すぐ死ぬ村人に転生したので shift コマンドで生き延びることにした
イカワ ミヒロ
第1話 転生先がすぐ死ぬ村人だった件
蕪を植える。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。
人参を植える。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。
次はかぼちゃ。一つ、二つ。
ピカッと閃光が走る。思わず頭を上げて空を見る。
……そこにはただ青空が広がっていた。
かぼちゃを植える作業に戻る。三つ、四つ。
ドーン! と大きな音がした。再び見上げると巨大な物体が接近してきて頭上に影を作った。
(なんじゃ、ありゃ。えっ、はっ? ……ドラゴンの尻尾!?)
それにぶつかって俺は死んだ。
……。
蕪を植える。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。
人参を植える。
一つ、二つ、三つ……。
ピカッと閃光が走る。頭を上げて空を見る。青空。
人参を植える作業に戻る。四つ、五つ……。
ドーン!と言う音がする。
頭上に何か飛んでくる。
(なっ……? ……勇者の盾!?)
それにぶつかって俺は死んだ。
……。
蕪を植える。
一つ、二つ……。
(あれ?)
(俺、これ、もうやってない?
(また蕪植えるの?)
ピカッと閃光が走る。頭を上げて空を見る。
(あ、そうだ。これでまた植え始めるとなんか飛んできて俺死ぬんだ)
蕪を植える作業に戻る。三つ、四つ……。
(いやいや、蕪植えてる場合じゃないから。逃げなきゃ!)
ドーンと言う音と共にドラゴンの尻尾が飛んできて、それにぶつかって俺は死んだ。
……。
蕪を植える。
もう俺は何回蕪を植えただろう。
多分、三百七十回頃を超えたとき、俺はやっと思い出した。俺が繰り返しているこのシーンがゲームの一部だと言うことを。
これは「クラフト クエスト」というソーシャル ゲームのドラゴンと勇者のバトル シーンだ。
蕪を植えている俺は、このシーンの南西端にいるモブの村人。
勇者となったユーザーがこのシーンに来ると、ドラゴンとのバトルが始まる。
勇者がドラゴンとの戦いに勝つときは、勇者の持つ武器から閃光が走る。それから三秒後にドラゴンが爆発する。ゲーム領域の端にいる俺は爆発したドラゴンの尻尾に当たって死ぬ。
勇者がドラゴンに負ける場合は、ドラゴンが口から閃光を吐く。三秒後に勇者の盾が閃光に弾き飛ばされ、その盾に当たってやっぱり俺は死ぬ。
村人にしてみればとんでもないシナリオだが、このシーンは俺が作った。
いや、厳密に言うと、俺はこのシーンの背景とモブをプログラミングした。
俺は「クラフト クエスト」のゲーム プログラマーだったのだ。
ゲーム プログラマーなんて言うと華々しく聞こえるが、俺の仕事はバトル シーンのモブと背景を描いて動かすことだった。
そして今、俺は、なぜか自分が描いたゲームの中のモブとして四百二十一回目の死を迎えようとしていた。
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