化け物な二人

次回は9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ


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 本格的に乙女ゲームのシナリオが始まるのは学園に入ってからだ。


 聖女特有の他者を癒す力を持った平民の女の子が入学し、様々なキャラクターと出会い、関わっていくのがシナリオとなっている。

 実際、悪役令嬢ポジションにいたティアも学園に入学し、主人公と出会ったことで本格的に悪女の道を歩んでいく。

 自分が惹かれている王太子と仲良くしている主人公が気に食わなくて虐めたり、周囲の取り巻きと一緒に陰口を広めたり、家を潰そうとしたり。

 そういったイベントを経て、ティアは主人公や他のキャラクターから断罪されるようになるのだが、止めようにもユランは二つ下。

 学園に入学するタイミングが義姉とズレているため、必死に姉が自分の知らない場所で悪役令嬢にならないよう今まで尽力してきたのだが―――


(また王太子殴っちゃったし……)


 ぶんっ、ぶんっ、と。

 屋敷の庭にて、ユランは剣を振りながら少し前の発言を思い出す。

 どうやら、うちのブラコンはメインキャラクターである王太子くんを殴ってしまったとのこと。

 何がどうなってそんなアグレッシブなことをしでかしたのかは分からないが、普通に考えて王族を殴ってしまったのはマズい。

 おかしいな? 本来一生懸命婚約者のポジションまでもぎ取るほど惚れていたはずなのに。

 ユランの瞳から薄っすらと涙が浮かぶ。

 これで何度目だろう? もう、いつ断罪イベントが始まってしまうかも分からない。

 今のうちに実力を身に着け、どんな断罪イベントでも乗り越えられるようにしなければッッッ!!!


「ユーくん、お休みの日ぐらいお姉ちゃんに構ってほしいなぁー」


 そんな弟の心境など気づいていないティアは、退屈そうにユーリの姿を見つめる。

 ラフな格好ではあるものの、それでも美しさが滲み出ているのだから恐ろしい。


「……僕はね、いつ背中から刺されそうになってもいいように頑張ってるんだ。ちなみに言うけど、僕の中の平和を乱しているのは姉さん理解よろしく」

「それは、お姉ちゃんにドキドキして心が乱れてるってこと!?」

「違うッ! 具体的にどうしてかは言い難いけど、それだけは絶対に違う!」


 どんな流れでも、ティアの弟好きは前向きな方向に解釈されてしまうから悲しい。


「そういえばさ、ユーくんってたまに剣を振ってるけど……ぶっちゃけ、しなくてもよくない?」

「……そんなに見苦しいかな? 一応、これでもたまに騎士の人に見てもらって頑張ってるんだけど」


 得意というわけではないのは自分でも分かっている。

 だからこそ、必要ないという発言に少しばかりショックを受けたユラン。


「ううん、そうじゃなくてさ。ユーくんってユーくんオリジナルな魔法があるじゃん? それがあれば、ぶっちゃけ剣なんか振らなくてもいいと思うのです」


 ユランが扱っているのは雷の魔法。

 そこから発生する静電気を変換させ、磁力を操作することを主軸に置いている。

 磁力の魔法はこの世界においての魔法の常識からズレており、転生前の知識があったからこそ生み出せたユランのオリジナルだ。


「えー、そうかな?」

「うんうん、金属を引っ張れたりとか、物凄い速さで撃てたりとか、壁に張り付いたりとかさ、汎用性も威力も状況によっては強いと思う。少なくとも、学園内じゃそのレベルで扱える人はいないよー」

「……姉さんがそれ言う?」

「きゃー、ユーくんのジト目が向けられてる可愛いー!」


 ユランに向けられた瞳を受け、ティアは体をくねくねさせた。


(これで学園内最強の魔法士っていうんだから驚きだよ。流石、ラスボスになるキャラクター)


 魔法にはそれぞれ属性があるが、扱えるランクというのがある。

 下級から上級、それを越えて超級。

 一般の学生であれば、在学中にそれぞれの属性のどれかの中級が扱えれば優秀と呼ばれているのだが、ティアはすでに上級四つを扱える。

 これは社会に出た一般の魔法士の中でも優秀枠であり、一つ超級を覚えれば王宮に仕えられるほど。

 本来であれば、素質こそあったもののティアが魔法士としての才覚を見せるのは学園を卒業してからなのだが、もうすでに異常と呼べるほどのスピードで成長している。

 その理由が―――


「ユーくんを守るのはお姉ちゃんの仕事なのですどやぁ!」


 ……ブラコンな性格からきているのだから、守られる義弟としてはなんとも複雑な心境だ。


「だから、ユーくんのために毎日頑張ってるお姉ちゃんにご褒美ちょうだい♪」

「嫌だよ、だって姉さんが王太子殴っちゃったから僕は剣を振ってるのに! どちらかというと、姉に対する気苦労を慮って僕にご褒美がほしいんだけど!?」

「だったら、お姉ちゃんがユーくんにご褒美のちゅーを……」

「えぇい、離れろ! 僕は誰に対するご褒美かを履き違えているご褒美は受け取らない主義なんだ……ッ!」


 抱き着いて顔を近づけてくる姉を必死に引き剥がそうとするユラン。

 これで唇を重ねてしまおうものなら、まず間違いなく姉弟関係を飛び越えて新しい関係のきっかけになってしまうだろう。是が非でもこの先へ進まないようにしなければッ!


「ぶー……ユーくんってば照れ屋さんなんだから」

「この表情を見ても照れてるように見えるんだったら、今すぐ眼科か脳内外科に行くべきだよ……」

「がんか?」


 離れてくれたティアに、ユランは思わず肩を落とす。

 そんなユランを無視して、ティアは少しばかり考え───


「だったら、一緒にお風呂とかの方がいいのかなぁ……?」

「……うーむ」

「さっきよりも反応が前向きな義弟に、お姉ちゃんびっくりです」


 どうやら、ビジュアル最強な姉との混浴は、ユラン的にも一考する価値が大いにあるみたいであった。


「っていうかさ、話は戻すけど───今度はなんで王太子を殴っちゃったの?」


 お風呂に対する興味を察せられないように、ユランは話題を戻す。

 すると、ティアは少し唇を尖らせ―――


「……だって、ユーくんの悪口を言ったんだもん」

「………………」


 本当は怒ったり、距離を置いたりした方がいいのだろう。

 しかし、こうやって自分のためを想ってやった行動となれば、どうしてか強く言えない。

 それがズルいんだよなぁ、と。ユランは苦笑いを浮かべて、そっとティアの頭を撫でるのであった。



「あ、そういえばユーくん、そろそろ学園入学だね!」

「うん、来月ぐらいからだね」

「ってことは、念願の学園通学デートが毎日朝と夕方にできるってこと……ッ!」

「うん、変なルビ振らないでね普通に通学だからね」

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