第4話 コラボのお誘い
「友達?」
「あっ……いや。別に嫌なら無理にとは言わないですけど……」
「そんなことないよ! 配信者同士これから仲良くしてこうよ! じゃあこれ連絡先ね。何かあったらいつでも連絡していいから」
俺はスマホを取り出しメールアプリのQRコードを表示させる。彼女はそれを自分のスマホで読み込み俺と連絡先を交換する。
「あの……私もっと人と話せるようになりたいんです。練習ってわけじゃないですけど、偶に話すのに付き合ってもらったり、一緒に配信したり、そういうことしてもいいですか?」
「もちろんだよ! これからよろしくな!」
こうして俺と影夢は友達となり、それからは配信についてや普段何をしているかなど話を弾ませる。
「へぇ……配信ってこんな機能もあるんだ……影夢って物知りなんだな!」
「あの……できれば下の名前で、花華って読んでもらえますか? 友達なんですし」
そろそろ帰ろうかと思い始めた時、影夢が不満げに声を漏らす。
「分かった。これからよろしくな花華」
「え、えへへ……はい!」
友達ができたことが余程嬉しかったのか、それとも下の名前で呼ばれたことが嬉しかったのか、髪の間からチラつかせる口角が少し上がる。
「じゃあ俺晩ご飯作らないといけないからまたな!」
「晩ご飯……あっ、あのっ!!」
アパートから出ようとしたものの、花華に服の裾を掴まれる。
「私も一緒に食べてもいいですか?」
「え……?」
☆☆☆
「それでスーパーで偶然会ったその……花華さん? を連れてきたの?」
一方的な頼みだったが、純粋な瞳からくるお願いを断るほど冷たくはなれなかった。
「あはは……お邪魔してます」
花華は初めて会う霧子にバツが悪そうにしており、先程から会話が弾まない。
霧子も相当の人見知りで俺以外とあまり話さないため、俺は会話が苦手な二人に板挟みとなる。
「ほ、ほら! 肉じゃができたからみんなで食べようぜ!」
その凍りついた空気を壊すように俺は作り終えた料理を机に並べる。
「アタシも手伝うよ」
霧子も運ぶのを手伝ってくれて、箸やお皿などを花華の分まで運んでくれる。
「あっ、ありがと……」
「少しは自分で運んだらどうですか?」
花華の分の食器だけを机の上に強く叩きつけるように置く。
「ひっ……!!」
「おい霧子! 人見知りを治せとは言わないけどな、お客さんなんだからそういう態度はよせ」
「はい……ごめんなさい」
若干不服そうにしながらも、少しは申し訳なさそうにして彼女の食器を綺麗に整える。
「お客さんじゃありません……」
「え?」
「友達です! 私も手伝います!」
俺の言葉が彼女の何かに障ってしまったのか、ムキになってまだ運ばれていないコップや飲み物を運ぶ。
「そうだったな。じゃあ三人で楽しく食べようぜ!」
空気が溶け始めたのでそれに乗っかりなんとか三人で話せるよう手を回す。
「へぇー……あなたがあのフラウさんなんですか。いつも配信見てますよ」
「えっ、そうなの!? えへへ……嬉しいな」
霧子はよく配信を見ている。それこそ通学の電車の中や休憩時間にも。
妹は以前から優秀な成績を残しており、ある大学の研究室から声がかかっているほどだ。そこがダンジョンやパティシーの研究を行っているらしく、だから妹は学業と並行してダンジョンの勉強もしている。
そうだ……だからこいつの負担を少しでも減らすために俺はもっと頑張らないと。
「そういえば夜道君はいつから配信を始めたんですか?」
「俺? 半年前くらいかな。それまでのアルバイトとかも減らして配信業をやり始めたよ」
「バイトも……すごいですね夜道君は」
「まぁダンジョン配信もいつオワコンになるか分かんないし、せめて妹が大学を出るまでは俺が稼がないといかないからな。
念の為を考えて安定した職を残しておかないとな」
もう両親はいない。裕福な家庭でもないから遺産もないし頼れる親戚もいない。だからこそ霧子は、霧子の夢は俺が守らないといけない。
たった一人の家族なのだから。
「ごちそうさまでした! すごく美味しかったです!」
三人で食卓の上の料理を全て平らげる。花華も満足してくれたようで、作った俺としても嬉しい限りだ。
「あの……少しいいですか?」
妹が勉強のために自室に行き俺が洗い物をやっている最中、花華から声がかかる。
「いいけどどうしたの? ご飯のおかわり?」
「いや違いますよ! その……今度暇な時でいいので一緒に配信しませんか? そしたら私もコミュ力を上げる方法が分かるかもしれませんし……」
「そうだな……うん。そうするか!」
俺は妹にもっと配信活動について知った方がいいと諭されたことを思い出し、その提案に乗ってみることにする。
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