王女殿下との戦闘
なんて傍迷惑でバイオレンスな女の子なのだろう。
自分は平和に生きたいだけ。姉が持ってくる破滅フラグを回避できればそれでいいと思っている。
生粋の平和な日本出身な男の子が闘争心に溢れるわけがない。
なんだよ、ビジュアルだけかよゲームにあんまり出てきてもないのに。
ユランはそんなことを思いながら、戦いたいというサーシャの話をキッパリと断った。
そして、それから学園説明など終えた数時間後―――
「さぁ、
学園の敷地内にある訓練場で、第二王女であるサーシャが上機嫌な笑顔をユランへ向けていた―――剣片手に。
『おい、サーシャ様が模擬戦するんだって』
『なんでそんなことに? しかも、相手って確か今日王太子殿下を蹴ったっていう……』
『どうやら、王太子殿下の件でサーシャ様が怒ったって話が』
周囲には、噂を聞きつけた生徒達がびっしりと集まっていた。
貴重な食事の時間である昼休憩だというのにこれほど人がいるのは、恐らくサーシャという女の子の人気が凄まじいからだろう。
(どうしてこんなことになったの……?)
確か、ちゃんときっぱり断ったはず。
にもかかわらず、急に呼び出されたかと思えば美少女が見惚れるような笑みと剣を向けていて。
いつの間にか、退路を塞ぐかのようにギャラリーが集まっていて。
本当に不思議で仕方なく、ユランは辟易とした気持ちになりながら肩を落としていた。
加えて―――
「きゃーっ! ユーくん頑張ってー! お姉ちゃん、ユーくんのかっこいい姿を超期待してるよー!」
―――どうしてか、授業もなく帰っていてもおかしくないはずの姉が、訓練場の客席で応援していた。
それが余計にもユランの涙を誘う。
「ティアさんもいるなら、情けない姿は見せられないわね。私もちゃんと気合い入れて臨まないと」
「あ、うん……あの姿を見てそう思うんだったら僕は何も言わないよ」
どう見てもハートマークが浮かんだ瞳がユランにしか向いていないが、気にしないでおこう。
たとえいつ準備したのか不思議に思う『ユーくんふぁいと♡』プラカードを堂々と掲げていたとしても、サーシャに不満がないのであれば気にしないでおこう。やる気になってほしくはないが。
「っていうか、姉さんの評価よりもあっちのお兄さんの方じゃない? ︎︎なんか観に来てるけど」
ティアとは反対方向の客席。
そこには、蹴り飛ばしたカエサルの姿があり、横には心配そうに見つめるソフィアの姿もあった。
こうしてパッケージでよく見るキャラクター二人が横に並んでいると「本当にゲームの世界なんだな」と、しみじみ思う。
「なんで、兄さんの評価なんて気にしなくちゃならないのよ? ︎︎ソフィアさんはいい人だって分かっているけれど、横にいる鼻の下しか伸ばさない身内なんかクソどうでもいいわ」
「え、でもこの模擬戦ってお兄さんの仇討ちなんじゃ───」
「シバいてくれてありがたいのに、仇討ちなんてしないわよ」
単に、と。
サーシャは剣を肩に担いで獰猛な笑みをユランへ向ける。
「仲良くしてメリットがあるかどうか確かめたいだけよ」
「ちくしょう、流石は姉さんに憧れるだけはある傍迷惑極まりないッッッ!」
そして、開始の合図もないまま。
サーシャが剣を肩に担いだままユランへ肉薄した。
「いや、僕まだ
トップスピードで眼前に現れたサーシャへ舌打ちする。
抜く、のではなく下ろす。大槌で殴るかのように叩かれた剣を寸前で受け止め、ユランは思わず冷や汗を浮かべてしまった。
「お、も……ッ! っていうか、勝手に遊んじゃ怒られるんじゃない!? ︎︎特に物分りのいい大人達とか! ︎︎さっき身内を蹴って怒られた僕を慮って!」
「あら、大丈夫よ……今は昼休憩、在校生はほとんどいない。なんなら、教師の許可も事前にもらっている。レディーがここまでお膳立てしたんだもの、付き合ってくれないと可愛い女の子が恥かいちゃうわよ、紳士さん?」
「女の子っていつも都合のいい時だけ女の子ポジを振りかざしてくるよね!」
「ふふっ、それが女の子だもの」
あまりにも重い。
華奢な女の子から生まれるような力ではないはずなのだが、容赦なく叩き込まんと迫ってきた。
一撃、二撃、と。ユランは辛うじて剣で受けるが───
(ちくしょう……知ってる型じゃないし、そもそも剣ってそんなに得意じゃないしで
恐らく、一撃が重い理由はサーシャの独特な型によるものだろう。
まるで大槌でも持っているかのような振り。大槌とは違って軽い分、隙を与えない速度が出ている。
大振りだからこそ生まれやすい隙を狙いたいが、サーシャの速さとユランの技術不足が打開には至らない。
「ほらほら、どうしたの!? ︎︎兄さんを倒した実力、魅せてみなさいよッ!」
ごッ! ︎︎と。
サーシャの蹴りが鳩尾に叩き込まれ、ユランの体が吹き飛ばされる。
そのまますぐさま追いかけ、転がっている最中にもう一度蹴りを放った。
「ぐっ……!」
一度目よりも威力があったのか、勢いよく訓練場の端まで転がっていくユラン。
特に反撃がくる様子もない。勝負あったか? なんて、サーシャは剣を担ぎ直し───
(この程度……?)
いや、と。
サーシャは口元を歪める。
(ティアさんの弟が、この程度なわけがない!)
そして、その思考を肯定するかのように。
「………………ぁ?」
転がっていたユランの体がピタリと止まる。
それと同時に、サーシャの持っていた剣が重くなった。
間違いのない違和感。そこに疑問が浮かんだ瞬間、すぐさま思い切り引っ張られた。
「はぁ!?」
「ぃったいなぁ……ッ!」
もしも、ユランが何をしたかと分かっていれば、すぐさま剣を手放しただろう。
しかし、手放さず剣が引っ張られるがまま手を離さないのは、剣で戦っているという前提の意識を捨てられなかったから。ある意味『絶対に剣だけは手放すな』という剣士というスタイルのクセが裏目に出た形。
地面から足が浮き、勢いよく引き寄せられる先……そこには、同じく引き寄せられたユランの姿が───
「マジでムカついた……一発ぶん殴るけど、文句は受け付けないからねッ!」
体勢不十分と、準備万全。
どちらが優位なのかなど、答えるまでもなく分かる。
磁力によって体を互いに引き寄せ、速度が乗ったユランの拳がサーシャの腹部へとめり込んだ。
「がッ!?」
あまりにも重たい一撃。
華奢な体は地面へと崩れ落ち、起き上がることすらままならないサーシャはゆっくりとユランの姿を見上げた。
「今日一日だけで二人も王族をノシたわけだけど……そろそろ姉さんの前に僕が打ち首にされないか心配になっちゃう」
まるで「ようやく子供とのおままごとが終わったよ」とでも言わんばかり。
悠々とため息をつく五体満足のユランの姿が、見上げるサーシャの視界に映った。
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