 しかし、今明るいのは階段だけだ。その周りにあるはずの数々のスタジオは見えない。階段の周りには、ただ暗い空間が広がっている。


 こんな中でどこに行けばいいんだ? 

 まだ、蕪を植えていたときの方が居場所があるだけましだったのでは? 

 不安が頭をもたげたとき、スタジオ ライトが点灯するようなボッという音がして、螺旋階段の周りが急に明るくなった。


 何十ものスタジオが階段の周りに現れる。

 俺のすぐ近くにあるスタジオではドームの中にドラゴンとモザイク状の勇者がいた。

 しかし、蕪を植えている村人はいない。ただ、蕪と人参が植わった畝が見えた。


 再び、ガシャンという音が聞こえると、幾つものスタジオたちが螺旋階段の周りでゆっくり回転を始めた。


 そのスピードが徐々に早くなる。

 ちらちらと目前を通り過ぎるスタジオでは、中にいるドラゴンや勇者がビデオを巻き戻すように、通常の時系列とは逆に動いていた。


 俺はつぶやいた。


「……ロールバックだ……」


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