ティアとユラン
次回は18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ
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ティア・バーナードは、人から反感を買いやすい性格だった。
「……どこ見て歩いてるの? ︎︎私の前に立つなんて、よっぽど家を潰されたいみたいだね」
性格が酷かった頃。まだ十歳になる前に開かれたとあるパーティーにて。
ティアの酷い態度は、いつものように炸裂していた。
ただ、少し友人と話していただけの子爵家のご令嬢に、ティアは少し癪に触っただけで絡む。
『も、申し訳ございませんっ!』
「謝ってくれたから許してあげる……って言いたいとこだけど、結構腹が立っちゃったんだよねー」
子爵家のご令嬢とその友人は必死に頭を下げる。
相手は公爵家のご令嬢。社交界で嫌われている女の子だったとしても、自分とは立場が違う。
もしこのまま癇癪を買ってしまえば、家や自分の身に何か起きてしまうかもしれない。
だからこそ、少女は頭を下げながら怯えた様子を見せた。
その時───
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
一人の少年が割って入る。
短く小綺麗に切り揃えた茶色い髪に、端麗な顔立ち。
ティアがこの少年を「見知った」と表現するようになったのは、つい最近のことだ。
「なんで邪魔するの?」
「いやいや、邪魔するよまた変にいちゃもんつけてぶべらっ!?」
「うるさい」
「でも、これじゃあ姉さんただの嫌われぶべらっ!?」
義理の弟のクセに、高貴な血が流れているわけでもないのに、自分に歯向かってくる。
それが余計にも腹立たしく、ティアはいつものようにユランの頬をひっ叩いた。
しかし、それでもユランはめげずに少女から引き離すように自分の背中を押してくる。
「お、お叱りはご最もと思うんだけど……この場は抑えて。ほら、あんまり突っかかってると、友達ができなくなっちゃうよ? 皆と仲良くしないと、あとあと苦労どころかお涙ちょうだい演出発生するだけなんだってこれガチ」
ウザい。本当にウザい。
自分がこんな態度をしているのに、いつもいつも全然離れようとしない。
何か下心でもあるんじゃないか? ︎︎なんて勘繰ってしまうほど───
『な、なんだ!?』
『停電!?』
『明かりはどこだ!?』
と、その時。
会場の照明が突如として消えてしまった。
そして、
「……ぇっ」
ティアの意識も、そこで途絶えた。
♦️♦️♦️
次に目を覚ました時には、どうしてか馬車の中にいた。
「んーッ!?」
手も足も縄で縛られている。
口も、叫ばれないように手ぬぐいのようなものが巻かれてあった。
そして、目の前には黒装束の男達が何人も自分を見下ろして笑っている。
『案外呆気なかったな』
『まぁ、こんなガキ一人連れ去るぐらい余裕だって』
『あとは、このまま依頼主に渡せば終わりだな』
なんで、どうして?
ティアの頭の中に、いきなりの状況が呑み込めず疑問が浮かび上がる。
すると、男達の一人がティアの顔を覗き込んで嘲笑うような表情を見せた。
『ほんと、いい子にしてなきゃダメだぞー? ︎︎お前、どんだけ恨み買ったんだよ……今時死ぬまで虐め続けたい、なんて依頼こないぜ?』
死というワードがどれだけティアの心に響いてしまったことか。
体は動かせない、助けも呼べない、馬車に揺られている今、どこに向かっているのか、何をされるのか。
いつものティアであれば、思い切り叫んで「私を誰だと思っているの!?」とでも相手を叩いていたことだろう。
しかし、それができない。
疑問が頭を埋めつくし、ようやく別の感情が出てきたかと思えば───それは単純な恐怖であった。
当然だ、いくら傍若無人で我儘なティアでも、十歳に満たない女の子。怖がるな、というのが無理な話だ。
(怖い……)
怖くて怖くて仕方ない。
(誰か早く助けに来てよ……)
しかし、思った瞬間に気づいた。
果たして、今まで酷いことをしてきた人達の誰が私を助けてくれるだろうか?
両親にも酷いことばかり言ってきた。騎士には冷や水を何度も浴びせた。同い年の女の子には罵倒ばかり口にした。
誰が助けてくれる? ︎︎酷いことをしてきたからこそ、こうして恨みを買ったのではないか?
それでも、どうしても思ってしまう。
(誰かぁ)
気づいたとしても、来ないと分かっていても。
願わずにはいられなくて。
(た、助けてッッッ!!!)
そして───
「見つけた」
馬車の屋根が、突如落ちてきた───一人の少年も一緒に。
『は、お前誰……』
「言わなくてもいい話でしょ、それ」
その少年は、最近見慣れてしまった男の子だった。
さっきまで一緒にいて、さっき自分が思い切り叩いてしまった少年。
ユランは思い切り腕を横に振るう。
すると、崩れた屋根についていたパイプが思い切り男の頬を叩いた。
『ばッ!?』
「人の姉に手を出しやがって……いくらなんでも、こんな
そこからは酷いものだった。
狭い空間で、憤った男達が一斉にユランへ襲い掛かり、ユランが腕を振るう。
どうしてか、自分達が持っていたナイフも、突然現れた剣も、ユランが腕を振るっただけで男達に襲い掛かる。
『ふざけ……ッ!?』
『なんなんだよ、この魔法は!?』
『俺達が、こんなクソみたいなガキに……ッ!』
蹂躙。そんな言葉がよく似合う光景。
馬車は倒壊し、ティアの体は道へ投げ出される。
身を起こし、状況を確認しようと視線を上げた時には───馬車の残骸だけがそこにあり、ユランだけが立っていた。
そして、ユランはゆっくりとティアの下に近づき───
「あー、その……ごめんなさい。正直余裕なかったと言いますか、投げ出されるってことを想定してなかったですすみません」
自分がこうして地面に転がされてしまったことを謝罪しているのは分かる。
しかし、分からないことがあった。
「どう、して……」
「ん?」
「どうして、私を助けたの……?」
いなくなってくれた方がいいはずなのに。
今まで散々酷いことをしてきたはずなのに。
ユランは、たった一人で自分を助けに来てくれた。
わけも分からない魔法を使っていた。どうしてこれほどの実力を子供なのに持っていた。そこも疑問だったが、何よりもそれだけがティアの一番の疑問。
ユランは向けたれた言葉に、少しだけ頬を掻いて。
「僕は別に、姉さんに性格を直してほしいだけであって傷ついてほしいわけじゃないし。そりゃ、助けられるなら助けるでしょ……一応家族、だからね」
ユランは呆けるティアの体をおぶって、ゆっくりと歩き始める。
「姉さんがさ、今回のことでどう思うかは分からないけど、できたら反省して思い改めてほしいな」
そしたらさ、と。
ユランは何気なしに口にした。
「今日みたいに、僕は姉さんの傍に居続けるよ。誰も傷つかないハッピーエンドにできるなら、そっちの方がいいしね」
正直に言うと、ティアはこれからどうすればいいのか分からなかった。
未だに今の状況も整理できてないし、まだ恐怖が自分の体を支配している。
だけど、嬉しくて。
明らかに、これからも今日のことは忘れられないだろうなと思った。
伝わってくるユランの温かい体温。ユランの口から投げかけられた言葉。
忘れられない。忘れられるはずもない。
激しく高鳴る心臓。それに反するかにように、静かな道の真ん中で、ティアはユランの背中で思い切り泣いたのであった。
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