第49話 異世界へ
「やめるんだ彗星! 戦う必要なんてない! きっと悪い大人に騙されたんだろ!? 今なら間に合うから戻ってくるんだ……!!」
対話を試みるために俺達は変身せずあえて無防備な姿勢を見せる。
「うるさい……ワタシはこのまま逃げて整形でもしてまた新しい存在として成り上がってやるんだ……!! ワタシにはこの力がある。この力さえあればアイドルのトップになれるんだ!!」
細長い黒目には光が宿っておらず、こちらは戦闘する構えを取っていないというのに舌を何本も出し打ってくる。
「ちっ……変身!!」
俺は二刀流のアーマーを纏い、友也も同様に赤薔薇のアーマーを身につける。
また舌を避けるターンが始まり、先程よりも激しさを増すそれに俺達は防戦を強いられてしまう。
しかし同じパターンの攻撃に俺の目は次第に慣れてきて動きを見切り一気に懐に飛び込む。
「うっ……!!」
しかし俺の剣は彼女の眼前で止まってしまう。舌で受け止められたりしたわけではない。自然と手が硬直し攻撃が止まってしまう。
「夜道くん危ない!!」
そんな隙だらけになった俺を見逃してくれるわけがなく、何本もの舌が俺を切り裂き数カ所に熱い感覚が走る。
しかし地面に激突する衝撃はない。友也が受け止めてくれたおかげで追加のダメージは受けることはなかった。
「ありがとう友也助かった」
「それはいいけど夜道くん……」
そうだ。俺は先程彗星を攻撃する手をわざと止めてしまった。彼女の姿が霧子と重なり手を振り下ろせなかった。
止めなければいけないのに傷つけたくないという気持ちが拮抗する。俺の身体の自由を奪われてしまう。
「攻撃する気もないならワタシの邪魔をするな! どんな手を使ってもワタシは夢を叶えるんだ!」
舌の動きが急に変化する。鞭のような扱いから槍のような突き重視のやり方に変わり、傷もあってか上手く躱せず俺達二人とも後ろに押し出され全身に無数の傷をつくる。
「これで終わりに……」
彗星はトドメに一気に決めようとするが、遠くから飛んできたエネルギー弾と矢が彼女の体を抉る。
「大丈夫ですか夜道君!?」
「兄さんから離れろ!!」
花華がふらつく俺の体を支えてくれて、霧子はボウガンを消してチェーンソーを出現させて舌を切り落とす。
「くっ……」
赤黒い血が切断部から撒き散らされる。チェーンソーによる切断。見ているこっちが痛いくらいだ。
「ねぇ彗星ちゃんもうやめようよ! こんなことしたって君は幸せにはなれないよ! 夢を叶えたことにはならないから!」
四対一。明らかにこちらが優勢だ。逃げることも遠距離攻撃手段に富んでいる二人が来たのでそれも難しいだろう。
不本意な形ではあるが対話する場は整った。友也はすかさず説得を試みる。
「うるさい……うるさいうるさい!! こっちはもう後戻りできないんたよ!!」
彗星は両腕で自分の体を守りこちらに突進してくる。花華と霧子が銃と弓で応戦するものの半分以上が舌で叩き落とされてしまい勢いは弱まらない。
彗星は花華に狙いを定めて一気に加速する。
「寄越せっ!!」
しかし彗星は花華に対して攻撃はしない。行ったのは強奪。パティシーを強く掴み乱暴に引っ張り取り外す。
「きゃっ!!」
突き飛ばされながらパティシーを奪われ、花華は背面にあった木に頭部を強く打ちつけてしまう。彼女の後頭部からは血が流れ出ており目は半開きで意識が朦朧としている。
「じゃあね……」
彗星は素早くパティシーを操作してダンジョンを選択し転送されていく。
「待って!!」
俺が手を伸ばそうとも届かない。掴んだのはただの空気。何もない虚空だ。
「花華さん……? 花華さん!?」
霧子が花華の元に駆け寄る。花華は完全に気を失ってしまっており血が止まらない。
「ここはオレに任せて!!」
友也がハンカチ等で傷口を圧迫して出血を抑えてくれる。そこから簡易的な手当てをし救急車を呼んでから俺が花華を背負い山を駆け下りる。
「ん? こんな時に誰が……」
山を下りる途中で霧子の電話が鳴り、その画面を見て彼女は目つきを変える。
「すみません花華さんをお願いします。アタシも後でいきます」
「あ、あぁ」
俺と友也は気になりつつも救急車まであと少しなので急いで足を進める。
救急隊の人達も山を登っていたらしく、そこからは担架で運ばれて花華は病院まで送られていく。
「あれ? 霧子ちゃんは?」
俺達は山に残り霧子と合流しようと来た道を戻るが、先程戦闘した場所まで来ても霧子と会うことはないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます