第16話 戦慄と地獄のバトルロワイヤル ①

夢の中でヒカリは、亡くなったひかりお姉さんと談笑していた。


ひかりお姉さんは、純新無垢な笑みを浮かべている。


暖かく心地よい空気が、流れ込む。


一緒にゲームやって、純粋に笑いあった。




目が覚めると、自分は自室のベットで横になっていた。


現実に引き戻された。と、ヒカリは悔しくなった。


いつの間に、モルガンの店に戻って来たのだろう?



酷い寒気を覚えた。


それと共に、感覚器官はすっかり元通りになっていた。


熱にうなされている。


まさか、この自分が、体調不良を起こすとはー


衣服は、汗でビッショリだ。


熱は感じるのに、寒気も感じる、奇妙な感覚だ。


ドアが、キーと音を立てて開く。


ドアの奥の方から、衣類やタオルを抱えた赤ずきんが姿を現した。

「ちょっと、様子を見に来た。お前、起きてたんだな。」

彼女はヒカリの側の椅子に座ると、ため息を漏らし憂鬱そうに項垂れた。

「ごめん。悪かった。まさか、あの辺にウィルスが蔓延してたなんて、気づかなかった。」


彼女のその雰囲気に、

何処と無くひかりお姉さんと重なるものを感じた。


「だ、大丈夫で…ふ…」

ヒカリは首を横に振り声を絞り出そうとするも、呂律が回らない。


自分の手がやや青紫がかって見え、身震いした。


ー今度は、一体、何なのだろうー?


「ヒカリ、とりあえず脱いで。それから、これで拭いて。」


ヒカリは、衣服を脱いで赤ずきんから手渡されたタオルで汗を拭き取った。


赤ずきんは新しい衣服を渡し、ヒカリはそれに着替えた。


「あ、あの…あのパックという子、何者なんですか…?」


「あれは、奴の手下だ。奴は、闇の魔力が強い。まあ、強いウィルスを保有してるんだ。」


「そうなんですね…」


「かなりの熱だな…モルガンがお前のことを処置してくれた筈なんだが…」


赤ずきんは、首を傾げヒカリの額に手を当てた。


ーこうして見ると、彼女は意外と優しいー。


彼女は、高いヒールのニーソーブーツにウエーブがかった鮮やかなブロンドのボブヘアー、ツリ目がちなハッキリした華やかな顔立ちをしている。

態度も大きく、何事にも物怖じせす爛漫とした強い口調で話し、喫煙もする。

それは、ヒカリの前世での苦手なギャルを彷彿としていた。

ヒカリは彼女に苦手意識を持っていた。


「私が弱いからでふから…もっと鍛えて…ケホケホ…」


「あー、これ以上、喋るな。ちょっと、額に手を当てるぞ。」


ーと、赤ずきんはオペラグローブを外しヒカリの額に手を当てた。


赤ずきんは、深く呼吸をすると目を閉じた。


すると、ヒカリの額が朱色の光沢を放ち、熱を帯びた。


ーが、光は徐々に弱くなり無になった。


「やっぱりダメか…」

赤ずきんは、深くため息をついた。


「だ、大丈夫でふ…」

ヒカリの意識は、朦朧としてきた。

前世でも、今世でも自分は弱いのか…と、悔しく涙が溢れそうになった。


「悪い。抵抗あるかも知れんが、少し我慢してくれ。」


赤ずきんは、いきなりヒカリに抱きついた。


「…!?」


ヒカリは、一瞬、ドキッとし、彼女にひかりお姉さんのような温もりを感じた。

髪にほんのり薔薇のような香りがした。


ーそういえば、ヒカリお願いさんもこんな香りがしていたような…


身体の芯から熱くなっていく。

二人は、朱色の炎に包まれた。




「よし…解毒したから、これで大丈夫だ。しばらく安静にしてな。」


赤ずきんはその場を去ると、再びお茶とお粥を運んできた。


「ちょっと、お粥作ってきた。これ食って飲んだら、寝てな。」

「ありがとうございます。」

ヒカリは、お茶を啜りお粥を食べた。

身体の芯まで、じんわりと暖かいのが染み込む。

赤ずきんは、根は優しい人みたいだ。


「あ、そういえば、レティーさんは、あの時、大丈夫だったんですね…あと、眠っていた人達や、人形になった人達は、どうなったんですか?あれも、パックの仕業ですか?」


いつの間にか、赤ずきんをそう呼んでいた事に気づいた。

レッドは彼女の名前で、レティーはその愛称だ。

モルガンや周りの者も、時折、彼女をそう呼んでいる。

ヒカリは今まで遠慮して言えずにいたが、心の距離は近付いたようだった。


「ああ…私は、尋問受けて変な薬を飲まされ、奇妙なドレスを着せられてな。あと、眠りの呪いだが、茨が消えた時、解除された。後は、ギルドの土属性の部隊が処置してくれたから大丈夫だ。パックは、私がとっ捕まえて、尋問した。ギルドは引き渡せってうるさいんだが…私は、どうも引っかかる事があってな。」


「あの、人格が変わったことですか?あの装置は…」


「いや…それは、途中から素に戻ったから、大丈夫なんだ。装置も、大分カラクリは解けた。大方脳髄に電気信号を与えて操作する予定だったのだろう。これで悪巧みを働いていたことだろう…」


「そうですか…」

彼女は、強靭な精神の持ち主なのだろう。

自分なら、そんな破天荒な目に合ったら精神が持たないー。


「矢張、大会に出るしか無さそうだな…奴らに会うのが嫌なんだが…特に、アイツは…」


赤ずきんは、眉間に皺を寄せた。




それから、更に二週間が経過した。

ギリシャのコロッセオドームを彷彿とする、豪勢な建物の中で、例の大会が開催された。


「皆さん、お待ちしましたー!!!」

女性司会者が、爛漫な笑みを浮かべながら声を張り上げた。


「では、今回のゲームのルールを説明します。一対一、及びグループ形式でのバトルロワイヤル戦となります。コースの辺りに警備隊を配置してありますので、安心してプレーしてくださいませ。一回戦は、ギルド部隊、スコーピオンから、赤ずきんのレッド、キグナスから不思議の国のアリス…では、二人とも、位置について。」


赤ずきんとアリスは、ドームの中央に立つと互に睨み合った。


「お久しぶりです、レッドさん。こうして二人で話すのは、初めてですね。」

アリスは、丁寧な口調で控えめな笑みを浮かべお辞儀をした。


「お姫様ぶったお辞儀の仕方は、やめな。お前らの魂胆は、知ってんだから。」

赤ずきんは、顔を顰めるとぞんざいに言い放った。


「相変わらずですね。」

アリスは、意味深に微笑んだ。



「では、始めー!」

司会者の合図とピーという笛の音で、バトルが始まった。



ーと、あたりに甘い香りが立ち込め、霧が漂った。



メキメキと奇妙な形の巨木が生え、それは、前世で見た『不思議の国のアリス』の世界観を彷彿としていた。

花がニョキニョキと生え、高さが三メートルくらいに伸びた。


それは、まるで、自分達が不思議な世界に迷い込み、小人のように小さくなったかのような摩訶不思議な感覚に陥った。


辺りに歓声が湧き上がった。


ーと、その直後だった。


その場にいた者、ほとんどが奇妙な高揚感に襲われ、ケラケラ笑う者や怒り出す者まで現れた。


硫黄のような毒のような鼻を突き刺す匂いまでする。


「どうですか?これが、私のゲートスキル、『夢の国』です。どうぞ、幸せなひと時をお過ごしくださいませ。」


アリスは、バカ丁寧にスカートに手を添えお辞儀をする。


「ふん、何かと思えば、下らないね…」

赤ずきんは、両手にサバイバルガンを携えやる気を見せる素振りをした。



ーレティーさんは、何か、作戦があるのかな…?


ヒカリは眠気と戦いながらも、その摩訶不思議で奇妙な光景をドームの裏口から固唾を飲んで見ていた。

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