破滅フラグに巻き込まれないよう努力していたら、悪役令嬢な義姉が重度のブラコンになってしまった件
楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】
プロローグ
『きらめきを越えて真なる恋を』、略して『きらこい』。
『きらこい』はよくどこかで見かけるような乙女ゲームだ。
主人公である女の子が数々の男の子と出会い、各キャラクターと成長して恋に落ちていくというものなのだが、少し珍しい要素として『必ず登場しては死亡する悪役令嬢の存在』というのがある。
時にラスボスになり、時に闇落ちして中盤で立ちはだかり、成長の糧にされたり、ふとしたイベントで断罪されたり。
ユーザーからは「スカッとするが、可哀想なキャラ」、「噛ませ犬」、「ざまぁ要因」と評され、ゲーム内ではかなり厳しい立ち位置にあった。
そして、そんな悪役令嬢には、義理の弟が存在していた。
公爵家のご令嬢である悪役の父である当主が、次期当主を求めたが故に孤児院から拾ってきた少年。
その少年は傍若無人な姉に従わされ悪事に加担したり、振り回され暴力を振るわれたり、姉のために戦ったり。
主人公の女の子には救われず、最後はどうしても悪役令嬢と共に死んでしまう不遇キャラクター。
要するに、姉が破滅フラグを持って来る度に命を落とすのが、この義理の弟である。
もし、こんなキャラクターに転生してしまったら、どうするだろう?
たとえば───
「そ、そんなの……必死に力をつけるしかないじゃないか……ッ!」
いつ義姉が破滅フラグを持って来るか分からない。
ちょっとしたイベントが最終的に破滅フラグに繋がる可能性があるのだ。その時をなんとか生き残るために、力をつけないと。
そのためには、必死に努力をした。違う世界の知識や常識を身に着け、ゲームの経験を活かして魔法の練習も剣の練習もやり込んだ。
「いいや、それだけじゃダメだ! そもそも、姉さんが闇堕ちするから僕が死ぬんじゃないかッ!」
だから、義姉の性格を治そうと必死に歩み寄った。
癇癪持ち、我儘、嫉妬深い、傍若無人。こんなクソみたいな性格を治すために毎日話しかけた、一緒に遊んだ、時には姉が危ない目に遭っている際に身を挺して守った。
―――すべては、義姉が持って来る破滅フラグに巻き込まれないために。
そんなこんな、転生してから五年。
悪役令嬢の弟———ユラン・バーナードはようやく十三歳。『きらこい』本編の舞台である学園に入られる歳にまで成長した。
そして———
「ユーくん、結婚しよー!」
……義姉がブラコンになった。
「一日の始まりから何を言ってるの!?」
気持ちのいい目覚め、心地よい陽気が窓から差し込んでくる頃。
バーナード公爵家のユランの部屋にて、そんな甲高い可愛らしい声が響き渡った。
ベッドからようやく起き上がったユランの視界には、艶やかな長い銀髪を携えた少女が一人。
クビレと出るところはしっかりと出ている、女の子には憧れの肢体。
美しくもあり、それでいてあどけなさも感じるような端麗な顔立ちに、透き通ったアメジストの瞳。
百人が百人、目が合えば思わず見惚れてしまいそうな美少女。
この少女こそ、今年十五歳になるユランの義姉———ティア・バーナードであり、『きらこい』で必ずどのキャラクターのルートでも出てくる悪役令嬢である。
「ちっちっちー、甘いよユーくん……私は朝目覚めたら、なんかこの想いがすぐ頭に浮かんじゃうんだよ! だから言わずにはいられないわけでして!」
「朝一番で弟に対して思ってほしくないことが浮かびやがった、この姉……ッ!」
「ねぇ、ベッドの上でお出迎えってことはさ……その、そういうことだったりする? きゃー! ユーくんってば朝一番からお盛ん―――」
「ダメだ、この子話が通じないッ!」
ほんと、どうしてこんなことになったんだろう?
ただ自分は、姉が破滅フラグを持って来ないよう、必死に歩み寄っていただけなのに。
それがどうして、家族の関係を壊して新しい家族の形を作ろうとするブラコンに育ってしまったのか。
ユランは思わず両手を覆ってさめざめと泣く。すると、ティアはユランの横に腰を下ろして、そっと頭を抱き寄せて撫で始めた。
「……ねぇ、いきなり何?」
「ん? いやー、ユーくん泣いちゃってるから。ユーくんがしてくれてたことをしてあげたら元気になるかなって」
「姉さん……」
「あと、ナニも元気になるかなって」
「最悪だ! 最後の一言で本当にムードが最悪になったッ!」
元々、さめざめとないてしまった原因はこいつのせいだろうに。
「けど、嫌じゃないでしょ?」
「ご褒美です」
「やっぱりー! ユーくんは口では嫌々言いつつ、本当に私の胸が大好きだよね♪」
「……フッ、凄いよ姉さん。これほどまでに見事な誘導尋問を僕は見たことがない」
「え、普通に聞いただけなんだけど?」
やるね、姉さん。
そんな感心をユランが向けていると―――
「ふふっ、懐かしいなぁ……ユーくんがこうしてくれたこと」
ティアは不意に、懐かしむように口元を緩めた。
「昔は「公爵家のご令嬢として恥ずかしくない淑女になりなさい」ってプレッシャーが強かったっけ? それで、泣く日が多かったんだけど……その度にユーくんが慰めてくれて」
「そ、そんなこともあったかなぁー?」
「だからね、私はユーくんが好きになっちゃってユーくんと結婚したくなっちゃったわけで!」
「本当にそんなことがあったのか分からないなー!」
知らない、本当に知らない。
確かに慰めたりしたけど、決してここまでブラコンにさせた心当たりがないのだ。
「ユーくん、安心して……義理な関係だから子供ができても大丈夫なんだよ?」
「真剣な顔で諭してるとこ悪いけど、その前に世間体と相手の意志という壁があるから安心できないっていうのに気づいてほしい……ッ!」
まったくもう、と。
ユランは立ち上がり、いそいそと部屋から出て行こうとする。
「(……まぁ、それだけが理由じゃないんだけどね)」
「ん? 何か言った?」
「ううん、なんでもないっ! ご飯食べに行こっ!」
何か呟いていたような気がするが、それを気にさせる間もなくティアがユランの腕に抱き着いてくる。
これもいつものこと。
ふくよかな感触に相変わらずドキドキしながら、ユランはティアと一緒に部屋を出て行く。
「あ、そうだユーくん聞いてよ! 昨日嫌なことがあってさー!」
ふと、唐突に。
ティアが頬を膨らませながら話を振ってくる。
「なんか王太子くんがすっごい失礼なこと言ってきてねー」
「うん」
「思いっ切りぶん殴っちゃったんだけどー」
王太子→ティアの婚約者(予定)
王太子→ティアを断罪するゲームのキャラクター。
そんな相手を……殴った。どうやら思いっ切り、らしい。
「なにやっとんじゃァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」
舞台である学園に入るのはこれから。
すでに入学してしまっている義姉の普段には口出しができないというのに。
せっかく破滅フラグを回避しようと義姉を変えたのに。
それなのに、この義姉は自ら断罪するキャラクターと関わり……ぶん殴ってしまった。
なんで、どうして───
「なんでわざわざ破滅フラグを持ってくるんだよォ……」
「どうしたの、ユーくん? 膝着いて泣いちゃって?」
わざわざ破滅フラグを持ってくるようなことをするのか?
ユランの破滅フラグも、義姉が変わったからといってどうやら変わることはなさそうであった。
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次話は12時過ぎに更新!
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