第5話 社畜に無理ゲー

 この仕事をした当時、忙しくて俺はかなり病んでいた。


 アーロンが開発したアクセラレーターとレンダリング エンジンは確かに良く出来ていた。しかし、開発にあたって事前学習の機会が与えられるでもなく、プログラマーは実際にコーディングしながら学習していくしかなかった。


 さらに、前のバージョンとの連携も各下請けに任されていた。俺は、新しいコーディングの習得とアルバイトの指導、旧バージョンとの連携で手一杯だった。


 しかも、ゲームのアップデートはもう発表されていて、納期は決まっていた。


 さらにアップデート後には、サーバーの引っ越しが控えていた。新しくアクセラレーターとエンジンを積んだこともあるが、ゲームにそこそこ人気が出てきて、ユーザーが増えた。ユーザーからのアクセスが集中する時間帯では、今のサーバーが処理しきれなくなっていたのだ。


 サーバーの引っ越しの期間はゲームの修正やアップデートが出来ない。つまり、それまでにプログラムに積み残しが無いようにしておかなくてはならない。


 それなのに、レビューをするごとにああでもないこうでもないとアーロンは言う。俺の担当シーンだけでなく、ほかの担当の連中も短い作業期間の中、夜中まで押せ押せで働いていた。


 三回目のレビューで「すぐ死ぬ村人」を作れと言われたときは、俺は頭の中でキレ散らかした。


「リリースまであと一週間もねえじゃねぇか!! 

「こんな時期に新しくコーディング追加して、テストでエラーが出たらどうすんだよ! テストでエラーが出なくても、本番環境に移植してエラーが出たらどっからやり直したらいいんだよ! 

「お前、自分で書き直せるのか!!」


 しかし、一介のプログラマーがそんなことを言えるはずもなく、俺は黙ってうつむいていた。


 代わりに、俺の同期で既にプロジェクト マネージャーをしている城崎きのさき柊太朗しゅうたろうがにこやかに返事をした。


「わかりました。それでは明日までに書き直します」


 レビューが終わって会議室を出た俺は城崎を睨んだ。城崎は気まずそうに、しかし、そのイケメンを最大に駆使したほのかな微笑みを浮かべながら「悪いな」と言った。


 俺が女だったら、頬を赤くしながら「城崎さんのためなら徹夜してでも頑張ります!」と言っただろう。


 俺はなにか悪態でも吐きたかったが、上手い言葉が見つからなかった。ようやく出て来た間抜けな脅し文句を言って背中を向けた。


「俺が過労死したら化けて出てやる」

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