第16話 最強の名は
漆黒の騎士はフォルティーの部下三人と戦っていたが、全く疲労や苦戦する様子を見せずに三人を斬り伏せる。
奴はこの前フラウを苦戦させていた魔物そっくりで、二刀流でケンタウロスの余った方を繋ぎ合わせたかのような見た目だ。
「二人とも伏せてください!!」
反対方向にいた花華が追いついて、跳びながら奴に向けて乱射する。それらは兜に何発も命中するもののダメージはないようで仰け反りもしない。
先に戦っていた三人は限界を迎え地上へ転送され、この場には俺とフォルティーと花華の三人のみとなる。
「中々の強敵のようだな。おいお前ら! 足を引っ張るなよ!」
「お前こそな!」
俺とフォルティーは互いに軽口を投げ合い、息を合わせて漆黒の騎士に攻撃を仕掛ける。
右からは俺の双剣が、左からはフォルティーのハンマーが襲いかかる。
両方空を切るほどの速さだったが、その一撃は片手ずつで受け止められてしまう。
「ぐっ……剣をどれだけ押し込んでもビクともしねぇ……!!」
「こっちもだ……何だこの力は!?」
メキメキと奴の腕が音を立てて肥大化する。圧倒的なその筋力で俺達は宙へと放り飛ばされる。
だがそのおかげで花華から奴にかけての射線が空いた。彼女はそこに必殺技を放つ。
「ファイヤー!!」
しかしなんということか、奴はそのビームを真正面から叩き斬ってしまう。真っ二つに別れたビームが俺とフォルティーを捉えアーマーを焦がす。
奴に一回当たって勢いが半減したとはいえこれはかなりの痛手だ。当たった部分が焼けるように痛い。
「あっ!! すみませ……」
そしてまさかの動きに驚愕する暇もなく、騎士が神速の如き速さで花華の方まで距離を詰める。止まらずにそのまま剣を振り上げ彼女の胸を素早く斬り裂く。
「ああぁぁぁ!!」
彼女の鎧もそれで限界を迎え地上へと戻されていく。あとは俺とフォルティーの二人だけだ。
「おいアレギィ!! 半端な攻撃じゃこいつには通用しない……バイクを出せ!!」
[マジンバイク]
[ランスバイク]
俺達は再びバイクを出現させフォルティーは後方から援護、俺はランスの速さで翻弄するという作戦を取る。
俺は弾幕の間を縫うようにバイクを走らせて奴の背中に車体をぶつける。
人型だから。人間の動きの範疇でしか攻撃してこないと油断してしまっていた。奴は肩を外し剣を捨て、ありえない曲げ方で俺のバイクを手で受け止めてそのまま持ち上げる。
そして俺をバイクごとぶん投げてフォルティーのロボに激突させる。それによりロボは姿勢を崩してしまいその場に倒れてしまいフォルティーは外に投げ出され地面に叩きつけられる。
「何をやってる!! 足手纏いになるくらいなら引っ込んでろ!!」
彼はハンマーを手に持ち騎士と向かい合う。
奴は地面に剣を突き刺し、こちらに向かって強く振り上げる。
地面が裂けていきどういう原理かそこから大量の石礫が飛ばされる。範囲と威力は絶大で、俺達はその攻撃を躱すことができず全身を打たれて地上へ帰されてしまうのだった。
気づけば倉庫まで戻っていた。初めての経験だがいつもの転送と大差ない。
しかし全身が痛んですぐに立ち上がることができなかった。服を捲ればいくつも小さな痣ができてしまっている。
「リーダー!!」
ダンジョンに行かなかったフォルティーの仲間達が倒れ苦しんでいる彼の元へと駆け寄る。花華や他のメンバーには既に手当てを行ったようで、彼らは包帯など応急手当用のキットを持っている。
「オレは大丈夫だ……クソ!! なんなんだあの魔物は!?」
彼は痛む体を起こし、怒りを露わにしコンクリの地面を強く殴りつける。手の甲の皮が擦り剥けそこから血がポタポタと垂れる。
「うぅ……夜道君……大丈夫ですか?」
花華がこちらに足を引きずりながらも来てくれて、とりあえずの手当てを行ってくれる。
「大丈夫だけど……完全に俺達の負けだ。何にもできなかった……」
「負け……? 負けだと!?」
突然どうしたのか、フォルティーが痛みを無視して立ち上がり俺の胸倉を掴み上げる。
「オレは負けてない!! 次こそはあいつに……」
弱い。負ける。この二単語に彼は異常な程に反応を示す。今にも殴りかかりそうな勢いだったが流石に仲間の人達が俺から離してくれる。
「はぁ……はぁ……」
息を切らし自分の体をペタペタと触る。多少痛むが入院したり生活に支障が出るレベルではない。とりあえずは無事だ。
そうしてフォルティーとの戦いは引き分けということになり、波瀾万丈だった一日は幕を降ろすのだった。
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