注目を浴びる二人

 まぁ、案の定と言うべきか。

 ソフィアを救った件に関する諸々があり、盛大に入学式には遅刻してしまった。

 ゲームの世界とはいえ、すでにここは現実。

 ひとたび輪から外れようものなら、集団から孤立してしまう恐れがある。それが初日ともなればなおさらだ。


 幸いにして、救助活動ということもありお咎めはなし。

 もしかしたら貴族の多くが通っている学園ということもあって、すでにある程度集団が形成されてしまっているかもしれない。

 ユランは早速ぼっちになりそうになりながら、新しい制服姿の生徒が見受けられる廊下を歩いていた。


(うぅ……視線が痛い)


 自分に割り当てられた教室まで歩いている最中。

 ユランの体には、かなりの視線が突き刺さっていた。

 というのも───


「私もユーくんと同い歳だったら、もっと素敵な学園生活が送れるのになぁー!」

「ユランくん、困ったことがあったらなんでも相談してくださいね?」


 右にはティア、左にはソフィア。

 二人共、ユランの事情説明のためにわざわざ一緒に来てくれたのだ。

 ティアに関しては明らかに願望が多分に含まれているだろうが、こんな二人と一緒の歩いていれば注目されるのも頷ける。


(二人共美人だし、超有名人だし、当たり前なんだろうけど……)


 ティアは公爵家のご令嬢。加えて、学園屈指の天才児だ。

 容姿も合わさり、密かに尊敬の念を送っている人も多いはず。

 ソフィアに至っては、学園内で唯一の平民。

 さらに、王太子を筆頭とした有名貴族と仲もよく、分け隔てなく優しい(ティア以外)人柄は人気を集めるには充分な要素。一年生の時であればいざ知らず、二年も経てば「平民」というマイナス要素よりもプラス要素の方が勝ってしまうだろう。

 新入生とはいえ、ある程度社交界に顔を出している貴族であれば二人の名前を知らないはずもない。注目されるのも頷ける。

 さらに───


「あァ? ︎︎相談事とか全部、お姉ちゃんの役割なんですけど? ︎︎ポッと出の女の子に何ができるっていうんだよ帰れ阿呆」

「身内には中々相談できないこともあるとは思いますよ? ︎︎それに、少しでもサポートできる人が身近にいればよりユランくんも安心できるはずですが、よもやそこまで気が回っていなかったのですか?」

「へぇー……随分と煽ってくるじゃん、平民のくせに。いくらこの学園で階級差別が適応されないからって調子乗ってるんじゃないかな? ︎︎今から堂々と嫌がらせしてやろうか?」

「そうやって、いつもつっかかってくる……少しは譲ってみてはいかがです?」


 ……まぁ、こんなに激しく火花を散らしていれば、横に並んでいるのが誰であろうとも注目もされるだろうが。


「……あのー、僕を間に喧嘩しないでくれない? ︎︎肩身が狭い以前に、火傷しそうだよ」

「だって、この女が───」

「姉さんは突っかかりすぎ」


 むぅ、と。頬を膨らませるユラン。

 仲悪すぎじゃね? ︎︎なんて素直に口にしたいところをグッと堪える。


「ソフィアさんも、別に僕のことは大丈夫ですから。何かあったら、この過干渉な姉が何かしてくれますし」

「……私も、ユランくんのお力になりたいです」


 なんでこんな好かれてるんだろ? ︎︎なんてこちらも口にしたかったユランであった。


「にしても、本当に広いよね……まだ教室に辿り着かないんだけど」


 先程からかなり歩いているが、まだ自分の教室らしきプレートが見えない。

 一応ゲームの設定で「広い」というのは分かっていたが、改めて日本育ちのユランは驚かずにはいられなかった。


「そうですね、私も初めて来た時は驚きました」

「全校生徒合わせて千人以上いるからねー。それに、各地の貴族の子供達が集まるから、設備もそれなりに整ってないといけないしー」

「ふぅーん」

「「だから、迷子になったらいつで呼ぶんだよ(ですよ)」」

「二人って実は仲がいい説ない?」


 ハモってくる内容が綺麗な姉ムーブなところが特に。


「ちなみに、姉さんは何クラスなの?」

「えっ、ユーくん私のクラスに興味があるの!?」


 ふとした質問に、ティアは瞳を輝かせる。


「もしかして、教室を知っておけばいつでもお昼のお誘いとか下校のお迎えとかできるからっていう───」

「ううん、姉さんが何か問題を起こした時にすぐ駆けつけられるようにしたいから」

「……ユーくんの信頼が違うベクトルでかなちぃ」

「やだ、かわちぃ」


 ショックを受ける姉。

 顔立ちがしっかりしているからか、思わずキュンとしてしまったユランである。

 その時───


「おい、貴様! ︎︎何故ここにいる!?」


 正面から突然、廊下に響き渡るような声が聞こえてくる。

 視線を向けると、そこには異様に顔立ちが整った青年と、取り巻きのような男達二人の姿があった。

 そして、その男は何故かティアの方を指差しており───


「「うげっ」」

「あの、どうしてお二人は殿の顔を見てそのような顔をされるのですか?」


 ソフィアの疑問はごもっともだ。

 しかし「面倒なやつ来たわー」と思っているティアはともかく、ユランとしてもこの男の登場は非常に面倒なもので。


(なんだろう……悪役令嬢キャラと主人公キャラがセットで歩くと、変なイベントもオプションでついてきちゃうのかな……?)


 すっごく嫌だなぁ。

 なんて、まだ教室にも辿り着いていないのに辟易とするユランであった。

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