第27話 メイドの意地

「では次は料理をお願いします」


 洗濯物を干した後に連れてこられたのはキッチン。食器や調理器具は一通り揃っており、中華鍋やお湯を沸かすポットなどもある。


「自由に軽食をお作りください。調味料食材等はある程度は揃っておりますので」


「なるほどね。分かった。できる限りやらせてもらうよ」


 軽食ということはあまりがっつり作らない方がいいだろう。俺は冷蔵庫の中と睨めっこして何を作るか脳内で試行錯誤する。

 シャーロットのこだわりなのかベラドンナの料理への心掛けなのか調味料は豊富で、これなら満足いく料理が作れるに違いない。

 俺は卵一つに塩、ケチャップ、マヨネーズにスライスチーズ。それにネギと味醂を取り出す。


「へぇ……ちなみに何を作るつもりなんですか?」


「少なめのオムレツかな。いつもならお肉も入れるけど軽食ってことであまり重たくないのにするつもり」


 まずボウルに卵を割り入れてかき混ぜ、そこにひとつまみの塩と小さじ一杯の味醂を混ぜる。

 ある程度調味料が全体に行き渡ったところで、コンロを中火で着火しフライパンにごく少量の油を敷く。


「あっ、牛乳あったっけ?」


「一応あります。はい」


「ありがと」


 俺は目分量で牛乳をいつも入れるくらいの量を加えて数回かき混ぜる。フライパンもいい感じに温まってきたのでボウルの中身を一気に投入する。

 卵が焼ける良い音を奏で、すかさず箸を入れて適度に空気を入れふわふわにする。空いた方の手でマヨネーズを持ち、遠距離から射撃するように適量発射する。

 そこからかき混ぜて、ネギとチーズをみじん切りにして卵の味を殺しすぎない量全体にふりかける。


「よっ……よっと!!」


 クルクルとオムレツを回転させ綺麗な形へとしていき、それを皿に盛り三等分した後ケチャップを波模様になるよう描く。

 

「とりあえず完成かな。あっ、三人分に分けたけどこれでいいか?」


「そうですね。せっかくですし三人で食べましょうか。所長の所まで運びましょう」


 俺は料理を、ベラドンナは食器等を運んで応接間まで戻る。


「おっ、もう完成したのか。中々早かったね。ではお味は……」


 シャーロットはスプーンでオムレツを掬い取り口へと運ぶ。


「おぉ! これは中々に美味しいじゃないか! ほらベラドンナ君も食べてみたまえよ」


「はい……んっ。確かにこれはかなり美味しいですね。味付けだけじゃなくふわふわになるように気も使ってましたし……夜道さんは何か料理経験でもあるのですか?」


「あぁ……俺の家親いないから妹の分含めて料理は俺がやってるんだよ。もうかれこれ数年は。だから自然と経験が積まれたってところかな?」


 最初の頃に比べて腕前の上達は自分でも分かるくらいだ。俺の料理の腕は店に出しても違和感ないくらいだ。

 

「それにしても本当に美味しいですね……」


「これはベラドンナ君と同じくらいの技量じゃないか? ぜひ他の料理も食べさせてほしいよ」


 オムレツを運んでいたベラドンナの手がピタリと止まる。神妙な顔で何かを考え込みこちらに鋭い視線を向ける。


「夜道さん……今日の夕飯のご予定は?」


「えっ? 普通に家で作って妹と食べる予定だけど」


「なら妹さんをこちらに呼んで四人で食べませんか?」


「なんだって?」


 親睦を深めようとかそういう魂胆かと勘繰るが、明らかにそんな雰囲気ではない。まるでこちらを敵視するかのような目つきだ。


「わたくしとあなた。どっちの方が料理の腕前が上か白黒つけましょう」


「あぁ……ベラドンナ君も負けず嫌いだね。じゃあ夜道君。初バイトとして今日の夕食を頼めるかな? もちろん急な依頼だということでバイト代は三倍出す」


「三倍も!?」


 夕飯を作り片付けたり勝負? などする時間も含めたら三、四時間程度になるだろう。そうなれば夕飯のついでで二万円近くも稼げる。これは乗らない手はない。


「ならぜひやらしてもらうよ! あっ……これってもしかして負けたらクビとか……」


「ないない。あくまでベラドンナ君の意地のようなものだから。まっ、二人の美味しいご飯楽しみにしてるよ」


 そんなこんなで俺とベラドンナによる料理対決が急遽決まるのだった。



☆☆☆



 空が橙に染まる刻。俺とベラドンナは二人で近場のスーパーまで来ていた。


「食材の差で結果が決まるのは面白くありません。調味料以外はここで揃えるというルールで構わないでしょうか?」


「おう大丈夫だぞ。あっ、でも米はどうする? 流石にわざわざ買うわけには……」


「まぁそれくらいならよしとしましょう。そこら辺は要相談を」


 色々とルールや裁定を取り決めたことなので俺達はスーパーに入り二手に分かれて各々お目当ての品を探す。

 俺はこの前の中華料理店からインスピレーションを受けあの料理を作ろうと無難に食材を集める。


「あれ? 兄さん?」


 キャベツに手を伸ばそうとした時、棚数列分離れた向こうから霧子と花華が近づいてくるのだった。

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