第20話 収まらない怒り


 アーマーを身につけて二刀流で応戦しようとするが、二本の剣で三人に対応できるわけがない。

 それに加え今の俺は病み上がりだ。特に殴られた頭部の痛みが著しい。激しい動きをする度に眩暈がしてくる。


「おいおいこいつ本当にランキングトップ10に入ってるのかよ! 何だか弱いな!」


 一人の回し蹴りが俺の後頭部を捉え脳を大きく揺らす。傷跡を刺激され頭痛と眩暈は更に大きくなり立っていることさえ困難になる。

 膝を突くのと同時に変身が解除され、吐き気が込み上げてくる。


「ゔぉぇぇ!!」


 ついには限界を迎え、俺は胃液をその場にぶち撒ける。退院してすぐに出たため何も食べていなかったのが幸いだ。吐き出したのが胃液だけだ。


「うっわ汚ねぇ!!」


 ゲロの一部が配信者の一人の足にかかり、奴は俺を汚物を見るように見下げ付着したゲロを地面に擦り付けて拭き取る。

 そもそも不利な状況でのこの戦い。俺に勝ち目などあるはずもない。

 意識が段々と遠のいていく。こいつら本当に俺を殺す気だ。


 立つこともできず死を待つのみかと悲観するが、その時倉庫の扉が乱暴に開け放たれる。


「ここにいた……兄さん……」


 しばらく走ったのか、霧子がよろけながらも倉庫に押し入る。


「誰だお前!?」


 俺に手を下そうとしていた奴が霧子の方に向かっていってしまう。


「霧子……逃げ……」


 俺は切れた口から血を流しながらも這いつくばり追いつくはずもない相手を追いかける。

 たった一人の家族を守るために。これ以上誰かを失わないために。


「兄さん……アタシも……戦う。兄さんだけに辛い思いはさせない」


 霧子は覚悟を決めた目でパティシーを取り出す。いやパティシーではない。形状が所々違う。

 霧子はそれを腰に巻きつけ装備する。左腰にはパティシーのオーブを入れる部分のような装置が、右腰には注射器のようなものが現れる。

 そして正面は装飾が施されたカプセルのようなものが横になってくっついている。


「は……? 何だそれ?」


 男達も俺と同様に謎の装置に訳も分からず思考が停止する。

 それに構わず霧子はオーブを左腰の装置にセットする。すると注射器にどういう原理か液体が溜まっていく。


「溶接」


 霧子は一言加え、注射器をカプセルに対して斜めに突き刺す。注射器がカプセルに溶接され一体化し、霧子は片手でおもいっきり注射器を押し中身をカプセルに注入する。


「変身!!」


 途端に黄色のオーラと凄まじい熱が霧子から放たれる。

 俺の所は大丈夫だったが、近寄っていた奴は吹き飛ばされ大火傷する。


「霧子……? お前それは……」


 霧子の皮膚が変質し黄色と銀色のアーマーになる。両手の甲には黄色の薔薇が付いており、彼女はそれを揺らしながら男達に迫る。


「兄さんは……アタシの大事な人は……アタシ自身が守る!!」


「ざけんな……三人に勝てるわけないだろ!!」


 火傷した奴もすぐに立ち上がり、三人がかりで霧子に襲いかかる。

 しかし予想外なことに戦い始めてみると追い風は霧子の方に吹いていた。


「なんだこいつ……強ぇ!!」


 明らかに霧子の方が他三人と比べて身体能力が高い。戦い方が拙いせいで何発か腹や顔面に攻撃をもらうが効いている様子はない。


「こっちも武器を使っても……いいですよね」


 互いに譲らない攻防。それに痺れを切らし霧子はオーブを一つ取り出しセットする。

 注射器に再び液体がチャージされ、それを勢いよく注入する。黄色の薔薇が蠢き変形し、彼女の両手にチェーンソーが出現する。


「絶対に許さない……!!」


 霧子はチェーンソーの刃を高速回転させ三人に斬りかかる。三人も剣や盾で防御するものの防げずにアーマーを深く傷つけられる。

 内二人がアーマーを剥がされ残り一人となる。


「やっ、やめっ……来るな!!」


 最後の一人は弓を乱射するが手元がブレて当たらない。そこに霧子は容赦なく肩にチェーンソーを押し当ててアーマーを解除させる。

 

「そこの人達も……許さない……!!」


 これで終わりかと思ったが、霧子は隅で子鹿のように震えていた不良らに標的を移す。


「待て霧子……そこまでしなくても……」


 消え入る声で止めようとするものの離れているせいで届かない。霧子は容赦なく不良達に手を上げようとする。


「おい……うるさいと思ったら……これはどういうことだ?」


 しかし不良達が殴られる直前に聞き覚えのある声と共に男が倉庫に入ってくる。


「フォ、フォルティー……!!」


 不良と倒れた三人が歓喜の声を上げる。彼らにとって最も心強い最強の男が現れたのだから。

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