番外編 魔力検査

「うわー、広ーい!」

私は、マリア・ホワイト、17歳。

現在、お父さんの魔道具店のお手伝いをしています!ちなみに、今日はアーノルド魔法学園へと魔力検査のためお父さんと一緒に出張中!

こんなエリート学校で仕事ができるなんて…!光栄なことだとは分かってるけど、やっぱり不安だな…。生徒たちと4歳ぐらいしか年変わんないし…。緊張するなあ…。

「マリア、緊張してるのか?」

「うん…。みんな、頭良いみたいだし…。」

「今までいろんな仕事をこなしてきたマリアなら、きっと大丈夫だ!」

「うん…!そうだよね!」

確かに、私だって、お父さんの側でずっと勉強してきたんだから!よし!頑張るぞ!

……………………………………………………

とは言ったものの、やっぱり緊張するなあ…。

私は、今回魔法検査をする会場の隅で縮こまっていた。

一学年100人だとはいえ、400人は多すぎるよ…。お父さん、よくあんな堂々と話せるなあ…。

私とは違って、お父さんはこの大勢の中でも堂々と魔力検査についての説明をしている。とても血が繋がっているとは思えないなあ…。

「では、2~4年生の方々は私の方へ、1年生の方々はあそこにいる私の娘、マリアのところへと移動し、検査を行なっていってください。少し時間がかかるかもしれませんが、そこは許してやってください。何しろ、人員不足なもんで。」

って、ちょっと?!私が一学年担当するの?!いくらなんでも無理だよー!

アイコンタクトで意思を伝えようとしても、ウインクされるばかりで話にならない。

もうこうなったら、クヨクヨしないで自分ができる精一杯のことをしよう!

手順はお父さんが全部説明してくれたから、私は検査するだけで良いんだよね?じゃあ、最初は…

「リ、リ、リアム、バルセろなしゃん…!」

どうしよう、噛んじゃった!あれ?ていうか、バルセロナって…

ああ!今歩いて来てる人見覚えある!絶対リアム王子だ!なんでいるの?!どうしよう!さっき噛んだのって無礼に入んないよね…?!

「…どうした?」

「へっ?!」

びっくりした…!気付いたら近くにいた!ていうか、年下とはいえイケメンだな…って、違う違う!今はとりあえず仕事仕事!

えーと、まずは…採血かな?

あらかじめ消毒しておいた注射器を持って…

「あ、えーと、腕を出してください…。」

「ああ。」

王子が袖をまくり、台の上に腕を乗せる。

おお、肌は色白…って、違う違う!仕事仕事!

じゃあ、注射かな?緊張で手が震えるけど、大丈夫。この注射器は、魔法で血流のところに自動で刺してくれるから、免許を持っていない人でも、誰でも使えるんだから…。よし無事採血完了!

ふう…。さて、最後はこのゴブレットに血を入れる…んだよね?こうやって、こぼれないように…よし!できた!そして、後はゴブレットに付いてる魔石が光るのを待つだけ!

確か、ざっくりだと緑が魔力無し、青が学生レベル、赤が大人の魔法使いの平均レベル、紫がプロ魔法使いレベル、白か黒が伝説レベルだったよね…って、紫?!1年生でこの魔力量なんて、すごいなあ…。みんなもざわざわしてるし…

って、感心してる場合じゃない!早く次行かなきゃ!

「次の人!」

……………………………………………………

ふう…。次で最後…。疲れたあ…。

みんな、魔力量すごかったなあ…。王子以上はいなかったけど、赤ぐらいなら普通にいたし…。ツンデレの子とか王子とほとんど同じだったもんな…。

「最後、ユーリエ・ブラッドリィさん!」

えーと、この人は…って、髪が黒い?!え?!闇属性?!この学校にもいたんだ!後ろの方にいたから気づかなかったのかな…?

無表情で怖いなあ…。急に怒り出しそうだし、早くやっちゃおう。

「えーと、じゃあ腕を出してください…。」

「はい。」

お、喋った!意外と普通そう…?やっぱりこの人も私と同じ人間なわけだし、喋ってみたら意外と気が合ったりするのかな…?

「じゃあ、刺しますね・・・。」

注射の針が皮膚に刺さる…と思われたが、なかなか刺さらない。

「あれ…?」

おかしいな…。魔力が多い人は皮膚が頑丈だけど、この針は一応魔法で加工もされてるからそれなりの魔力量の人でも刺さるはずなのに…。

ボタンで注射器に込める魔力の量をだんだんと増やしていき、ついには最大限にまで硬くなるが、針は刺さる気配も見せない。

「ごめんなさい、痛いですよね…。」

「いえ、全然。」

全然?!流石に見栄を張っていると信じたい…。これで痛くなかったらもう一生刺さんないよ!

そして、遂に…

バキッ

注射器の針が折れてしまった。あわわ…とりあえず、ガラスの破片で怪我をしていないか確認するか…

「お、お怪我はありませんか…?」

「いえ、特に。」

でしょうね。ああ、どうしようどうしよう…この注射器新しいやつだったのに…。絶対お父さんに怒られる…。

私が一人で注射スペースの間を行ったり来たりしていると、私の混乱が通じたのか、お父さんが走り寄ってきた。

「マリア!どうした?!」

「あ、あ、あのね、注射器の針が折れたの…。なんか刺さんなくて…。」

「刺さらない?!一体どういうことだ?」

「皮膚が頑丈すぎて、刺さんないの…。」

「そうか…。よし、お父さんにもやらせてみろ!」

そう言うと、お父さんは予備の注射器を取り出し、準備を終わらせると、注射器を持って私の方を見据えた。

「いいか?いくら全部自動でやってくれるとはいえ、これにはコツが必要だ。まずは、魔力の出力。最初は少し弱めにして様子見をしたら、その後だんだんと出力を上げていくことが一番大事だ。」

さっきもそれでやってたんだけどな…。でも、私なんてほとんど初心者だし、なにか別の感覚的なコツがあるはず!

「ふむ…。確かに、だいぶ頑丈だな…。マリアができないのも無理はない。今回はお父さんがやってやるから、お前はそこでよーく見てろ。」

「はい…!」

……………………………………………………

一方ユーリエは…

……私は何を見せられているんだ?なんか謎の講座始まったんだけど。

これ、私の存在忘れられてない?いや、忘れられてるっていうか、模型ぐらいにしか思われてない気がする。すごく気まずいのだが。

なんか、プロみたいな人来たし…。というか、なんでそんなに注射にこだわるのだろう…。普通に私の魔法で腕ちょっと切ってそこから血採れば良くない?傷ぐらいすぐ治るしさ。(ユーリエだけです。)

そうこうしているうちに、注射界のレジェンド(?)が操る注射器が私の腕に近づいていく。

針が皮膚に当たる…が、なかなか刺さらない。

「まだだ、まだまだ!」

まだ刺さらない。

「まだまだ!」

まだ刺さらない。

「まだまだ!」

まだ刺さらない。

レジェンドの娘であるマリアの瞳も、最初は父親に対する期待で輝いていたが、今となっては父親に対する失望に溢れ、光一つ無くなっている。

「お父さん、もういいよ…。」

「まだまだ!」

……。ちょっと申し訳なくなってきたな…。というか、この光景結構シュールじゃないか?必死に注射器を腕に刺そうとしている人と、それを止めようとする娘、そして無表情の私。うん、シュールだな。シュールシュール。(最近ルナに教わって、ただシュールという言葉を使いたいだけのユーリエ。)

「あの、もう大丈夫ですよ…。」

「いえ、大丈夫です!必ず検査は行います!」

「いえ、その…注射器以外でも方法はあるのではないかと…。」

「そうだよ!お父さん、そんな意地張らなくて良いんだよ!

昔から、お父さんはそうやって意地張ってさ…!一人で抱え込まなくていいんだよ!」

おお、なんか家族ドラマの感動シーンみたいなセリフ言ってる…。言ってて恥ずかしくないのか?400人の前だぞ?

とはいえ、娘の言葉に少し冷静になったのか、レジェンドは注射器を台に置くと、私に向き直った。

「確かに、そうだな…。ユーリエさん、お見苦しい姿をお見せして申し訳ありませんでした…。ちなみに、注射器以外の方法とは一体何ですか?」

ん?なんで私の名前を知っているんだ?まあいいや。どうせ闇属性の人として覚えられていたんだろう。

「簡単です。普通に私の魔法で腕を切って、その傷口から血を採れば良いじゃないですか。」

胸を張ってそう言うと、親子二人は青ざめて

「いえ、そんな…。その、本気…ですか?」

「そんな危険なことをするぐらいなら検査は中止した方が…。」

中止する?そんなことをするわけがないだろう。何しろ、魔力検査なんていう今の自分の実力が知れる機会なんて、なかなか無いんだからな。

「大丈夫ですよ!傷ぐらい治りますから!あ、もしかして血が苦手な人への配慮とかですか…?それなら、別室に移動してやりましょう!ほら早く!」

私が二人の手をとって別室に連れて行こうとすると(拉致とも言う)、

「やめなさい!」

という怒鳴り声が聞こえてきた。振り返ると、そこには…

「校長先生?!」

「お騒せして申し訳ありません…!」

校長の登場である。おー、あの話が長い人か。別に私は特に悪いことはしていないし、とりあえず邪魔にならないよう後ろに下がるか。

私が後ろに移動しようとすると、

「ブラッドリィ!」

と怒鳴られてしまった。え?私?この人たちがブラッドリィっていう名字だからとかじゃなくて?

私が戸惑っていると、

「お前だ、お前!私についてきなさい!」

と敬語なのか常体なのか分からない言葉で怒鳴られ、理由も分からぬまま校長室に連行されるのだった…。この後私がこっぴどく叱られたことは、言う必要のない事実だ。

また、叱られた後もまだ怒られた理由が分からず、ルナに私が悪かったのかどうか聞くと、

「うん。さっきのは完全にユーリエの暴走が良くなかったね。」

と言われたのも言う必要のない事実だろう。

こうして、私は魔力検査を受けられないまま無駄な時間を過ごしたのであった。


更新遅くなってすみません…。完全に休載モードに入ってました…。

次回から新章突入となります!

他の作品なども書いているので少し更新は遅くなるかもしれませんが、読み続けて頂けると幸いです。

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前世天才魔法研究員の私は、実力至上主義の魔法学園で無双する。 霜月レイ @ichigodaisuki

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