第10話 初めての友人
私は前世、不登校だった。
入学して最初の方は、優秀かつ光属性である私と仲良くなろうと、私の席の周りには多くの人が群がっていた。しかし、両親がいつも仕事で不在だったため、ずっと一人で生きてきた私は、人と話すことに慣れておらず、誰かが話しかけてきてもまともに受け答えをすることができなかった。
そのため、入学して一ヶ月後には私の席の周りには誰もいなくなった。何故か放課後には女子達が
「宿題教えてー!」
などと走ってくるのだが、学校の休み時間などではいつも私は一人だった。多分、私を宿題の答えを出してくれる計算マシーンとでも思っていたのだろう。しかし、その頃はまだ良かった。
魔法研究コンクール優勝、国際魔法研究最優秀賞受賞……(以下略)
学生にして多くの賞をもらっている私を見て、皆の軽蔑の目は憎しみの目へと変わった。そして、私が3つ目の「最年少」という称号を手にしたとき(ちょっと格好つけてます)、それは起こった。
私がいつものように教室の自分の席へ行くと、その机の中にあった教科書がビリビリに引きちぎられ、見るも無惨な姿になっていた。しかも、その表紙には私に対する悪口が書かれている。
もちろんそれで終わるはずもなく、その放課後には、私に勉強を教えてくれと頼んでいた人たちに校庭に呼び出され、暴力を振るわれたりもした。
そして、そんな生活が一ヶ月ほど続き、ついに心が折れて不登校になってしまったのだ。
「あの時に、誰かに助けを求めれば。」そう思ったことも何度かある。しかし、時間は巻き戻せない。それに、例え誰かが助けてくれても、どうせその人がいじめられて、また私は一人になるのだろう。だから、私は、もう二度といじめられないよう強くなるしかない。
そう思い、私は懸命に魔法の研究を続けた。
……………………………………………………
あれから二十年後。
私は、当時の私とほとんど同じ立場に置かれている彼女を無言で見ていた。
悲鳴をあげている彼女の姿が、当時の自分の姿と重なる。
本当に、誰かが助けてくれたら、私に手を差し伸べてくれたら、私は不登校にはならなかったのだろうか。本当に、今彼女を助けなかったとしても私は後悔しないのだろうか。
時間は巻き戻せない。
私は、勇気を出して彼女たちに一歩近づき、話しかけた。
「先程鐘が鳴っていましたが、寮に戻らなくて良いのですか?」
すると、殴っていた二人組(名前は確かアイリスとヴィルだったような…)の背中が一瞬ビクッと動いたかと思うと、一目散に寮の方向へと逃げてった。
そして、この場にはルナみたいな名前の人と私の二人きり。え、きまず。帰ろうかな。
私が背中を向けようとすると、
「待って…」
という声が聞こえた。
私がもう一度体を向け直すと、
「さっきは、助けてくれてありがとう…」
と言われた。ちょっとそっけないが…まあ、ツンデレだということで許しておこう。
私が返事を返さずにいると、
「でも、もう助けなくていいから…。」
と言われた。
「どういうことですか?」
「このままだと、あなたがいじめられるし…。それに、もしアイリスを怒らせたら…。私は親が警察のトップだから無いけど、あなたの親は…その、アレだから、アイリスの親に目をつけられたら終わりだから、私のことは放っておいて」
「終わるというのは、退学になるということですか?」
「いや、退学というのはいくら大貴族でもこの学校の決まり上できないと思う。」
「じゃあ、殺されるということですか?」
「……そう。アイリスの親は大貴族で、暗殺者とかともつながってるから。実際、何年か前にヴィルをいじめていた人たちは、全員行方が分からなくなってる。」
ああ、確かに親が大貴族というのは聞いたことがある(盗み聞き)。しかし、暗殺者ともつながっていたとは……。一度暗殺者と戦ってみたかったんだよな…。というか、なんでこの人こんなに詳しいんだ。
私の訝しげな視線を感じたのか、
「あ、いや、別にストーカーとかじゃないよ?!ただ、パパに聞いたことがあるだけ!それだけアイリスの親は危険人物なの!」
と言われた。
「そうでしたか……。それなら大丈夫です。」
「なんで?!あなたが強いことは知ってるけど、伝説の暗殺者とかもいるらしいし…」
「大丈夫ですよ。だって、私は最強ですから。」
「だから、なんでそう言い切れるのかって…」
だめか・・・。じゃあ、別の方向から攻めてみるか。
「あなたも分かっているでしょう?暗殺者とのつながりなんて、いくらでも隠蔽できることを。あなたの親が警察のトップだったとしても、きっと彼女を怒らせたら躊躇なく暗殺者が送り込まれるはずです。」
「……」
「そう考えると、少なくともあなたよりは強い私と協力した方が良いと思いませんか?それに、私だって暗殺者とかと戦ってみたいですし。」
ちょっと上から目線だったか…?
「まあ、そこまで言うなら………。助けてもらってあげてもいいけど?」
あ、やっぱりこっちもすごい上から目線だしいっか。
しかし、こうしてすんなり許可が下りたということは、この人も内心では助けを求めていたのか?それなら、良いことをした。転生して初めての人助けだ。
「ありがとうございます。じゃあ、寮に戻りましょうか。」
こうして、私たちは寮に戻るのだった。
……………………………………………………
その翌日。私は日課であるランニングを済ませて寮に戻ると、朝食を食べるために食堂に向かおうとしていた。
私が寮のドアを開けようとすると、後ろから
「待って。」
と言うルナの声が聞こえてきた。なんだなんだ?また窓を割ったことで怒られるのか?今回は私は特に悪いことはしていない。ただ、私はわざとでない限り壊せないぐらい窓ガラスを強化したと聞いて、好奇心だけで窓に体当たりをしただけだ。
だから、結局悪いのは十分にガラスを強化しておかなかった先生だということになる。断じて言う。私は無罪だ。
私が逃げようとしたのを察したのか、彼女の手ががっしりと私の肩をつかむ。すぐ振り払えるが、ここで怒鳴ってこないし怒っていないのか?
私がドアを開ける格好のまま静止していると、
「い、いいいっしょにいどうしない?」
という声が聞こえた。
なんだ、それか。というか、すごい緊張してるな。全部棒読みだぞ。
私が無言でいると、
「いや、その、昨日、私のこと守ってくれるって言ってたから…」
協力するとは言ったが、守るとは一言も言ってないぞ。まあ、細かいことはいいか。私は細かいことは気にしない主義だしな。
「そうですか。それなら、これからは一緒に行動するようにしましょう。」
「え、本当…?ありがとう…!」
そう言うと同時に、肩をつかんでいた手が私の腕をつかみ、前に引っ張って行こうとする。
「じゃあ行こう!早く!ほら、席取れないかもしれないでしょ!」
「そんなに掴まなくても逃げませんよ?」
「いいからいいから!ほら、早く行こう!っていうか、さっきあんた鍵かけたドア、力づくで開けてたからね?!絶対鍵壊れたよ?!」
「細かいことは気にしなくて良いんですよ。」
「………。」
そんな話をしながら、私たちは食堂に向かって走り出した。
こうして、私とルナとの間に友情(?)が芽生えるのだった…。
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