第15話 空き容量が不足しています

 ……。


 蕪を植える。

 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。

 六つ、七つ、八つ、九つ、十。


 気が付くと俺はまた蕪を植えていた。


 ちゃんと十個植えている。shift コマンドは有効なままらしい。


 良かった。

 俺はしばらくの間、蕪植えループに留まることにした。

 サーバーの引っ越しの後は動作が安定しない。移行したデータの内部に食い違いが起きていないか確認してから、またループ脱出を考えようと思ったのだ。


 しかし、引っ越しは上手く行っていないようだ。ドラゴンは動きが異常に遅いし、勇者はドット絵を通り越して、エロ ビデオのモザイクみたいになっている。表示させてはいけないものが右往左往しているような感じだ。


 俺自身はドラゴンと同じ常駐関数なので、ドラゴンと一緒にスローモーションになっている。


 勇者自身はモザイク状になっているが、動きのスピードは通常のままだ。


 勇者はドラゴンの動きが遅いのをこれ幸いと、猛攻撃を仕掛けている。

 解像度が低くても、ともかくドラゴンに攻撃が当たればポイントとしてカウントされるようだ。ドラゴンが落ちるのも時間の問題だろう。


 俺はと言えば、六つ目の人参を植え始めて領域外に出たところだ。俺はドラゴンと勇者の戦いに目を据えた。


 そして、ドラゴンと勇者の戦いの背景に見えるカウンターに気が付いた。フレームの時間経過カウンターだ。要はゲームの録画だと思ってくれればいい。これが一杯になりつつあるのだ。


 決められた容量しかないディスクに延々と自分がプレイしたゲームを録画していった時のことを考えて欲しい。

 ディスクのほとんどはこれまでに録画したゲームで一杯だ。残った容量でドラゴンを動かそうとしても、思うように滑らかに動いてはくれないだろう。また、勇者を表示させようとしても画面での表現に使える容量はもう残っていない。だから勇者がモザイクなのだ。


 つまり、このゲームはもうすぐ桁あふれで停止する――。


 閃光がきらめいた瞬間、俺は思いっきり背後の螺旋階段に向かってジャンプした。


 ガシャン――。


 大きな錠前に鍵を掛けるような音がして、全ては真っ暗になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る