第13話 VS伝説の暗殺者!(後編)
フッ。あっけなかったな。
俺は、木が倒れて土埃が舞う中で勝利を確信していた。ナイフを避ける動きは良かったが、木が切れて倒れてくるとは思っていなかったのだろう。あの重そうな木にもろに当たって、無事でいられるはずがない。後はとどめを刺すだけだ。しかし、こんなブラッドリィの馬鹿一人にこの伝説の暗殺者である俺様を使うとは、力の無駄遣いってもんだ…。まあ良い。報酬も弾んでくれたし、今日はゆっくり酒でも飲むか。って…ん?
俺は、土埃が晴れ、相手が傷一つついていない姿で立っている様子を見て、驚きのあまり動きを数秒間止めた。
えーと…木当たってたよな?なんであいつは普通に立っているんだ?
「な…なんで無傷なんだ…?」
その質問に対し、ブラッドリィの娘は、
「簡単です。倒れてくる木にパンチをしただけです。あのまま当たっても良かったんですが、それだと服が汚れてしまうので。これぐらいで私が倒れるとでも思ったんですか?」
フ…なるほどな。面白い。コイツは今まで会ってきたターゲットの中でも相当強い。でも…
「そうか。でも、いくら頑丈でもこの剣に斬られたらひとたまりもあるまい。なんてったって、この剣は俺の家系に代々受け継がれてきた、最強の魔族から授けられた伝説の剣なんだからな!」
俺は、そう言うと同時に瞬く間に相手の間合いに入り、剣を横一閃に振るった。
刹那、血が飛ぶ。
「痛っ…」
「ハッ!手で攻撃をガードした瞬発力は認めてやる。でも、やはりお前でもこの剣を受け止めるのは無理だったようだな。安心しろ。俺は優しい。苦しまずに殺してやる。」
俺は、上機嫌に笑い続けた。
……………………………………………………
「ハッハッハッハ…」
男が上機嫌に笑っているとき、私の気分は最悪であった。
こいつの笑い方腹立つな…。
というか、早く夜ご飯が食べたい。戦うのは別に構わないが、どうせならご飯を食べた後が良い。夜ご飯食べた後に来ればよかったな…。
それに、制服が血で汚れてしまった。私は制服を汚さない主義なのに。(汚れたら手洗いとか面倒くさいから。)斬られたら制服が汚れることぐらい気づけよ自分!剣の切れ味見たさだけでわざと攻撃に当たった、過去の自分に腹が立つ。
制服が汚れたショックで、痛くもないのに反射的に「痛っ…」って言って、こいつを上機嫌にさせてしまったし。笑うのそろそろやめろよ。騒音。不快極まりない。
あ、というかまだ傷が治っていないな…。あ、傷口に魔力集めないと治らないんだった。
すぐさま実行。傷が癒える。
それを見た男は、やっと笑いを止める。
「ハッハッハ…って…ん?何故…」
「思う存分に笑いましたか。良かったです。でも、戦場で笑うのは良くないですよ。一瞬の隙が命取りになりますから。」
「フ、確かに化け物だ…。そうだな。では、戦いの続きをしようか。」
流石伝説の暗殺者、すぐさま戦闘態勢に戻り、私の隙を伺ってくる。
私は、足元に落ちていた枝を拾い上げ、宙に放り投げながら相手を見つめた。
さて、あの剣に対抗する手段…か。まあ何となく目星はついている。おそらく、あの剣には普通の剣は効かないだろう。いや、おそらくこの世界にあの剣に対抗できる剣はない。そう、剣ならば。
ちなみに、さっきあの剣の攻撃を受けて気づいたのだが、あの剣には、「禁じられた魔法」の一つである、当たったもの全てを闇に還す魔法が付与されている。ちなみに、この魔法には魔族以外の生き物が使うとその罪で呪い殺されるという伝説がある。実際、呪い殺されているのかは定かではないが、この魔法を使った全ての人が一週間と持たずに亡くなっている。私も何度かこの魔法を安全に使えるよう改良しようとしたのだが・・・未だ未完成のままだ。
では、話を戻そう。この魔法の剣に対抗するには何をすればいいか。それは・・・
「リテラマリア」
私のその声と共に、手に持っていた枝が黒く染まっていく。リテラマリアは地面、木の枝、剣などあらゆるものに付与させることができる。まあ、その分魔法単体で相手に投げつけたりはできないのだが。いわゆる付与魔法というやつだろう。でも、それで十分だ。いやー、やっぱり困ったときにはリテラマリアが一番だな。
「フッ、そんなちょっと魔法をかけただけの木の枝一本でこの俺を倒せるとでも?」
男は、その声と共に私が魔法をかける一瞬の隙をついて斬り掛かかる。私もすぐさま木の枝を持ち直し、私の暗黒の枝と相手の闇の炎を纏った剣が交差する。
「残念だったな、この剣は何でも切れる。お前がいくら枝に魔法をかけたって、この俺には対抗できまい。って…あれ?」
2つの剣(?)が交差して数秒後ほどだろうか。男の剣の周りにあった闇の炎がどんどん私の枝に吸収されていく様子を見て、男が目を丸くする。
「やっと自分の立場が分かってきたようですね。効果が無くなった今、その剣はもはやただの古い剣。あの剣に頼って戦ってきたあなたは、今となっては伝説の暗殺者ではなく、ただの暗殺者です。」
「くっ…所詮は木の枝、普通の剣でもへし折れるだろ!」
その言葉と共に、剣を交差させるのをやめ、またしても私に剣を振りかざしてくる。
はあ、諦めの悪い人だ。あれ?というか、今の私、めっちゃ悪役っぽくないか?まだ力をつけていない主人公をいたぶっている魔王的な…。よし、ちょっと優しい言葉でもかけてやるか。
私はその攻撃を枝で弾き返すと、こう言った。
「この剣は魔法で硬くなっているので、折れませんよ。しかし、この枝のようにどんな状況でも決して折れないあなたの意思、素晴らしいですね!私も見習いたいものです!そこで、あなたのその姿に免じて、見逃してあげても構いませんよ?」
よし、これでどうだ!こんな俺に逃がすという選択肢を与えるなんて、ユーリエ様素晴らしい!的な感じにならないかな?
「馬鹿にしてんのかあ!」
またしても剣を振りかざしてくる。
あ、駄目だった。もうこれ私が一方的に虐めてるだけだし、終わらせるか。
私は、相手が剣を振りかざしたところで一歩近づくと、顔面に拳を突き出し、男を吹っ飛ばす。よし、これで不毛な戦いは終わり!
おー・・・50mは吹っ飛んだか?気絶してるみたいだし、あの人は後で学校に運び込むとして、今はとりあえずルナの救助に向かうか。
私が走り寄ってくるのに気づいたのか、戦いの一部始終を見ていたアイリスの顔が青ざめる。
「や、やめてください・・・本当にごめんなさい・・・あの男みたいに殺さないで・・・」
殺してないけど?まあでも確かに50m吹っ飛んだら死んだと思うか。でも、どう反応すれば良いか困るな・・・。よし、ここはスルーするか!
私は言葉には答えずにアイリスを魔法の鎖で縛り、ルナは縛っていた縄を切ると、二人とも浮遊魔法で宙に浮かせた。
よし、じゃあ学校に戻るか!いやー、お腹減ったなあ・・・って、あれ?何か忘れてるような・・・まあ良いか!
こうして、私は森に男を残して、二人を宙に浮かせながらスキップで食堂に向かうのだった・・・。
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