第11話 来訪者

「そんなかしこまらなくていい。君達はダンジョンから訪れた魔物を倒し人命を救ってくれた。オレから礼を言わせてくれ」


 目上の人を前に恐縮する俺達の空気をこの人は和ませてくれる。優しい笑顔で応対してくれる。

 しかしそれでも花華が初対面の人と話すのは難しいので俺が積極的に話そうとする。

 

「それでさっきの魔物なんですけど……何か円形の何だろう……」


「ゲートだな……そうだな。お前達には知る権利がある。全部包み隠さず話そう」


 敷島さんは俺がバイクで割ってしまったガラスを拾いつつ、割れた一面張りの窓の所から外に少し出る。


「奴らは異世界からゲートと呼ばれる門を通ってこの地球に来ている」


 敷島さんはガラスをスーパーの中へ向かって捨てる。

 ガラスの破片が魔物、駐車場が異世界でスーパーの中が地球ということだろう。


「ところで異世界って……?」


「世間がダンジョンと言っているものだ。あれは遠く離れた別の惑星、知能のない怪物だらけの場所なんだ」


 そんなことは初耳だ。いや似たような考察などは聞いたことがあったが、確定的な情報はまだ出ていないはず。


「そしてゲートは不定期的に現れる短期的に地球と異世界を繋ぐ門で最近になってこの街に頻繁に現れるようになったものだ」


「どうしてそんなものがこの街ばかりに?」


「それは不明だ。ゲートに関しても分からないことが多すぎる。今回のように魔物が出てきてしまうこともあれば何もないこともある」


 現状は何も分からないってことか……それにしてもいつ魔物が現れてもおかしくないか……


 もちろんそんな巨大な熊がどこにでも出没するのと同義な事態は恐ろしいが、怖いのは自分が死ぬことではなく花華や霧子に被害が及んでしまうことだ。

 花華はともかく霧子には戦う手段がない。足が速い魔物にでも見つかったらその瞬間お終いだ。


「もちろん弊社の方でも解決に向けて政府と連携して動いている。だからこそ君達に頼みたいことがある」


「頼みたいこと? 何ですか?」


「今回の件は混乱を避けるためにも他言無用で頼む。それともし今後ゲートを見つけることがあっても自分の命を最優先にして動いてくれ」


「そうですか……でも、俺も守りたいものがあるんです」


 分かったと一言返すだけでいいのに、自分を最優先にして動くという考えには納得できず言いかかってしまう。


「そうか……頑張れよ」


 敷島さんは俺の肩にポンと軽く手を乗せると警察にこの場を任せて立ち去っていった。

 その後俺達は軽く警察に事情を話した後すぐに解放されるのだった。


「それにしてもすごいことになりましたね……まさかあんな事件が他にも起こっていたなんて」


「そうだな。これからも似たようなことが起こるかもしれないから気をつけないと。それより……」


 もちろんゲートの件も大事だったが、俺は今目の前にある問題の方が重要だ。

 スーパーの荒れ具合を見てその問題は確信へと変わる。


「これスーパーのバイトもうできないよな……」


 クビまではいかなくても少なくともしばらくの間は工事などでここを封鎖しなくてはならない。その他にも何やらゲート関連で調査が入るためしばらく封鎖したりもするらしい。


「どうしてこうなったんだぁ!!」


 その日はバイトがなくなり嘆き、帰りにコンビニで質素な食事を買って帰ることとなるのだった。



☆☆☆



 薄暗い倉庫の中に響き渡るロックな音楽と複数人の男の声。開かれたままの扉からは海風が入ってきて男達の服を揺らす。


「そういえばリーダー。最近妙にランキングを上げてる奴がいるらしいんすけど知ってます?」


「知ってる。アレギィとかいう奴だろう? オレの耳にも入っている」


 リーダーと呼ばれた男は他のメンバー達に混じって酒を飲んだりせずただスマホを見つめている。その画面には今話題に上がったアレギィの配信、特に戦闘を行っている場面が映し出されている。


「あいつ一回締めに行くってのはどうですか? もしかしたら……」


「お前はオレがこんなルーキーに負けるとでも思っているのか? このランキング一位であるこのオレが?」


 リーダーは今発言したメンバーの胸倉を掴み上げてそのまま持ち上げる。

 他のメンバーは止めようとはしない。それはこのリーダーがこの場で圧倒的に立場が上だからだ。


「す、すみません。でもこいつランキングの上がり方がおかしいし念の為を思って……」


「まぁいい」


 リーダーは手を離し彼を地面に降ろす。緊張が解け他メンバーの顔の強張りも消える。


「だがこいつを締めるっていう意見は賛成だ。少し興味があるしな……」


 今まで鋭い表情だった彼の口角がほんの少し上がる。薄闇の中にその顔がスマホのライトによって照らされるのだった。

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