第13話 戦慄の幕開け ③
巨大なオオカミの一団は、鋭利な牙を剥き出しにしこちらへ眼光を飛ばしながら威嚇してくる。
金色の目をギラつかせ、けたたましく咆哮する。
赤ずきんは、眼をギロリと向けると、唇を噛み締め両手のサブマシンガンをキツく握り締める。
ヒカリは、恐る恐る赤ずきんの顔を向く。
彼女は、明らかにおかしい。
瞳孔は大きく見開き、口元は強ばりドライな眼差しで、真っ直ぐ前を向いた。
赤ずきんの端麗な顔貌は崩れ、目尻は吊り上がっている。
冷徹な眼差しで、真っ直ぐ前を睨み付ける。
それは、まるでヴァンパイアのようであり、ヒカリは青ざめ彼女から距離を置いた。
激しい狼の咆哮、轟号が湧く。
1団が二人にじわじわ近づいてくる。
これは、戦慄の光景だ。
ーと、赤ずきんの両手に携えられたサブマシンガンが朱色の光を放ちながらみるみる巨大化していくー。
それは、彼女の身長位のサイズになると、朱色の炎を纏いバチバチ火花を放っている。
ヒカリの動悸は、強くなっていく。
ーと、彼女は、引き金を強く引いた。
朱色の火花が、強烈な閃光と轟音を撒き散らしながら、次々と狼に命中する。
狼は、撃たれ黒灰色の煙を放出する。黒灰色の煙は、ブラックホールのような拡がりを見せ、その場にある全てを飲み込もうとする。
そして、黒灰色の煙の塊になり、そこから再び狼が姿を現した。
当たりは、煙に覆われ視界にモヤがかかって見えづらくなった。
煙の向こうから、サブマシンガンの荒々しい轟音が聞こえ、朱色の火花がバチバチ音を立てながら次々と鮮やかに発光しては消えた。
煙の中で、彼女は戦っているのだろうかー?
「赤ずきんさんー?」
彼女の姿は、ほとんど見えない。
だが、輪郭はハッキリと見えた。
両手に巨大なサブマシンガンを携え、次々と襲ってくる、狼を狙撃している。
猫のような疾風のような素早い身のこなしで、狼を華麗に避けながら連射し続ける。
眩い朱色の熱き線香で、ヒカリは、一瞬、目を閉じた。
足でまといになるまいと応戦しようとしたが、身体が思うように動かない。
だが、あまりの重さにヒカリは這いつくばった。
自分の体が鉛の塊になったかのようだ。
すると、目眩を覚え世界が大きくぐにゃりと歪んだような感覚に襲われた。
海賊服のような格好をした骸骨の1団が、青黒とした炎をゆらゆら撒き散らしながら闊歩してくる。
ここは、冥界だろうかー?
怖いはずなのに、
冷や汗は、全く出ない。
ドライアイスのような、乾いた寒気と戦慄を感じた。
カラカラと、不気味な笑い声がこだまする。
ヒカリは、顔を震わせ逃げ出そうとする。
ー何よ、これー
煙が見せた、幻覚だろうかーは
鬱蒼とした不気味な森。
金銀銅の三人の奇妙な魔女。
三色の不気味な光沢を放っ光を放ち、辺りを絶望へと覆い尽くす。
轟く悲鳴、希望の光ではない、絶望の光だ。
そして、前世での、虐められていた頃の惨めな思い出が蘇ってくる。
女子から罵倒され、底なし沼のような地獄の世界だ。
ー自分は、この世界でも惨めなまま終わってしまうのだろうかー?
ヒカリは、大きく首を振って何とか立ち上がった。
現世でも、惨めな思いはしたくないー。
ヒカリは、目を閉じると深く息を吸う。
身体の芯から、メラメラ炎のような熱いものが込み上げてくる。
全身は、益々熱を帯び熱く燃えてくる。
ヒカリの体内から、虹色の光沢を纏う光が放出される。
目を閉じ、狼を射抜くことだけをイメージする。
全身に光の渦が駆け巡る。
眉間に皺を寄せ、手のひらに光の渦を掻き集める。
熱い光の渦が、束をなしながらヒカリの手のひらに集まる。
虹色の眩い光が、バチバチ強烈な火花を纏う。
花火の中にいるような、暑く眩いカラフルな光線が、辺りを飲み込もうとするー。
光の熱風により、辺りはみるみる飴細工のように溶解していく。
眩い線香と猛烈な轟音に包まれながら、ヒカリは遠くへ飛ばされた。
黒灰色の煙は、狼と共に光の渦に飲み込まれ一瞬で消えた。
そこには、息を切らしハッとしながら、こちらを凝視する赤ずきんの姿があった。
「あ、赤ずきん…さん、大丈夫ですか?」
ヒカリは、声を震わせながら赤ずきんに駆け寄ってきた。
ーと、全身が急にどっと重くなり、ヒカリはよろめき前屈みに倒れた。
「ヒカリー!?」
赤ずきんが呼びかけるも、ヒカリの意識は徐々に遠のいていく。
茨のツタがウネウネと揺れながら、二人に襲いかかってくる。
赤ずきんは、舌打ちすると再びサブマシンガンを連射した。
再び朱色の線香と爆音が、辺りを轟かせる。
ツタは、朱色の炎をまといながらメラメラ燃え黒くなり小さくなっていった。
ーと、弾丸の音がしたと思ったら、それは赤ずきんの額を貫通し、彼女はうつぶせに倒れた。
遠くの方から、人の駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
重い上体を起こし振り向くと、見知らぬ三人組の男がこちらに向かって歩いてきた。
「やったぞ!サジタリウスを捉えたぞ!思っていた以上に、あっさり終わったな。」
「コイツ、不老不死だろ…」
「まさか、流石に額は免れまいな、ボスに連絡だ。」
短髪の男は、そういうと腕の通信機のボタンを押し連絡した。
「もしもし、こちらティムだ。例のサジタリウスを捉えた。」
ーと、寡黙な方の男が赤ずきんを抱き抱えた。
「だ…め…やめて…」
ヒカリは、声を出そうも出ない。
急に、目眩を感じた。世界が、目まぐるしくグルグル開店する。
男達は、赤ずきんを抱えその場離れ遠くに停めてあるワゴンに乗り込んだ。
「やめて…だ、め…」
声は、徐々に弱々しくなっていく。
ヒカリは、そこで意識を失った。
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