イベント外の戦闘
ユラン一人であれば、正直この場はなんとかなったと思う。
予想以上に魔物の数が多かったとはいえ、倒すことだけに集中すれ問題ない。
そもそも、ユランが学園に向かう道中に「なんか騒がしいな」と、様子を見に行かなければこんなことにはなっていなかったのだが。
とはいえ、まだ屋敷を出て数時間しか経っていない距離で問題があれば、屋敷にまで問題が飛び火してしまう恐れがある。今、屋敷にはティアがいるというのに。
だからこそ御者に無理を言って、騒がしい森の中に連れてきてもらった。
もう一度言うが、確かに溢れていた魔物の数は予想外だった。しかし、それでも一人であれば倒せそうな数。
ただ、完全に予想外は───
(なんでここに主人公がいるの……!?)
見間違えるわけがない。
何度もパッケージやゲーム内で見てきた。
艶やかな金の長髪に、端麗で美しい顔立ち。琥珀色の瞳と整った鼻梁。お淑やかで落ち着いた雰囲気───間違いなく、『きらこい』の主人公であるソフィアだ。
ただ、どうして?
どうして、ここに主人公がいるのだろうか?
(確かに、ストーリーのほとんど学園の中の話だったけどさ、お外にいるならいるって少しぐらい説明してほしかった……言ってたかもしれないけど……ッ!)
ユランは走り、呆けるソフィアの体を抱える。
「きゃっ!」
突然のことにソフィアから変な声が聞こえてくるが、ユランは気にせず森の中を走っていく。
こんなことなら、馬車を先に行かせるんじゃなかった、なんて思いながら。
「なんでこんなところにあなたがいるの!? ︎︎っていうか、一人寂しく隠れんぼしてた割には鬼さんの数多くない!?」
「わ、私は単に学園の依頼を受けて洞窟の調査をしに来ただけです! ︎︎こんなの、知っていたら……」
ユランはしりすぼみになっていくソフィアの言葉を聞いて考える。
(確かに、休みの日は決まって学園が用意した依頼を受けるイベントがあったような……家に仕送りしなきゃいけないとかで。ってことは、今回はその何回もやってきたうちの一つにたまたま僕が出会っちゃったってこと?)
たまたまにしては、中々刺激的で厳しい状況だけど、と。
ユランは懐から太い釘を取り出し、宙に浮かせる。
(いや、考えてる暇ないか! ︎︎そもそも、持ち合わせの金属でしか戦えない森とか、多勢に無勢な状況とか相性悪いんだし……ッ!)
ユランは浮かせた釘ではなく、先程魔物に叩き込んだパイプを磁力で引っ張り、そのまま横薙ぎの振るった。
頭部が潰され、赤黒い液体が散っていく。
しかし、その上をすぐに別の魔物達が進んでいった。
「ほんと、どれだけいるのこの魔物!? ︎︎繁殖期の夫婦の営みを荒らされたからこんなに集まってるってわけじゃないよね!?」
「わ、私にも何故いきなり魔物が現れたのか……いきなり、洞窟の中から出てきたんです!」
「うん、分からない! ︎︎でも、間違いなく全部相手にしてたら遅刻コース確定! ︎︎入学初日から不良児確定だねやったねちくしょうッッッ!!!」
あとどれぐらい倒せば終わるのか。
そこが見えないからこそ、ユランは声を大にして悪態をついてしまう。
「あ、あの……私のことはいいですから」
「…………」
「多分、足でまといになっているのは分かっています。だから……」
背中越しに、震える声が聞こえてくる。
察しているのだろう……自分のせいで、攻め切れないということを。
だからこそ、抱えている自分を見捨ててほしい……巻き込みたくないから。
けれど───
「はぁ? ︎︎なんで見捨てるみたいな話になるの!?」
ユランは真っ直ぐ、ソフィアに視線を向けることなく言い放った。
「いくらあなたが僕にとって危ない存在でも、ここで誰かを見捨てる理由にはならないッッッ!!!」
ソフィアの目に涙が浮かぶ。
私は平民で。彼は馬車でやって来たところを見るに貴族で。
今まで、平民と嘲笑われたことはあった。
けれど、王太子殿下や騎士団長、宰相の息子達もちゃんと分け隔てなく接してくれた。
でも……でも、だ。
それはあくまで関わりがあった前提で、もしかしたら容姿に惹かれたとかいう下心があったからかもしれなくて。
しかし、この子は。
この少年は、初めて会った私を助けようとしてくれている。
さっき、他の人達は私を囮にして逃げたというのに───
「……っていうか、姉さんの性格を直そうとしてる僕が模範にならきゃいけないっていうのに」
ユランはいきなり足を止めた。
ソフィアを下ろし、下げた拳をゆっくりと上に引く。
すると、黒い塊が───地面に埋まっていた砂鉄が、一気に浮上し鞭のような形を形成する。
「大丈夫、安心して……目的は変わっちゃったけど、やることは変わらないから」
微細な振動を加えた砂鉄の鞭が横薙ぎに振るわれる。
胴体だろうが、頭蓋があろうが、途中に木や岩があろうとお構いなし。
容赦ない断罪が、魔物の群れに向かって襲いかかった。
「さぁ、
そして───
「えー、ユーくんが傷つく姿とかお姉ちゃんは見たくないわけでして」
ゴゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ、と。
周囲一帯がいきなり炎に包まれた。
すると、紅く燃え盛った中から……一人の少女が姿を見せる。
「むふぅー! ︎︎間一髪、的な? ︎︎誰の許可を得てユーくんの背中を追い回してんだ、クソが」
その少女は、見慣れた可愛らしい容姿をした義姉であった。
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