第12話 戦慄の幕開け ②
あれから更に二週間が経過した。
ヒカリは、未だに消えない。
祭りが終わって床に就く前、ヒカリは、ケット・シーに問い合わせた。
『申し訳ございません。ただ今、プログラミングがフリーズしておりまして、ゲームオーバーが不可能な状態となっております。ですので、ミッションも、今しがたナッシングということで、自由にのびのびとやっていきましょう!また、状況がが起き次第、連絡致しますので…』
消えないのは、良かったものの、ヒカリは何処か強い不安が過ぎった。
この世界は、安全なのだろうかー?
何か、脅威なる存在が現れたら、自分は無事で居ることが出来るだろうかー?
現に、今、目の前に居る赤ずきんが全然
子供の頃に見た赤ずきんのイメージは、小柄で華奢でお転婆でしおらしい女の子だった。
だが、今、近くいいる彼女は違う。
長身で、骨格ストレート、グラマーで筋骨隆々だ。
性格は男勝りでボーイッシュ、女子力皆無だ。
そんな彼女は、今、自分の目の前で筋トレに励んでいる。60回を三セット、黙々と懸垂をし続ける。
自分の頭がおかしくなったのだろうか?
この世界が、幻覚だったのだろうか?
いや、他の世界にも多種多様な赤ずきんが居るはずだ。
色んなサンタクロースや白雪姫がいるように、おとぎ話のキャラクターは、色んなバージョンに変換されてきたからだ。
どうせなら、イメージ通りの可愛らしい女の子の赤ずきんが良かった、そしたら色々ガールズトークで盛り上がれたのにな…と、ヒカリは深くため息をついた。
今日は、雨だ。
モルガンは、用を足しに街へと足を運んだ。
魔女の会合があるらしい。
自分は、半日ほど彼女とずっと二人きりだ。
自分は、徐々に彼女に慣れてはきたが、未だ、少し怖い。
赤ずきんは、筋トレが終わると、スポーツドリンクを飲み干し、シャワー浴びに浴室まで向かった。
ヒカリは、ホッと胸を撫で下ろし材料の仕込み作業を始めた。
仕事には、大分慣れてきた。
こんな本格的な仕事を任されるのは、初めてだ。
ヒカリは、この店で働くようになってから水を得た魚のようにイキイキとしていた。
ドアのベルが鳴り、ヒカリは玄関の扉を開け開けた。
制帽に軍服姿の男が、姿を見せた。
「赤ずきんは、居ないかね?」
「え…赤ずきん…ですか?」
「赤いローブを纏ったパンクファッション風の女だ。左頬にうッすら痣があるだろうー?少年のような顔立ちだ。どうやら、この村に潜伏してると聞いてね…」
その言葉に、ヒカリはハッとした。
「居ません!見た事ないです!」
ヒカリは不穏な状況を察し、咄嗟に嘘をついた。
「彼女は、指名手配中なんだよ。」
「なんの事ですか…?」
「噂は、聞いてる筈だろ…?彼女は、殺戮マシンと言って良いだろう。もう、300人は殺めてきたんだ。サジタリウスの者は、過去に居た者含めて、検挙の司令が下されてるんだ。」
「でも、もし、この村に潜伏していたとすれば、既に殺人事件があってもおかしくは無いじゃないですか?」
サジタリウスとは、あの人を喰らうだとかキメラなどと言われている、最恐戦闘集団だ。
この前の祭の時、見たあのサジタリウスの一団の戦闘風景が、
脳裏を過ぎった。
「それもそうだが、彼等サジタリウスは、頭脳犯でもあってね…この何処かに息を潜めているやも知れん。」
憲兵は、ビラを渡した。
そこには、サジタリウスと言われるメンバーと、その端に赤ずきんの顔が載せられていた。
「ほら、身体の一部に蠍のタトゥーがあるんだよ。」
「そんな者は、ここにい、いません…」
蠍のタトゥーに、ヒカリはハッとした。
「まぁ、いい、また来る。」
憲兵は、そうとだけ言いその場を去った。
「ヒカリー、客人来たか…?」
奥の方から、赤ずきんが姿を現した。
「え…?いや、来なかったですよ。」
ヒカリは、咄嗟に憲兵から渡されたビラを後ろに隠した。
「ホントに、今日は雨が酷いよなー。ちょっと、」
赤ずきんは、そう言うと居間に座り新聞を拡げていた。
ここ、二週間、奇妙なまでに平穏な日々が続いていた。
ここは、ゲーム世界、ファンタジアの筈だ。
だとしたら、何か妖魔が1体、2体出てもおかしくはない。
まるで、嵐の前の静けさだ。
再び、ベルがけたたましく鳴った。
ヒカリは恐る恐るベルを開けると、
「大変だ!村中、いや、街の者も、殆ど眠りについたんだ。」
「殆ど…」
「それって、どういう事だ…」
ヒカリと赤ずきんが、村市場へと向かうと、巨大な茨のタワーが出現していた。
その巨大な茨のつたは、ぐるりと繁華街や住宅街を取り囲んでいた。
「何、これ…?」
妙な静けさだ。
人気が、何処にも見当たらないー。
人が所々でばたりと倒れているのが見えた。
「危ない!」
ヒカリは、赤ずきんに腕を引っ張られ押し倒された。
ーと、ヒカリのすぐ真後ろを巨大な茨がドリル状渦を成しながら横切った。赤ずきんは両手に持ったサブマシンガンでそれを乱射した。
「危ないから、お前は自分を守ることだけ考えてな。」
「…ありがとう。」
彼女はいつもは女子力皆無で怖いが、こういう緊急事態では頼りになる。
遠くの方から、狼の遠吠えがこだまする。
赤ずきんは、ハッと瞠目し動きを固めた。
ーと、彼女の眼光は鋭く吊り上がり、動きを止めた。
奥の方から、狼の一団が姿を見せた。それは、前世でよく見る狼では無い。
それよふた周りほどの体躯をした、狼の一団だ。
身体からは、青黒とした炎を放出している。
赤ずきんは、項垂れ銃をキツく握り締めた。
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