第9話 平穏(?)な学園生活

その夜。私は、寮のベッドに横になって、今日の出来事を振り返っていた。

あの後、入学式の後に行った教室に行き、先生が学校生活についてなど、あまり聞く必要の無さそうな話を始めたため寝て、その後同じ寮の女子3人に校庭に呼ばれたのだけれど、ルナ…だったっけ?まぁそんな名前の光属性の人が蹴ってきたため、制服が汚れると困ると思い手で軽く払ったらその人を校庭の向こう側まで飛ばして………。

うん。平和な一日だったな。ドラゴンも見れて、お昼寝もできて、大満足だ。さて、そろそろ七時だし、明日の朝に備えて寝るか。

……………………………………………………

「痛い!やめて……!」

夜の校庭の一角。暗闇の中で、金髪の少女が二人の少女に殴りつけられている。

「元はあんたのせいでしょう?そもそも、王子にちやほやされて調子に乗ってるからちょっと怖がらせようって言ったのはあんたなのに……。カッコ悪すぎて笑えるんだけど!」

「待って、アイリス……。違う。本当に、彼女は私たちとは強さの格が違うの。本当に……」

白髪の少女がルナの顔面を蹴る。

「何?言い訳?っていうか、こんなに蹴っても全然仕返ししてこないんだね。あいつのことは普通に蹴ろうとしてたくせに。もしかして、あんたって弱いものいじめしかできない臆病者なの?」

「違う、違うの……。アイリス、ヴィル…、本当にやめて……。」

……………………………………………………

ふぁーあ、よく寝たよく寝た。今の時刻は……午前3時か。いつもより少し遅いな……。まあいいや。とりあえず、新しい闇魔法の開発でもしよう。

しかし、やはりこういう頭を使う作業は早朝にやるのが一番だな……。夜と比べて、作業効率が格段に上がる。その上、健康にも良いしな。おっと。新しい闇魔法を考えるのを忘れていた。うーん、何が良いかなあ……前回のやつは魔力効率が悪くて使いづらかったし……。よし!今回は「禁じられた魔法」の一つであるあの魔法を応用して……(長いので省略)

ー1時間後ー

ふう。できた。今回は元々ある魔法の応用だからすぐ完成したな…。よし!じゃあ、研究も早く終わったことだし、今日は校庭を十周しよう!

私は、ランニング用の服に着替えると、窓の外に飛び出した。

パリィーン!

あ、やべ。普通に窓ガラスを割ってしまった。いつもはできるだけ静かに割るようにしているのに……あれ?怒鳴り声が聞こえてこない?何でだろう。昨日は窓ガラスが割れたことにあんなに怒っていたのに。もしかして、昨日は初めての学校の授業に緊張してイライラしていたのか?まあ、いっか。考えても無駄だ。

というか、何か暑くないか?まだ春なのに、尋常じゃない暑さを感じる。まるで、マグマがすぐ近くにあるかのような……って、

「リアム王子?」

「ヒェッ?!ああ、ユーリエか。こんな朝早くにどうした?」

え?急にクールに振る舞ってるけど、めっちゃ驚いてなかった?いやいやいや、それよりもーー

「いや、王子こそどうしたんですか?魔物もいないのに、無駄に火属性の魔弾を連発して。」

「そんなの、魔力を上げるために決まっているだろう?」

「は?」

おっと、口が滑ってしまった……

「あ、いや、その、私的には、魔法を撃つよりも運動をした方が魔力を鍛えるのも効率が上がるし、物理攻撃も強くなると思うんですけど。」

「そうか。それで、お前はランニングをしていたのか…。考えてみる。」

「あ、それについて書かれている論文もあるので、ぜひ読んでみてください。アメリア・ウィンガードっていう人が書いてます。」

まあ、アメリア・ウィンガードというのは前世の私のことなのだが。

「そうか…。分かった。読んでみる。」

「はい。では。」

そう言って、私はその場を去った。

あ、やばい。話してたらランニングの時間が少なくなってしまった…。話しかけなければ良かった。このままだと十周走れずに終わるな…。よし、久しぶりに全力で走ってみよう。

そして、私は走り始めた。

……………………………………………………

「何をやっているんですか?!この2日間だけで、窓ガラス2枚を割って、校庭を穴だらけにして。いくらこの学校が普段の生活の態度は見られないからといって、さすがにこれはひどすぎます。」

ランニング後。私は、部屋に来た先生に連れられて、副校長である私の担任のところに来た。そして、怒られたというわけだ。お菓子をあげると言われてついてきたのに……。

「本当に申し訳ないと思っています。もうしません。」

まあ、窓ガラスを割るのはこれからも続けるけどな。

「それでは、私はこれから授業があるので、教室に行きます。あなたは拘束しておいたので、そこで自分の行動を振り返ってなさい。」

そう言ったかと思うと、バタンと音を立てて、ドアが閉められた。

ふー、終わったー。先生の説教めんどくさいんだよな。

私は、自分を縛っている光属性の鎖を引きちぎり、鍵のかけられたドアを開けた。鍵が壊れたような気もするが…まあいいか。とりあえず、自分の寮部屋にでも行こう。先生が来る時間になったら戻れば良いだけだ。

ー1時間後ー

「あなたは何をやっているんですか?!よりにもよって、私の部屋のドアの鍵を壊すなんて!でも、どうせ拘束しても出るんでしょうし…、次の魔法研究の授業には出てもらいます。くれぐれも、来てくださる魔法研究員の方々に迷惑をかけないよう。」

こうして、私は先生の拘束から解き放たれたのだった。

魔法研究員が来るとは…。知ってる人が来るといいな…。まあ、知っている人がいたとしても、向こうは私が誰なのか分からないのだろうけれど。

などと考えていると、教室に到着した。そして自分の席に着く。すると、

「ルナー!勉強教えてー!」

という声が聞こえてきた。えーと、確かあの白髪の人は…あ、そうそう、ヴィルだ。確か、親が大貴族とかだった気がする。よし。あまり関わらないでおこう。

しかし、友達のいない学校生活も案外自由で良いな。前世はあんなにも友達がいないと寂しかったのに、全くそういった感情を抱かないのは、自分に対する諦めからだろうか。

などとぼーっとしていると、

「皆さん、こんにちは!」

という大きな声が聞こえてきた。ん?この無駄に大きい声は……

「私の名前は、リリア・ガーネット!王宮魔法研究員の副リーダーです!リーダーであるエリックさんも来る予定でしたが、急用で来れなくなったそうです。」

私が研究員だった頃の後輩だ。まさか、副リーダーになっていたとは。あまり出来が良かった覚えは無いが…、彼女にも隠れた才能があったのだろうか。

「今日は、飛行魔法の魔法陣について話します!」

飛行魔法か・・・。ちなみに、魔法陣とは魔法のプログラムを可視化したものだ。魔法陣の模様によって、どのような魔法が出るか決まっている。例えば、炎を出す魔法の場合は、火を出す模様と魔法の効果を上げる模様が魔法陣に浮かび上がる。

「飛行魔法は、皆さんが2年生になったら魔法実践の授業で習います。今はまだ難しくて使えないと思うので、今日は魔法陣を使ってどのようなプログラムを組み込むのか教えていきます!」

飛行魔法は2年生か・・・。そこまで難しい魔法でも無いと思うが、あまり使い所が無いため、正直使えなくてもいいと思う。

「では、ここで質問です。誰か、飛行魔法の魔法陣を書ける人はいますか?」

飛行魔法、改良しすぎてもともとのプログラム覚えてないんだよな・・・よし、手を挙げるのはやめておこう。

そして、手を挙げたのは・・・私以外全員。

あ、やっべ。ここでは手を挙げるのが正解だったか。

私は、急いで手を挙げた。しかし、それを見逃すこともなく、

「では・・・少し手を挙げるのが遅かった、そこの黒髪の・・・えー、ユーリエさん。」

言われてしまった。あ、終わった。よし、もう原型を思い出すのは諦めて改良版で書くしかないか。

私は、しぶしぶ席を立ち上がり、黒板へと向かい、魔法陣を書き始めた。

「できました。」

黒板にあるのは、我ながら、とても精密に書かれた魔法陣。

「何だよこれ!飛行魔法じゃ無いじゃないか!」

「何あれ・・・?適当なプログラムを入れて、精密な魔法陣に見せかけて、自分が頭が良いことを強調したいのかしら?」

などという悪口が聞こえてくるが、まあ、魔法研究員でも無いただの生徒が理解できないのも当然か。すると、

「皆さん、一度静かに。ユーリエさん、ありがとうございました。それでは、この魔法陣の説明をしてください。」

と、冷ややかな目で言われてしまった。って、お前も分かってないのかよ。普通の魔法研究員だったら分かって当然だろ?!

しかし、私はそれらの感情を押し殺して、冷静に答えた。

「はい。まず、皆さんが考えている通り、これは普通の飛行魔法陣ではありません。これは、私が改良したものです。通常の飛行魔法の場合、真下に空気で薄めた魔力を噴出します。しかし、それでは魔力効率が悪く、長くても30分程度で落ちてしまいます。しかし、この改良版なら、その問題を解決することができます。」

私は、一度話を止めて、皆の反応を観察した。リアム王子は魔法陣を見て熱心に頷いているが、他の人は全く信じていない様子だな・・・。

「続けてください。」

「はい。ところで、皆さん、磁石は知っていますか?まあ、知っていますよね。で、その同じ極同士を近づけると退き合って、違う極同士を近づけると引き寄せ合う力を磁力というんですけど、この魔法陣ではその磁力を魔法で再現しているんです。」

よし、これで分かるだろ!分かってくれ!しかし、

「なるほど・・・。ありがとうございました。ユーリエさんは座ってください。」

と、またしても冷ややかな目で言われてしまった。全然伝わってない・・・。悲しい。

すると、ガラガラッと音を立てて教室のドアが開けられ、

「いえ、待ってください。」

という声が聞こえた。黒いスーツ・・・めっちゃ怪しい。誰だろう。

「エ、エリックさん?!今日は来れなかったんじゃ・・・」

「遅れるとは言いましたが、行けないとは一言も言っていませんよ。それよりも、先程から話を聞いていたのですが、ユーリエさん。この改良によってどんな利点がありますか?」

「えーと、先程も言った通り、魔力効率が格段に上がったり、後は元々の飛行魔法をブーストとして使うことで移動速度を上げ、移動時間を短縮させることができます。」

それを聞いて、エリックさんは黒板に書かれた魔法陣を数秒見つめたかと思うと、何やら独り言を言いながら、一人で頷き始めた。大丈夫か・・・?すると、突然、

「リリアさん、あなたは今日でクビです。」

と言った。え?急にどうした?生徒たちの前だぞ?流石に良くないんじゃ……。

「え?!な、何故ですか……?!」

「この発見は、歴史を変えると言っても過言ではありません。それにも関わらず、あなたはこの魔法陣の意味をしっかりと理解しようとしなかった。書いた人が闇属性だという理由だけで。研究員たる者、柔軟な思考が大切ですよ。」

「えっと、じゃあ、この後は…?」

「もうあなたは王宮魔法研究員では無いので、帰っていただいて結構です。授業は私が引き継ぎます。」

「本当に、私はクビなんですか?冗談などでは無くて。」

「はい。この授業が終わったら、正式な書類を出しに行きます。」 

「そうですか…。では。」

そう言うと、彼女は振り返ることもなく立ち去っていった。そして、私の後ろを通るときに一言、

「覚えてなさいよ?」

と低い声で言われた。怖っ。一方、生徒たちは、今まで授業をしていた人が自分たちの前でクビ宣告を受けるという急な出来事に呆然として、言葉も出てこない様子だ。

「それでは、改めてこれから授業を始めます。」

……………………………………………………

なんだかんだで一日が終わり、私は寝るまでまだ時間があるため、木の上で涼んでいた。

今日の授業は珍しく面白かった。エリックさんの飛行魔法の魔法陣はとても興味深かった。改めて改良する際に参考にしよう。

などと考えていると就寝時間十分前を知らせる鐘がなった。

そろそろ帰るか。寮に戻ろうと木を降りると近くから、

「やめて…やめて…!」

という叫び声と、人を殴る音が聞こえてきた。

夜なのに物騒だな…いや、夜だからか?

どっちみち面倒なことに巻き込まれたくないし、ここで引き返しておこう。

そして、私は引き返しざまに後ろをチラリと見た。本当に、無意識に。

すると、そこにあったのは…同じ寮の女子達の姿だった。

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