第13話 最強
「ちょっと待ったぁ!!」
俺は注射を取り出した男にタックルをかまし女性に危害が及ぶことを未然に防ぐ。
注射は地面に落ちてパリンと割れ中身の液体がぶち撒けられる。
「てめぇ何してんだ!!」
男達は計画が破綻したことに頭に血を昇らせて俺の顔面を強く殴りつけ、俺はそのままゴミ箱に叩きつけられてしまう。
「おいお前は女押さえてろ」
一方がもう片方に指示しその後こちらに迫ってくる。その巨体はとてもじゃないが自分では勝てそうにない。
パティシーを使えば……いやだめだ。あれの使用はいかなる場合でも人間相手には禁じられている。いくら正当防衛でも下手したら傷害で捕まる。
そうなったら霧子の進路に影響が……
パティシーを出そうとしたその手を止め、俺はその男から繰り出される蹴りを腹にもらう。さっき霧子と食べたものが飛び出そうになり必死に口を手で押さえる。
「へっ……弱いくせにイキがりやがって。おいもうその女頭殴って連れてけ」
「へいへい」
男は拳を振り上げてそれを女性の頭部に向かって振り下ろす。
しかしその時俺が来た道から誰かが走って駆け込んでくる。黒いロングコートを来た男だ。
彼は止まらず拳を振り上げた男に飛び蹴りを放ちその膝が頭にめり込む。それにより暴漢は完全に気を失いその場に伏す。
「なっ……何だお前!!」
もう一方の男は突如として現れたヒーローに驚くものの即座にハンマーを取り出す。
「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
ハンマーを勢いよく振り下ろすがそれはいとも容易く止められてしまう。持ち手のところを押さえられ振り下ろさせない。
「ハンマーってのはこう使うんだ」
彼は暴漢からハンマーを取り上げて、クルクル回転させながら最短距離で男の右肩を強く打つ。男は絶叫した後にその場に膝を突き呻く。
動きを繋げるようにして、隙なく男の顔面に膝を入れて意識を狩り取る。
「これに懲りたら自分の弱さを自覚することだな……と言っても聞こえてないか」
彼はハンマーをゴミ箱に放り捨ててこちらには何も言わずに立ち去ろうとする。
「あっ……き、君はもう行って大丈夫だよお大事に。ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
女性に怪我がないことを確認してこの場から立ち去らせ、俺はお礼を言いに走って彼の背中を追いかける。
「何だ?」
「いやお礼言いたくてさ。ありがとう助けてくれて。あんたが来てくれなかったら危なかったよ」
俺は敬意と感謝を込めて手を差し出す。しかしその手は彼に叩かれるようにして振り払われてしまう。
「弱者の礼などいらん。それにあの男達も気に入らなかったが、何より気に入らないのはお前だ」
「お、俺?」
眼前に指を突き出され、あまりの勢いにその場に尻から転びそうになる。
「力もないくせに粋がるな。弱者は弱者の収まる所に収まっとけ」
彼はそれだけ言うと俺を突き放し立ち去っていく。
「それでも言わせてもらうよ。ありがとう!」
「ふん……言いたいなら勝手に言っとけオレは聞かないからな」
男は俺の礼など無視してどこかへ去って行ってしまう。俺は警察に暴漢二人を引き渡してからバイトの面接へと急ぐのだった。
☆☆☆
バイトの面接の翌日。俺はランキング一位の男に会うべく駅の近くの料亭に寄る。店の中の雰囲気は幻想的で、昼だというのに中は薄暗くライトアップされている。
そこの天井の低い部屋に案内される。その天井には星座が描かれている。
「三分遅刻だな。お前……ん? お前は……」
そこに座っていた男性に俺は見覚えがあった。つい先日俺を助けてくれたあの男だ。
今日は黒いコートの下に青い服を着ている。
「あんたがフォルティーだったのか……」
「それはこっちのセリフだ。まさかこんな弱そうで冴えなそうな奴がアレギィだったとはな」
「何だよ会って早々失礼な奴だな……」
ともかく俺は席に着き相手の話を聞く姿勢を取る。
「まぁ別に特段今から話す内容もない。ただ最近ランキングを上げているお前の実力を測りたかっただけだ。名目上コラボとして連絡したが、お前と戦えれば配信なんてどうでもいい」
フォルティーはずっと目つきを鋭くさせて、運ばれてきた枝豆を食べても表情一つ変えない。
俺も運ばれてきた料理を食べるが空気感のせいであまり味を感じない。
「これを食い終わったら近くにある俺のチームのアジトに行く。そこからダンジョンに行って戦う……という感じでいいか?」
「俺は全然構わないけど……なぁ? もうちょっと楽しく食べないか?」
今はハンバーグの溶岩焼きを食べていたが、そこへ運ばれるナイフとフォークが止まる。
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