第39話 保志町彗星

 それからシャーロットとプロデューサーさんに仕事内容を伝えられ、プロデューサーさんは仕事があるので探偵事務所を後にする。


「あぁそうだ。この件は君一人で頼めるかな?」


「えっ、一人で?」


 またいつものように三人で解決しにいくのかと思ったが、今回はそうではないらしい。


「まさか……この前の件のせいか?」


 この前の、二人が美里さんから依頼を受けてフォルティーを襲った件。あれ以来俺と二人の間には明確な溝ができたような気がする。


「いや違うよ。わたし達はかなり深刻な依頼の真っ最中でね。こっちは難しい案件だから新人の君は彗星君の方の依頼を頼むよ。そっちは人員を割く必要もなさそうだしね」


 俺を信頼しているのか、依頼を軽く見ているのか分からないが声色から俺のことを邪険にしているといった様子はない。本当にその難しい方の依頼とやらから手を離せないのであろう。


「分かった。じゃあ俺は早速彗星のところに行くよ」


 俺は最近急に人気となり敵が増えている彗星のボディーガードという体らしい。なのでまずは直接話を聞いてみようと今彗星がいるという練習場に向かう。


「あれ!? もしかして夜道くん!?」


 道を半分ほど進んだところで背中に陽気な男性の声がぶつけられる。振り返って声の出所を見つけるが、俺はその青年に見覚えはない。


「えっと……誰だあんた?」


「え……覚えてないの? オレだよオレ! 烏野友也!」


 名前を聞いても記憶は反応を示さない。薄っすらとどこかで見たような気はするのだが明確なものへと移り変わらない。


「霧子ちゃんと同じ大学の友也だよ! ほら大学に霧子ちゃん迎えに来た時にオレも一緒にいたでしょ!?」


「あぁ……そういえば……」


 段々と彼の顔が俺の記憶と一致してくる。そういえば少し前に霧子にダル絡みしていた大学生がいたはずだ。


「お前あの時の霧子のストーカーか!!」

 

「ストーカーって人聞き悪いな……オレはただ霧子ちゃんを守りたくて側に居たいからついてってるだけだよ!」


「お前……それをストーカーって言うんじゃないのか?」


「はっ……!!」


 今まで自覚がなかったのか、彼は自分の行動を振り返り仰天する。

 こいつは見た目から考えて二十は過ぎているはずだ。まだ未成年の霧子に手を出すのは法的に、そして妹がこんな軽い男と付き合うのは兄として反対だ。


「とにかく霧子に付きまとうのもほどほどにしとけよ。俺は行くからな……」


「ちょっ、ちょっと待ってよ! 行くってどこに? 面白そうだからオレもついてくよ!」


 練習場にまた足を進ませようとするが友也が服の裾を掴みそうさせてくれない。


「はぁ? 仕事だよ仕事。探偵の手伝いやってるから依頼でアイドルのところに行くんだよ」


「何それ本当に面白そうじゃん! オレも行かせてよ!」


「いや何でそうなるんだよ。それに勝手に手伝わせたら所長に何言われるか分からないしお前は大学に戻って勉強でもしとけよ」


 正直言って俺はこの男とはとことん相性が悪いと感じている。なんというかデリカシーが欠如としていて距離の取り方に致命的なバグが生じている。霧子が嫌がっていたのも納得だ。


「やだよ勉強よりこっちの方が楽しそうだし、じゃあ仕事の手伝いじゃなくて勝手にオレが友達についてってるだけだから。それならいいでしょ?」


「はぁ……いつ友達になったんだよ。分かった。でも余計なことは絶対にするなよ」


 こういうタイプはどれだけ言っても引き下がらない。それに時間も無限ではないので俺は諦めついていくことを許可する。

 こんなのでもかなりレベルの高い大学の者だ。本当に取り返しのつかないことはしないだろう。

 

 そうしていつまでも険悪にいくわけにはいかないので、大学での霧子の様子や彼自身の話をしながら歩く。

 

「ここだな……」


 俺はプロデューサーから渡された地図を確認する。この建物で間違いないようだ。


「もう一回言うけど頼むから余計なことはするなよ?」


「分かってるって! オレ頼りになるから任せてよ!」


 本当に大丈夫かこいつ……?


 心配が拭えないが、俺は建物に入り保志町彗星を探す。中は鏡が壁に張り付いていて動きやすい材質の床でできている。

 探す必要などなかった。中に入った途端俺の二つの球体は自然と彼女を捉えてしまう。

 キレのあるダンスに絵画とも思える整った顔立ち。体と顔。その両方が完璧な女の子がそこに居た。

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