第3話 モブを作るお仕事

 俺、阿部あべ苳伸とうしんは、このクラフト クエストの背景やモブを描画するプログラムを書いていた。


 俺は巣鴨にある「ドット ビット」というゲーム会社に勤めていた。


 ドット ビットは総勢十人の弱小下請け会社だ。それに二十人くらいのアルバイトを雇って仕事を回している。


 クラフト クエスト自体は「アーロン」という大手エンターテイメント会社が出している。アーロンには、ビデオや音楽などのコンテンツを扱うグループ会社が幾つかあり、このうちのアーロン ゲームズと呼ばれるゲーム専門の子会社がクラフト クエストを作っている。


 ドット ビットはアーロン ゲームズの数ある下請け会社の一つだ。うちの会社では、クラフト クエスト、通称「クラクエ」のクエスト モードでの勇者レベルのゲームの幾つかとクラフト モードの一部を作っていた。


 作ると言っても、ゲームのシナリオは既に決まっている。発注側お客様のアーロン ゲームズが提示した仕様に沿って、俺たちはひたすらコードを実装していく。


 俺の仕事は、この中でも最も地味な背景を書く仕事だった。地味なのだが、地味に面倒くさい仕事でもあった。


 それは、このゲームでは背景にも動画が使われているからだ。


 例えば、今、俺が村人に転生しているシーンでは、勇者に負けたドラゴンが爆発する。ドラゴン担当のプログラマーは爆発するドラゴンだけ描画すればいいが、背景の俺は、背景で爆発光を点滅させたり、飛んできたドラゴンの破片が背景の村や畑を破壊する様子を動的に描かなければならない。


 ドラゴンの動きに同期させる必要があるので、ほかのプログラマーが書いたドラゴンのコードと連携させて、必要最小限のコードとして記述する必要があった。


 背景の詳細は仕様では指定されていないので、割と自由に書ける分、アーロン ゲームズからあれこれ言われることも多かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る