第13話 shift コマンドが実行されました


 ……。



 蕪を植える。

 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。


 ……六つ、七つ、八つ、九つ、十。


 やった!!!!


 shift コマンドが実行されたのだ! 

 嬉しくなってへそに繋がっている関数を見てみると、「;」の上部にある「・」が消えて「,」(カンマ)だけになっていた。

 カンマはオペランドの分割に使われるが前後に何も無いので実行時には無視されたに違いない。


 それに気が付いて、俺はゾッとした。消えたのが「・」だけで良かったが、下手をすればコマンド自体が消えていたかも知れないのだ。今後はむやみに腹を突き出すのは止めにしよう。


 ……いや、ちょっと待て。

 俺、腹突き出したよな? 

 それってプログラムに無いよな? 

 もしかしてゲームの強制力が落ちてるのか? 

 気合でどうにかなるのか?


 そう思って、人参を植える手を止めようと思ってみたが、それは無理だった。どんなに頑張って抵抗を試みても、俺の手は人参を植えていく。


 だが、一つ気が付いたことがある。六つ目以降の野菜を植えている間、俺は確かにゲームの領域の外に出ていた。


 それはテレビ スタジオでドラマを収録する様子にそっくりだった。


 ゲームの中から見ると、ドラゴンとの戦いの場は背後に山を背負った村の外れで、周りには山裾に向かって野原が広がっているように見える。

 しかし、実際には、ドラゴンと戦う領域だけが透明なドームに覆われていて、その周りはハリボテだ。勇者とドラゴンはドームの中でだけ戦いを繰り広げている。


 それだけではない。首を動かせるだけ動かして周りをぐるっと見てみると、幾つものドーム型のスタジオが円形に並んでいた。円柱の塔の内側にいるかのように、複数のスタジオが薄暗い中にぐるっと円陣を組むように浮かび上がっているのだ。そしてそれらのスタジオが囲む中心には螺旋階段があった。この螺旋階段を登ったり降りたりすることで、様々なスタジオ、つまりシーンに行けるようだった。


 これに気がついたとき、蕪植えループからの脱却に光明が差したように思った。


 後はドームの外に居る間に、ドラゴンの尻尾か勇者の盾が飛んでくれば俺は逃げ出せるに違いない。


 そう思った瞬間に閃光が走った。ちっ、次はかぼちゃの畝だ。今回は逃げ出せそうにない……。


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