第11話 そして僕は蕪を植える
蕪を植える。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。
気が付くと俺は蕪を植えていた。
これで九千五百四十八回目だ。
なんでそんな正確に回数が分かるかというと、見えるのだ、カウンターが。
俺が自分の作ったゲームの中にいると理解してからは、すべてのオブジェクトにコードが重なって見えるようになった。
例えば戦っているドラゴンを見ると、今実行されているコードが半透明に重なって見える。
この間はバグを見つけてしまった。
勇者が来るたびに、勇者の解像度が変わるのだ。解像度が変わるのは端末に依存するので当然だが、ときどきドット絵みたいな勇者が来る。
なんでかな、と思ってコードを見ていたら、勇者を描画する変数に float を使う代わりに half を使っていやがる。
half を使うと精度が半分になる。つまり、32 bit で描画するところが 16 bit になる。多分、コーディングした奴が電力節約とか速度を上げるために half を使ったんだと思うが、精度が本当に半分になるかどうかはユーザーが使う端末によって変わる。half になっていても float と同じ扱いになって精度が下がらない端末もあるし、がっつり半分の精度にする端末もある。
ギザギザになっている勇者は半分の精度になった端末から来たんだろう。テストでこの問題は見られなかったので、「テストでは OK だが実機で使うとヘン」という面倒くさいタイプのバグだ。
どうやって修正するか……。float に書き換えて、勇者コンポーネントだけ再ビルドすれば治るよな? 全部ビルドし直しとか言ったら嫌だな……。
空に閃光が瞬いたので、はっと我に返った。
いや、ゲームに転生してまでバグの心配してるって、俺の社畜根性もなかなかじゃね?
ドーン。……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます