第4話 すぐ死ぬ村人誕生秘話

 この戦いのシーンのプロトタイプでは、村は出てきても村人はいなかった。しかし、アーロン ゲームズとのレビューの際に、なんだか寂しいと言われて村人が描画されることになった。


 二回目のレビューでは、ドラゴンの尻尾が飛んできているのに村人に何の変化も無いのは変だ、と指摘された。


 モブの動画まで入れた日にはゲームの動作が重くなると俺は言ったが、アーロンのゲーム プロデューサーは聞かなかった。アーロンでは最近、自社で開発したソフトウェア型のアクセラレーターとレンダリング エンジンを導入していて、ゲームの処理速度が飛躍的に上がっていた。それを受けて、容量の大きく処理速度も早いサーバーへの移行も決まっていた。プロデューサーは、このソフトウェアとサーバーの性能に過剰な自信を持っていたからだ。


 アーロンからはゲーム ディレクターの山口やまぐち秋穂あきほも同席していた。山口は愛想は無いが、プログラミングに関しては大きな信頼を置ける相手だった。新しく開発したアクセラレーターもレンダリング エンジンも、彼女が指揮を取って完成にこぎつけた。山口もモブの動画化には反対していた。自分が手掛けたソフトウェアの性能を知っているからこそ、動作の負担を考えて異を唱えていたのだが、ゴリ押しのプロデューサーに押し切られてしまった。


 俺はヤケクソで、村人が閃光に驚いたり、ドラゴンの尻尾や勇者の盾から逃げ回ったりする動作を追加した。


 そして、三回目のレビューのときに、プロデューサーは更に言った。


「これ、一人ぶつかって死んじゃうと面白いんじゃない?」


 その残酷なコメントを受けて、「すぐ死ぬ村人」がコーディングされた。

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