第7話 村人関数

 Unity から入って C# や C++ なんかをちょっとかじっただけで、プログラマー気分になっているアルバイトのダラダラと長いコーディングをチェックするのは楽ではない。


 大雑把に言ってコーディングは短ければ短いほど処理速度も早いし、プロセサーへの負担も少ない。だからといって例外やセキュリティーの対策が無くても困る。


 再利用できるコードを駆使しながら、必要な処理をいかに簡潔に記述するか。コーディングには書いた人間の思考パターンが如実に現れる。面倒ではあっても、他人の頭の中を覗くことのできるコーディング チェックは嫌いではなかった。


 それでも物には限度がある。明日までに「すぐ死ぬ村人」を実装しなくてはならない。


 俺は、アルバイトたちに今日これ以降は絶対に邪魔をするなと宣言して作業に取り掛かった。

 その結果、俺は無事に邪魔されずにプログラムを書けただろうか? 否。


 アルバイトたちも同じ仕事の別の部分を担当しているのだ。やれ、ビルドでエラーが出ただの、他のコンポーネントとのリンクが上手く行かないだの、人の面倒ばかりを見て、ようやっと腰を据えて自分の作業を始められたのが夜の十時だった。


 徹夜は必至だ。城崎は罪悪感からか、帰る前に「弁当買ってきてやろうか?」などと俺に聞いてきたが、俺は「頼むからさっさと帰って一人にしてくれ」と答えた。


「すぐ死ぬ村人」は、ドラゴンの尻尾と勇者の盾に連動して動く。


 なので、ドラゴンと勇者の両方から呼び出せる機能、つまりは関数にしなくてはならない。となると、関数として呼び出す名前が必要だ。


suguすぐ_shinu死ぬ_murabito村人」と最初に書いたが、なんとなく可哀そうだ。ふと思いついて、「torqueトルク」と呼ぼうと思った。


「トルク」とはドリルなどの物体を回転させる力だ。蕪と人参とかぼちゃを植えるルーチンを死ぬまでぐるぐる回るのがトルクっぽかった。それに、人の都合でぐるぐる走らされてるこいつに自分を投影して、自分の名前、苳伸とうしんに近い名前を付けたかったんだと思う。そのトルクの力を利用して、そこから飛び出せ! とも思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る