第35話 私情のない非情

「シャーロット!? 何して……」


「やぁ夜道君にフォルティー君に霧子君。いやーちょっと急遽依頼が入ってね……」


 そのタイミングで木の影からベラドンナが飛び出してきて両手の剣でフォルティーを十字に斬り裂こうとする。まるであの魔物を守るかのように。

 フォルティーはその斬撃を紙一重のところで躱し、バク転しながらハンマーをキャッチする。


「おい夜道!! こいつらあの探偵二人組か!? 何でオレを攻撃する!?」


「わ、分からない! あっ! あの魔物が……!!」


 例の魔物はというと突然現れた二人に困惑しているが、この場に自分とは違う種族の者が五人いるということで不利を感じたか後退りを始める。

 

「ちっ……逃すか!!」


 やっと見つけた相手だ。なんとか食らいつこうと前へ出るがその道はベラドンナに塞がれる。


「くっ……退け!!」


 フォルティーは人相手だろうと容赦なく鈍器で殴り飛ばそうとする。


「まぁ待て二人とも」


 しかしシャーロットが止めに入ったことで一触即発は避けられる。それでもフォルティーは今すぐ二人を殴り飛ばして逃げた魔物を追いかける勢いだが。


「彼らとはこれからも長い関係になりそうだ。ここは一つわたし"達"の本気を見せてあげようじゃないか」


「ふふっ……そうですね」


 ベラドンナはボタンを三回押し体からキンキンと謎の金属音を鳴らす。その後関節をありえない方向に曲げ変形していく。

 両手足を地面に垂直になるよう真っ直ぐにし、やがて彼女は巨大な両手剣へと変貌する。


「フォルティー君。残念だが君の依頼は取り消しだ。お得意様の依頼により今から君をわたし達で倒す」


 シャーロットはルーペを放り捨てて飛んできたベラドンナをキャッチする。


「あぁそれと夜道君。もし今からこの戦いを邪魔するなら、君には違約金を払ってもらうよ」


「い、違約金?」


「そりゃあそうだろう? だってわたしの部下でありながらその業務を妨害したんだからね。契約書にも書いてあったろう?」


 彼女の言っていることは何一つ間違っていない。もし俺がフォルティーを助けるようなことをしたら数百万円の罰金を負う義務がある。

 こんな事態になるなんて思ってもなかった。


「兄さん……ここは……」


 逃げる魔物に憤慨するフォルティー。俺も何かしなければと思い立ち拳を震わせるが、その手を霧子が優しく包み込む。

 

「夜道は下がってろ。こんな奴二人がかりだろうがオレ一人で十分だ」 

 

 フォルティーはこっちの事情を汲み取ってくれて一人で探偵コンビの相手をするべく、臆することなく武器を構え立ち向かう。


「まだ分からないのかい? 君は敢えて負ける状況をもう作られている。勝敗はもう決まっているんだよ」


「うるせぇ!!」


 フォルティーは煽りに乗っかりハンマーを振り上げるものの、そんな単純な攻撃彼女には通用しない。

 両手剣で受け止めその衝撃は完全に吸収される。剣自身になっているベラドンナは痛いのかどうか分からないが、シャーロットの様子から鑑みてもダメージは皆無に等しいのだろう。

 

「一つ言っておくよ。わたし達が協力すれば、どんなものでも打ち砕く矛になり、どんな攻撃も防ぐ盾となる。つまり最強さ!」


 剣にのしかかるハンマーを振り払い、フォルティーの胴体に鋭くも重い横薙ぎを放つ。咄嗟にハンマーを回し持ち手で防ぐものの、そんな棒きれでは威力を相殺しきれず横腹に重たい一撃をもらってしまう。


「うぐっ……そういうことか……!!」


 フォルティーも俺同様に気づいたはずだ。明らかに両手剣の振りが速いと。

 アーマーにより身体能力が向上しているといっても不自然にも程がある。速さの緩急の付け方がおかしいのだ。まるで剣に意思が宿って二人で動かしているかのように。


 つまりはそういうことだろう。あの剣はベラドンナの意思で自由自在に動かせるのだ。もしかしたら空中浮遊して暴れるなんてこともできるかもしれない。

 

「どうする? 怪我したくないなら手を引くことを勧めるが」


「ふざけるな……オレは誰の言いなりにもならない。強さに屈服などしないっ!!」


 どれだけ疲労があろうと、どれだけ傷を負おうと彼の不屈の精神は揺るがない。傷などをもう治ったかのように立ち上がりまた二人と対峙するのだった。

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