第10話 死因あるある(おばあさんを救わないバージョン)


 ガチャリ、とドアが開く音がして目が覚めた。

 眠い目をこすりながら起き上がると、ドアを開けた男が「うわっ!」と声を上げた。

 そちらを見ると、城崎だった。


「びっくりさせんな……。なんだ、お前徹夜したのか」


 城崎は胸の当たりを擦りながら、俺の方に歩いてきた。


「誰のせいだと思ってんだ、ああ?」


 俺は欠伸をしながら答える。


「……すまん」


 謝りながら城崎は起き上がった俺の横に座った。


「……あったけえ」


 ソファに腰掛けた尻が温かったらしい。


「寝てたからな」


 俺はまた欠伸をした。


「じゃ、少しは寝られたってことか」


 城崎は持っていたチェーンのコーヒー ショップの袋から紙コップに入ったコーヒーを出して俺に差し出した。


「自分のだろ」


 そう答える俺に城崎は「また買ってくるから」と言って、コーヒーを突き出すように俺に渡した。

 俺はありがたく受け取った。


「これも食え」


 城崎は袋ごと俺に渡すと、ロビーの隅にある自販機へ歩いて行った。その後姿を見送ってから、俺は腕時計に目を移した。

 まだ七時半だ。

 城崎もやることが沢山あるんだろう。


 袋の中を覗くと、ハムとチーズのサンドイッチが入っていた。包装を開けて一切れを取り出す。自販機で缶コーヒーを買って戻ってきた城崎に残りのサンドイッチを渡した。


「全部食えよ。お前のことだから夕べっから何も食ってないんだろ」


 城崎はそれを俺に押し返そうとする。


「二つは要らん」


 俺はサンドイッチを頬張りながら答えた。城崎は俺の横に腰掛けて、缶コーヒーを開けた。


「一旦、家に帰るか? 社長には言っとくぞ」


 城崎の言葉に俺は首を振った。


「バイトの担当してるヤツで上手くリンクできないのがある。夕べ見てやれなかったから、今朝見ないと」

「……無理すんなよ」


 城崎は苦笑した。


「誰が無理させてんだ、あほ」


 サンドイッチをコーヒーで流し込んで、俺は立ち上がった。


「顔洗ってくる」


 申し訳無さそうな城崎を後に、俺は廊下に出た。


 トイレに向かうと、入り口に「清掃中」の看板が立っていた。

 下のフロアのトイレに行こうと非常階段のドアを開ける。少しくらっとした。さすがに寝不足だ。


 午前中にリンクの問題が片付いたら、午後に何時間か昼寝をさせてもらうかと思いながら、階段を一歩踏み出した。


 その途端に目の前がふっと暗くなった。あるはずの階段に足が届かない。そのまま俺はバランスを崩した。


 階段の手摺が頭の上に見え、足の下に天井が見えた。

 どすん、どすんと背中に衝撃を感じた。

 階段の角が当たっている感触はあったが強い痛みは感じなかった。最後にガツン!と後頭部を打った。頭が一度ボールのように跳ね上がって、床に転がるのがわかった。ぼんやりと暗くなっていく天井を見上げながら冷静に考えた。


(ああ、俺、階段落っこちたんだ……。このまま死んじまったりするんだろうか……)


 そして、そのまますべては暗闇に消えた。


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