第15話 堕天使と魔女のデスロード ②

バロック様式の豪勢な部屋の中で、女子会が開催された。


自分と、パックと赤ずきん…其の間間の椅子には、人形が座っている。


それらの人形は、何処と無く人間じみたそんな違和感を覚えた。



辺りに、薔薇のようなバニラの香水ような奇妙な甘い匂いが漂う。



「彼女はね…何度攻撃しても不死身だから、いっぺん、全て身ぐるみ剥がして身体検査したのよ。そしたら、何の手掛かりが無かったもんだから…」


「そうなんですね…」

矢張、彼女はサジタリウスの一味だったのだろう。



「どうせなら、可愛く着飾ってあげようかと思ってドレス着せてあげたの。ふふふ、可愛いでしょう。」


「はあ…」


普段の彼女は、赤と黒の胸元が大きく空いた大胆なビスチェのゴスロリドレスを着ている。しかもスカート丈は短い。


だが、今の彼女はコーラルピンクのシフォンドレスを着ている。


女王様のような、レディースの総長のような雰囲気をしていたのが、ガラリと変わった。


ヒカリは、彼女に対して苦手意識が強く、よく避けてきたが、今は特にそんな感覚はない。



ーが、何処かしら違和感を覚えた。


「何これ…!?」


気が付くと、自分もこの格好をしていることに気が付いた。



「どうして、私…」


ーいつの間にこんな格好をさせられたのだろうー?


全く、気づかなかった…



この空間は、幻覚作用があるのだろうかー?



大事な、重要な何かを忘れているような気がした。


だが、それは思い出せないー、




甘い匂いに覆われ、意識は安定してくる。


何て、素敵な女子会だろうー。


前世は女性に対して苦手意識が強かったが、本音としては同性と仲良くしたかった。


今まで夢見てきた雰囲気そのもので、ヒカリは歓喜した。


赤ずきんがお淑やかで温和で優しくイメージ通りなのだ。



ーああ、何て至福のひとときだろう…


前世では自分はぞんざいに扱われていたというのに、こんなに優しくされると、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。


だが、再び違和感を覚えた。


身体が硬くなっていく。


肌が、みるみる陶器のゆなうに硬く滑らかになっていく。


関節がおかしい。


可動域が狭まり、動かす度にキシキシ音を立てる。


神経細胞が麻痺していく。


意識が、朦朧としてくる。


そして、更に違和感を覚えた。


ヒカリは、普段見えている世界に違和感を覚えたのだ。


ちゃんと、目は見えているし眼球は動かすことが出来る。

だが、通常の見えている感覚とは、異なる。


視神経や水晶体、角膜を通して見ていると言った、そういう感じがしないのだ。


色覚も普段感じているとも異なる違和感を覚えた。


聴覚もそうだ。鼓膜が鼓膜ではなくなっていく。


それは、まるで、映画を観ているかのような感じである。

スクリーン越しで映像を見て、音響越しで音声を聞いているかのような、そんな奇妙で不思議な感覚であった。



ヒカリの

鼻腔や味蕾も、無機質と化していく。


それは、まるで機械を通して見て聞いて感じているような、そんな感じなのだ。


生命体が、物へとかしていく。

有機物が無機物に変化していくようなみるみる機械化していくような、そんな違和感を覚えたのだ。


恐怖心すら、抱かなくなった。自分の心が、自分のものでは無いような何か異次元的なものに操られているかのような、そんな感じがした。


睡魔を感じる。

ここで、眠ったら、自分は完全な人形になってしまうのだろう。


だが、それも悪くは無い、ヒカリはそんな感覚に陥った。


緩やかに意識は遠のいていく。


脳は、石の塊のように化していく。


身体は鉛のように重くなっていく。


自分は、自我と感情を失うのだろう。


それに恐怖心は無かった。


薔薇のようなバニラの香水のような心地よい甘い匂いが強まる。



巨大な茨のツタが床を突き破って出現し、徐々に大きく伸び辺りを覆い被さる。



ー自分は、幻覚を見せられているのだろうかー?



「私たち、ずっと一緒だよ。」

パックが、無邪気な声で微笑む。


ーこれも、良いかも知れない…自分は、もうひとりじゃないー。





「良い訳無いだろ!!!」


突然、怒号の叫び声と、サバイバルガンが連射された音が鳴り響く。


朱色の炎が、辺りを焼き付くし茨はたちまちちりじりになり灰と化した。


パックの悲鳴が反響し、そしてそれは激しい爆音の渦に飲み込まれた。


ヒカリの意識は、そこで途絶えた。

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