第25話 暗雲の幕開け、ゲーム世界の危機ー!? ①
パラパラと霧雨が降り出した。
辺りは、霧がかっていてよく見えない。
ヒカリは、霧の向こう側へとひたすら歩き続けた。
どれくらい、時間が経過しただろうかー?
感覚が麻痺してくる。
身体が冷えてきたり
森の奥の方からら、
艶やかな女の唄声が、響き渡る。
何かを囁いているかのようだ。
清廉にして妖艶な雰囲気を纏った女だ。
何処と無く不安を掻き立てるような、そんな雰囲気があった。
深い霧の向こうから、ゆらゆら人影が姿を現す。
それが近づき、ヒカリはハッとした。
上半身は裸の女で、下半身は、大木に固定されている。
ー幼樹だ!
ヒカリは、咄嗟に身構えた。
転生して始めて見た、妖魔だ。
レティーにしごかれて、何とか強くはなってきた。
護身用の銃を両手に構えて、照準を合わせる。
ーと、パラパラ雨が降り始めた。
雨だ。
雨は、大分強くなり横殴りの風も吹くようになった。
どうして、この日のこんな時に限って…と、ヒカリはため息がもれた。
妖樹は、ゆらゆら揺れ歌いながらやって来た。
ヒカリは、銃口から弾丸を発砲した。
が、それはみるみる妖樹の体内に吸収されてしまった。
ヒカリは、次々と弾丸を発砲した。
だが、それは虚しく妖樹の体内へ吸収していく。
四方八方から、わらわら妖樹が襲いかかってくる。
ーあの技を使おうか…?
だが、ヒカリは熱が出ていた。
力は残されてない。
その時だった。
妖樹の頭部に、弓矢が突き刺さる。
清廉な仮面を被った醜悪な怪物が、浄化されていく。妖樹は絶叫し、鬼のような形相をし牙を剥き出しにし咆哮する。妖樹は、眩いカナリア色の光に飲み込まれ、粉々になった。
遠くの方から、妖艶な女性の唄い声が聴こえてくる。
ここは、楽園だろうかー?
川のように済んだ鮮やかで柔和な唄声、硝子のようにクリアで繊細な唄声、深く妖艶な唄声が、三重になって響いてくる。
なだらかで優雅な弦の音やフルートの音も、反響してくる。
その音楽につられ、ヒカリの身体は磁石のように引き寄せられていった。
カナリア色の明かりが見えてきた。
ヒカリは、それを目指してひたすら歩き続けた。
世界が霞んで見えていく。
全てが、ぼんやり濁って見え、ホワイトアウトする視界。雨の音だけは、ハッキリ聞こえている。だが、そのノイズも次第に聞こえなくなっていく。新鮮な木々の香りもしなくなっていく。五感が弱くなっているようだ。ここが何処であるのか認識の地平が遠ざかり、すべてがぐにゃりと歪んで見え、まだら模様のようにぐじゃりと混じりあって感じた。
世界がぐにゃりと歪み、そして激しく回転していった。
奇妙な夢を見た。
赤ずきんと共にコンビを組み、巨大なクモ形の化け物と戦っていた。奴は、VXという世界を脅かす存在だ。
ヒカリは、ゲーム知識を駆使して敵の弱点を読みながら、赤ずきんの攻撃のサポートをした。
赤ずきんは、豪快ににサブマシンガンを打ち鳴らして敵を粉々に粉砕した。
彼女に褒めて貰い、頭をポンと叩かれた。嬉しい気持ちで満たされた。
他のギルドメンバーも褒めてくれた。
ヒカリは、幸せで一杯になった。
目が覚めると、自分は知らないロッジの中にいたのに気が付いた。
天井は高く、星座を象ったような奇妙な模様があり、プラネタリウムを彷彿とした。部屋の中央には年季の入った大木が貫いていた。
部屋は広く、20畳以上はありそうだ。
奥の方から、女の話し声と笑い声が聞こえてくる。
ヒカリは、何て、奇妙な夢を見てしまったのだろうと、眉をしかめた。
それにしても、ここは何処なのだろう?
ファンタジー世界さながらの、メルヘンで不思議な小物も、所々に置かれてある。
書架が壁の殆どを敷き詰めてある。
すぐ横の螺旋階段も、お洒落である。
「目覚めましたか?」
声のする方を向くと、螺旋階段の上にそこには長身で色白の女が立っていたのが見えた。
いつの間に、居たのだろう?気配は、全く感じられなかった。
「貴女は、随分と熱にうなされて居ましたよ?」
長身の女は階段から降りてくると、ヒカリに微笑んだ。
「あなたは…?」
「私は、ラプラスのシーラです。この区域で暮らしているエルフ族を束ねています。困った時は、何なりと。」
シーラは、ニッコリ微笑んだ。
彼女の肌は白く、耳はとんがっており髪は銀髪で長いストレートヘアだ。碧眼の瞳は深く澄んでいる。緑色の上品なローブを身に纏っている。
「ここは、何処ですか?私、どのくらい、眠って居たのですか?」
「ここは、星の森です。貴女が眠っていたのは、かれこれ、五時間くらいですかね?熱は引きましたか?」
シーラは、ヒカリの額に手を当てる。暖かく優しい手の感触がした。
「あ、はい。もう、大丈夫だと思います。」
「そろそろお昼の時間ですので、しばらくしたら食べましょう。」
シーラはそう言うと、お茶を入れてやって来た。
「美味しい…」
そのお茶を飲んだら、ヒカリは全身が熱くあった。
ヒカリは、シーラに案内され食卓についた。
長テーブルには、エルフ族が集まっていた。
全員色白で背が高く、上品な振る舞いである。
「お姉様、そう言えばこのあたりの妖樹、また急に増えだしましたね。しかも、凶暴ですし。」
「そうですね。また、ウィルスも増殖したみたいですし、他の世界と融合したのかも知れません。」
「えー、また、融合ですか?最近、物騒な者達がわらわら増えだしたじゃかいですか?」
「メイビス、この話はまた今度にしましょう。客人が来てるのですよ?」
「あ、そうでしたね。すみません。」
「では、頂きましょ…」
シーラがそう言い終えるな否や、玄関口の方から激しくドンドンドアを叩く音が聞こえてきた。
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