第8話 異質


「えっと……鶏肉は買って……唐揚げ粉が切れてたから……」


「あっ、お酒だ……」


 二人で手分けして必要な食材を集める中。花華がお酒の方へと手を伸ばす。


「えっ……」


「あっ、すみません。未成年の霧子ちゃんもいるからやめた方がいいですよね……」


「いや俺も一応未成年なんだけど……」


 花華はぽかんと口を開け呆気に取られる。


「お前何歳だ?」


「えっと、二十三ですけど……夜道君は?」


「まだ十九だよ」


 彼女は舐め回すように俺の全身を見て更に目を見開かせる。

 確かに彼女は童顔なのに比べて俺は体格が大きめなのに加えて中学を卒業してからバイトで様々な経験を積んできた。そのせいで大人びて見えていたのだろう。


「私の方が年上だったんだ……てっきり夜道君の方が上だと……」


「そんなにおっさんに見えるか?」


「いえいえそんな……ただ私よりもずっと大人びてるなって……私なんて今までずっと親に甘やかされてましたから子供みたいなもんですし」


 そんな子供感覚が抜けない幼い自分が嫌で一人暮らしを始めた……ということなのだろう。


「そういえば夜道君のご両親はどんな方なんですか?」


 商品を探していた手が止まる。数年前のあの日のことが鮮明に蘇り、苦いものを口に放り込まれた気分になる。


「数年前に他界したよ。水難事故に遭ってな……」


「あっ……ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」


「いや別にいいよ。もう終わったことだし……受け入れたからな」


 数年前のあの日。俺達家族が乗っていた船は嵐に巻き込まれて沈没してしまった。波は荒く俺は霧子を助けるだけで精一杯だった。両親を救えなかった。


「夜道君は強いんですね……」


「強くなんかないさ。俺だってまだまだだよ。これからも変わって成長していかないとな」


「成長……そうですね。きっとこんな私でも……」


 花華は拳を強く握り締め、顔を若干前に向かせる。

 

「あぁ。きっと……」


 そう言いかけた所で棚を挟んだ向こうの通路から何かが裂けるような音がする。誰かが袋を落としたか引っかけたとかしてしまったのだろうと思ったが、それにしては棚の向こうから人の気配を感じない。


「どうかしたんですか?」


 途中で言葉をぶつ切りしてしまった上神妙な表情をしてしまっているので、それが気になってしまい彼女は首を傾げる。


「いやちょっとな……」


 どうでもよいことなのだが一度気にするとどうも気になってしまい棚の向こう側を見に行く。

 そしてその先でありえない光景を目の当たりにする。


 あたかもさも当然に元からあったかのように存在する円形の薄い謎の物体。しかし非現実的で同時にスーパーにあるはずもないそれに擬態能力などあるはずもなく、異質さは取り除けていない。

 物体の向こう側には草木が見えており、そんなもの店内にあるはずがない。しかも向こう側の風景から推定するにかなりの広さがある。


「何ですかあれ……気持ち悪い」


「あれは……門だ」


 理由は分からない。だが直感的にあれが何かと何かを繋ぐ役目を果たす門だと、この世界にあっちゃいけない異質なものなのだと感じ取る。

 そしてその予想は的中してしまう。


「ギギギギ……」


 気色の悪い呻き声を上げながら、門の向こうから一匹の二足歩行の化け物が入り込んでくる。

 たくさんの手と黒色の甲羅のような長い背中。その姿を無理矢理地球上のもので合わせるならダンゴムシが一番近いのだろう。

 しかし体格は大柄な俺よりも大きく、本能で感じるこの恐怖感は明らかに地球上のそれではない。つまりこの生物は……


「花華は下がってろ……こいつは魔物だ!!」


 俺は構えることができたが、彼女は唐突なことに腰を抜かしてしまっている。この場からはすぐには逃げられない。そして最悪なことに魔物がこちらに気づき標的を定めるように目線と手をこちらに向ける。


「くっ……変身!!」


 地上での使用は緊急時以外は禁止されているが、今は明らかにその緊急時だ。

 俺は迷わずパティシーを装着して変身し剣を二本取り出す。


「何が何だが分からないがやるしかないか……かかってこい!!」

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