第11話 VSアイリス

朝食を済ませると、私たちは教室へと向かった。

「そういえば、今日の授業って何でしたっけ?」

ふと気になって横を歩いているルナにそう聞いてみると、

「え?!先生の話聞いてなかったの?!」

と叫ばれてしまった。

え…先生の話…?全く聞いた覚えがない。というかそもそも、担任の先生の顔すら覚えていない。

「聞いてないの…?毎週金曜日の午前は、その週で習った範囲のテストが出るの。昨日あの後、アイリスたちなんて徹夜で勉強してたのに、なんで気づかなかったの…?」

徹夜?!ありえない。そんなの勉強の効率が下がるだけだ。夜は寝て集中力を上げるのが一番だ。

「夜は布団に潜って10秒で寝るので。でもただのテストでしょう?徹夜をする必要性が分かりません。」

「え…そこも聞いてないんだ…。授業内でちょいちょい言ってた気がするんだけど…。あのね、そのテストの結果でまたクラス替えが行われるの。」

「それはつまり、毎週クラスのメンバー替えがされて、毎週同じ寮のメンバーも変わるということですか?」

「まあ、そうね…。特に私たちAクラスは、本当に少しでも気を緩めたらBになっちゃうから…。それに、一応私も、昨日は12時ギリギリまで復習をしておいたの。」

うわ、毎週変わるのか。人間関係がすごい複雑になる気がする…。

というか、なんでみんな夜に勉強するのだろう…。でも、徹夜をするほど大変な試験だとは…。どうしよう。全く授業も聞いてないし、初日以来全く教科書も開いていない…。まあいいか。授業の内容も基本の基本以下と言ってもいいほど簡単だったし、大丈夫大丈夫。

そうこうしていると、もう教室の前へと来ていた。お互いに自分の席につきノートを開き、私が朝にやりかけていた新しい魔法の開発を始めようとすると、

「やっほー」 

と誰かが私に呼びかけ、私の席の前に立った。声的にアイリスか?あとヴィルも近くにいるな。面倒くさいな・・・。早く始めたいのに。本当に、私のこの時間だけは邪魔しないでほしい。無視もできないし、とりあえず早く会話を終わらせるために返事だけはしておくか。

「何でしょうか。」

私が作りかけの魔法陣が書かれたノートから目を離さずに答えると、

「昨日のあれ、あんたはルナ側についたってこと?」

うーん、どうだろう…。正確には、一時的についたという感じだろうか。

「まあ、はい…。一時的にですが、今はとりあえずルナ側ですね。」

「そう…。本当に後悔は無いのね?」

「まあ、はい。」

「そう…。じゃあ、今日のテスト、受けられなくしてあげるね。」

そう言ったかと思うと、彼女は続けて、急に高い、皆に響き渡る声でこう言った。

「ねえ!あんた、私のペン盗ったでしょ?!」

切り替えが早いな。あそこで私がアイリス側につくと言ったらどうなっていたんだろう…。

私が無言でいると、

「ほら、私の全部純金のやつ!あんたの家、最近貧乏だから大貴族の娘である私を妬んで、盗んだんでしょ?!さっきあんたの筆箱に見えたの!」

全部純金か・・・。趣味が悪いな。

さらに、近くにいたヴィルも

「私も!さっき鉛筆出すときにちらっと金色のものが見えた!」

と言ってくる。そして、その声を聞いて、

「え?物盗ったのか?」

「うわっ。ひっど。ていうか、アイリスから物盗るって、もう終わりじゃん。やっぱりあいつも、あいつの親と同じでバカなんだな。」

などという声が聞こえてくる。

「ちょっと!あんた、何とか言ったらどうなの!顔を上げなさいよ!」

「私の筆箱を見てください。」

「は?」

「今のところ、二人の証言だけで、私があなたのペンを盗ったという確証はありませんよね?ほら、そこにある私の筆箱の中身を見てください。」

「この期に及んでまだそんなことを言うの?まあ良いわ。見てあげるわよ。」

筆箱のチャックを開ける音が響き、私の筆箱の中身が全て机の上に出される。

「「・・・・・・」」

「どうでしたか?」

「あんた、どこに隠したのよ!」

「決めつけは良くないですよ。自分の筆箱を見てください。もしそこに無かったら、その時は私も自分の罪を認めますよ。」

「良いわよ!見るわ!」

またしても、静かになった教室内にチャックを開ける音が響き、アイリスの筆箱の中身が全て机の上に出される。

「「え・・・?」」

机の上にあったのは、定規、コンパス、鉛筆・・・そして、金色のペンだった。

さて、ここで種明かしをしよう。

確かに、金色のペンは私の筆箱に入っていた。最初に話していたときに、アイリスが私が見ていない隙を狙って入れていたのだ。しかし、私も伊達に魔力を上げ続けたわけでは無い。私の耳は、きちんとペンが筆箱に入るときの音をキャッチしていた。後は簡単。幻影魔法でペンを周りの色と擬態化させ、皆に見えないようにしたら、浮遊呪文でペンをアイリスの筆箱の中へ。もうこれ種明かしでも何でもないな。

まあとりあえず、アイリスが入れたことを知りながらも、アイリスたちの下手な芝居に付き合ってあげていたのだ。私の優しさに感謝してほしい。

「どうでしたか?あったでしょう?」

私は、ノートから顔を上げて、二人に向かって微笑みながら言った。

「きちんと寝たほうが良いですよ。じゃないと、今日みたいに幻覚を見てしまいますからね。」

「っ・・・・・・」

アイリスとヴィルの顔が真っ赤に染まり、アイリスが言い訳をする。

「アハハ・・・冗談よ冗談!ただいたずらしたかっただけよ!」

しかし、今更ごまかすことはできない。

「嘘だろ・・・」

「え?アイリスとヴィルが嘘ついてたってことか?」

「一体何のために?」

「頭いいユーリエに嫉妬してたんじゃないか?」

「確かに、ありえる・・・。」

さらに二人の顔が真っ赤になっていく。そして、八つ当たりなのか、アイリスが

「ていうか、あんたの鉛筆めっちゃダサくない?ちょっともっと近くで見せてよ!」

と言い、私の鉛筆を奪い、皆に掲げて見せる・・・かと思われたが、

「重っ!」

という言葉と共に、鉛筆から私の手が離れるのと同時に鉛筆がものすごいスピードで落ち、

バキィッ!

という轟音と共に、鉛筆が触れた瞬間机が真っ二つに割れる。そして、さらに鉛筆は落ち続け・・・

キャッチ!

ふう、危なかった・・・。このままだと床を突き抜けるところだった。

この鉛筆は、私の魔力上げトレーニングに使われていた、私の魔力を凝縮させて重く、固くしたものなのだ。今はもう魔力も上がり、トレーニングにはもう少し重いものを使っているが、折角作ったのだから有効活用しようということで普通に鉛筆として使っている。私的には、掴むだけで木の粉になる普通の鉛筆よりもこっちの方が使いやすい。

全く、軽率な行動は避けてほしいものだ。きっとここでも怒られるのは私だろう。

一方、鉛筆を落とした張本人は、恥ずかしくなるよりも先に呆然として、放心状態になっている。どうしたのだろう。この学校、放心状態になる人多いな。みんな勉強のしすぎで疲れているのだろうか…?

すると、机が割れる轟音が聞こえたのか、担任の先生(らしき人)が来た。

「こ、これは・・・またあなたですか。一体何があったのですか?」

すると、真っ先にヴィルが

「アイリスが全てやりました。ここにいる全員が見てます。」

と言った。

え?急な裏切り。どうした?頭でも打ったか?というのは冗談で。

多分、ここでアイリスを庇ってもどうせ最終的には自分一人に責任が全てかかるのを分かっているのだろう。

他の人達も、

「確かにアイリスがやってましたよ。」

「なんかユーリエに言いがかりもつけてましたよ。」

「ユーリエはやってないと思います。」

と言っている。

「アイリスさん、本当にあなたがやったんですか?」

「・・・」

アイリスは目を逸らし、答えない。

「・・・分かりました。ヴィルさん、アイリスさん、ユーリエさん。こちらに来てください。」

こうして、私たち三人は先生に連れられ、教室から出ていくのだった。

ー10分後ー

「では、失礼します。」

ガチャ。私は極力音を立てないよう注意しながらドアを閉めた。

ふう。終わった。とりあえず、私の無罪は認められたようだ。まあ、鉛筆の件については少し注意を受けたが。ヴィルもそろそろ取り調べから開放されるだろう。アイリスは・・・あのままではテストも受けさせてもらえるかどうか…。

私が教室のドアに近づくと、教室内はすごい騒ぎになっていた。

「ユーリエかっこいい!なんか最後の、すごいスカっとしたな。」

「だよな。闇属性だからって偏見持ってたけど、意外と属性とかは性格に関係しない気がしてきた。」

「しかも、ユーリエって意外と美人だよな。」

「そうそう!今度話しかけてみようかな。」

「えー、きっと相手にされないぞー。」

何かいつの間に私の株が上がっているのだが?というか、入りづらい・・・。え、この会話してる中に普通に入って良いのか?まあいいや。普通に入ろう。

私がドアを開けた瞬間、教室内がシンと静まり返る。そして、私が席につくと、

「あの、ごめん・・・。」

とルナが話しかけてきた。

「何がですか?」

「いや、その・・・助けられなくて。」

「いや、いいですよ。一人でも大丈夫だったので。でもーー」

すると、教室のドアが開き、先生の声が教室内に響き渡る。何か言いかけてたけど何話そうとしたか忘れたな。まあいいか。

「はい皆さん、席について。これからテストを始めますよ。」

そして、先生に続いてアイリスが入る。

「それでは、テスト用紙を配ります。」

よし、頑張るぞ・・・って、え?机割れてるのに、どうやって書くんだ?先生、テスト用紙配ってないで代わりの机持ってきてくれよ。

などと考えていると、ふと私への視線を感じた。そして、振り返ると・・・

アイリスが、怒りに満ちた目で私を睨みつけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る