第14話 コピペ


 五千八百九十六回目の蕪植えが始まったとき、俺はかなり焦っていた。


 え? 前のカウンター数から減っている? カウンターが九千九百九十九でカンストしたので、リセットされたのだ。正確には一万五千八百九十五回目だ。


 これまでに何回も俺がドームの外に居る間にドラゴンの尻尾や勇者の盾が飛んできたことがあったのだが、その度に俺は初期化されて蕪植えを始めていた。つまり、ドームの外に居るだけではループから抜け出すことができないのだ。


 畜生、どうすりゃいいんだ。


 俺は観察を重ねた。


 しばらくして気が付いたのだが、複数のスタジオが囲んでいるこの螺旋階段はゆっくりと動いている。めちゃめちゃのんびりしたエスカレーターのようだ。

 それと同時にそれぞれのスタジオもゆっくりと螺旋階段の周りを回転している。しかし、螺旋階段とは独立した動きだ。

 多分、多分だが、俺は勇者かドラゴンが死ぬ瞬間にこの階段まで退避しなくてはならないのだ。


 しかし、ゲームの強制力を振り切って階段まで行けるだろうか?

 その後、何度か試してみたが上手くは行かなかった。


 諦めかけたとき、不思議なことが起きた。突然、世界が暗くなったのだ。ゲームの途中で意識があるまま、暗くなるなんて今まで一度も無かった。


 不思議に思っていると、また電気が点くように自分のいる領域が見えた。ほっとしたのもつかの間、今度は景色が二重に見え始めた。村も野原も二重。ドラゴンも二重に見える。勇者も二重だ。蕪も人参もかぼちゃも二重になっている。


 目がおかしくなったのかと思い、周りを見渡すと領域の端が歪んでいる。


 それだけではない。ブラックホールのようなものがあるのだ。ブラックホールに星が吸い込まれていくのと同じように、その暗い穴に領域が次々と消えていくのが見えた。


 俺もあそこに吸い込まれていくのかと恐怖を感じ、そこをじっと見た。しかし、よく見てみると、消えていくのは二重になった領域のうちの一つだけだ。もとの領域はそのまま残っている。


 つまり、領域全体がコピーされて、コピーだけがどこかに移されているのだ。


 俺はここで思い出した。


 アーロンによるサーバーの引っ越しが予定されていたことを。もしかして、これは新しいサーバーへの移行が始まっているのではないか?  


 だとしたら、俺はこちらに残るわけにはいかない。古いサーバーのデータは遅かれ早かれ消去されてしまうからだ。


 ブラックホールは徐々に近づいてくる。


 もうドラゴンは半分以上吸い込まれてしまっている。


 俺は覚悟を決めた。


 だんだん大きくなるブラックホールに向かって——俺は飛び込んだ。


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