第21話 固執故に

「あなた……確かフォルティーだっけ? あなたも兄さんを傷つけたの? なら……」


「傷つけた? 何の話だ?」


 フォルティーは本当に何も知らない様子だ。今の事態を認識するために右に左にと視線を動かす。


「しらばっくれるな!!」


 霧子は完全に頭に血が昇っておりフォルティーの話を聞こうとはしない。


「こいつらが兄さんに冤罪をかけてバイトをクビにさせて、更には兄さんを後ろから殴って怪我させて……それに今殺そうとしたんだ!!」


 血を見て興奮する獣のように、俺の怪我を見て怒りを爆発させる。


「本当なのか?」


 霧子とは対照的にフォルティーは冷静に不良達に事実確認を行う。不良達は完全に腰を抜かしただ頷くだけだ。


「そうか……」


 目を細め三人と不良達を見つめた後フォルティーは霧子の方に歩を進める。


「どけ」


 しかし戦うことはなく霧子の横を通り抜ける。これには霧子も呆気に取られる。

 そしてあろうことか、フォルティーは不良達の胸倉を掴み上げ顔面を容赦なく殴りつける。


「このクソ共が!!」


 残りの不良達も抵抗すらできずにフォルティーに蹴られ殴られあらゆる暴行を加えられる。全身傷だらけになった後彼は自分のチームのメンバーにも同様に、怪我なんておかまいなしに重い一撃をくらわす。


「どういうことだ……?」


「オレが一番嫌いなのは弱いくせに自分を強者だと勘違いしている奴だ!! 集団になって夜道一人を狙い、あまつさえ不意打ち? 笑わせるな!!」


 彼は横に転がるメンバーの腹を蹴り上げ血を吐かせる。呻き声を上げようが彼は全く気にせず悪びれもしない。


「それはあなたもでしょ?」


 霧子は注射器を引き抜き変身を解除する。そして怪訝な表情を浮かべながらゆっくりと質問を飛ばす。


「こいつらに利用価値があると思って様子見してただけだ。だがこの前の件といい今回の件……もういい。このグループは今日をもって解散だ!!」


 フォルティーは今まで一緒に頑張ってきた仲間を迷いなく切り捨てる。この場にいないメンバーもいるというのに。


「そ、そんな……」


 ボロボロの三人から悲痛な声が上がる。


「ごめん兄さん……まずは病院だよね。行こう」


 霧子もやっと冷静になってくれて、この場はフォルティーに任せて救急車を呼び近くの道路まで俺を運んでくれる。

 すぐに救急車は来て俺は病院に運ばれるのだった。


☆☆☆


 

「兄さん……」


 入院生活三日目。午前中に来た花華から貰った果物を食べていると霧子が病室に入ってくる。

 

「あれ……フォルティーも一緒なのか?」


 霧子の後ろにはフォルティーがおり、手には何やら分厚い封筒を持っている。


「退院まで一週間はかかるそうだな」


「あぁ。まぁこれくらいの怪我で済んだだけまだマシだな」


「これは慰謝料だ」


 フォルティーはすぐ横の棚に封筒をドスンと置く。中身が詰まっており恐らく三桁万はあるだろう。これだけあれば今回の手術費用などその他諸々は工面できる。


「義理は通した。オレは例の魔物を追いかける。じゃあな」


 用事だけ済ませると無愛想に彼は病室から出て行ってしまう。


「って、おいもう少し……もう行っちゃったよ。あいつとは病院で鉢合わせたのか?」


「えぇ偶然会って。一言謝られたよ。家族を危険な目に合わせてすまないって」


 失礼で傲慢なところはあっても仁義や義理などはしっかり通すその心意気に俺は彼に二回目の感心を覚える。


「それでさっき事件の概要を聞いたんだけど、やっぱりメンバー達はフォルティーに何も言わずに好き勝手やってたみたい」


「だろうな」


 倉庫でのフォルティーの口振りからして大体のことは察しがつく。

 フォルティーが例の魔物の一件で考え込んでしまい、それを勘違いした他メンバーが俺に暴走族や不良特有の返しとしてあれらのことを行った。

 そして強さに固執するフォルティーがその一件に大激怒といったところだろう。


 実際この考察はあながち間違ってなく、それから話されたことはこれらを裏付けるものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る