第34話 妨害
「ほらここだよ。ここがこの前食べに来た中華料理店」
駿君を助けた日から数日が経ち、警察からの聞き取りも敷島さんらの介入あってかすぐになくなり、今はこうして何不自由なく妹と外食をしに来れる状態だ。
「へぇ……結構大きなお店だね」
「だろ? 最近できたから綺麗だし良い店……」
早速店に入ろうとしたが、ポケットに入れていたスマホが振動し足を止めてしまう。
「ちょっと待っててくれ」
電話をかけてきた相手はシャーロット。何か仕事の連絡かもしれないので一旦人が居ない路地に入り通話を開始する。
「緊急事態だ。今すぐフォルティー君と合流してくれ」
「え? あの今日俺休みだし今から……」
「例の漆黒の騎士が現れた。彼の援護に向かってくれ」
投げられた仕事の概要に不意を突かれ耳を疑う。今まで姿を現さなかった例の魔物が見つかったというのだ。
「依頼内容に倒すところまでしっかり入っているからね。今別の配信者がその魔物に襲われている最中だ。彼も向かうから君もすぐに……」
「勤務時間外なのに?」
「君はフォルティー君とあの魔物に関して協力してたんだから向かうのが筋じゃないのかい? それに特別手当として給料は五倍出すが……」
給料に関してはどうでもいいのだが、確かにフォルティーとは協力関係という約束がある。手伝わないのは不義理だ。
「兄さん。例の魔物の件なら手を貸そうか?」
霧子をまた置き去りにするのに罪悪感を感じていたが、彼女の方から寧ろ協力させてくれと申し出てくる。
「いいのか?」
「だってその魔物配信者を見つけるなり襲うんでしょ? いつか兄さんに怪我させるかもしれないし、なによりフォルティーさんは兄さんを助けてくれた人だから恩を返さないとね」
「そうだな……!!」
これで行かない理由はなくなった。俺達はフォルティーに連絡しダンジョンで落ち合うと決め、他の配信者が押され始めたあたりでダンジョンに潜る。
「おいこっちだ夜道!!」
蔦に絡まれた木々と水に囲まれた湿地帯でフォルティーと合流する。今回は霧子の試作品のパティシーがまだ企業秘密のため配信はオフにしてある。
だから彼は躊躇いなく俺の本名を呼べる。
「一応メインで戦うのはオレだ。お前らは援護とあいつが逃げそうになった時は攻撃して止めてくれ」
「了解。霧子は他の配信者のカメラに映るわけにはいかないから後ろで待機で、他の配信者のカメラがなくなったら前に出てくるってことでいいか?」
「うんそうさせてもらうよ」
霧子は注射をカプセルに打ち込み薔薇を舞わせて手の甲からクロスボウを出現させる。そして俺とフォルティーで先陣を切り例の魔物と交戦している場所まで駆けて行く。
しかし湿地帯のせいで地面に足を取られあまり速度を出せず、バイクも横転や木にぶつかる危険性を考え使用できない。
「おいいたぞ!」
一キロほど歩き十分程で例の魔物を見つける。たった今最後の配信者を地面に伏させ背中に刃を突き立てる。
「ぐぁ……!!」
アーマーがメキメキと嫌な音を立て配信者は限界を迎え地上へ転送される。
「あれは戻った後も中々痛そうだな」
「ふん。まぁオレ達はそうならないがな。打ち合わせ通りお前は援護に徹底しろ。奴はオレが倒す!!」
フォルティーはハンマーを一度地面に叩きつけ、泥を飛ばしながら勢いよく奴へ突き進んでいく。
「霧子! もう配信者はいないから出てきても大丈夫だぞ!」
「うん。ところでフォルティーさん……噂通り中々の強さだね」
フォルティーは前より更に腕を上げており、この前では捌けずくらっていたような攻撃すら容易く弾いている。
血の滲むような鍛錬の賜物だろう。イメージトレーニングもしていたのか人の反射速度を超えて対処し相手の動きが手に取るように分かっているようだ。
「俺達も援護に回るぞ」
俺は事前に切り替えておいたこの蜘蛛のアーマー特有の武器である弓を取り出し、いつでも矢を発射できるよう構えておく。
フォルティーと魔物。両者一歩も譲らない攻防で互いに互いの攻撃を弾き受け流し合う。
「今だっ!!」
そして互いの重撃がぶつかり合い二人がのけ反った所を狙い、俺の掛け声と共に霧子と矢を放つ。
真っ直ぐ飛んだ二本は姿勢が崩れた魔物に命中し、鎧がない関節に突き刺さる。
「よくやった二人とも!!」
フォルティーは怯んだところを容赦なく詰め寄りハンマーを振り上げる。そのまま頭をかち割る気だ。
一秒にも満たない決定的な一瞬。この場にいる者の視線が二人に集中する。
しかしフォルティーの手元に遠くから飛んできた光線が当たりハンマーが宙を舞う。
「ぐっ……誰だ!?」
新しい魔物か。それとも手柄が欲しくてきた別の配信者か。後者なら霧子を離れさせなければならない。
だが光線を放った人物はそのどちらでもなかった。
「そいつを倒されるのはちょっと困るかな」
フォルティーを攻撃し妨害したのは茶色のアーマーを身に纏い、巨大ルーペを振り上げていたシャーロットだった。
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