第10話 一難去ってまた一難、大惨事の始まり…!? ③
赤ずきんとヒカリは、パン屋まで戻ると、裏山の森の中まで向かった。
「あんまり、いじめないでね。」
「わーってるよ…」
赤ずきんは、モルガンからパンを受け取ると、ヒカリを連れて鍛える事にきめた。
「ち、ちょっと、待って下さい…!私の武器は、弓矢です。それに、まだ、剣は使ったこと、ありません!」
「…お前、弓矢もまともに使った事ないだろ?」
「え…?」
ヒカリは、赤ずきんのその言葉にドキッとした。
「これは、ただの飾りだな?だって、これ、使われた感あんまりないし、お前、手指を護る防具をしてないのに、指にタコがない。それに、お前の武器の扱い方と背負い方、不器用だし扱いに慣れてないと見た。」
そうだ…ヒカリは、まともに弓矢を使った事なんかない。
実際にやったのは、前世でゲームに興じた時位だ。
図星をつかれて、ヒカリはまともに言い返せないー。
赤ずきんは、観察りと洞察力がある。
そう言えば、彼女は10年以上傭兵としての経験があったのだ。
流石と、言うべきだろうかー。
「お前に向いてるのは、弓矢より剣だ。」
「え…!?」
「あの時、お前が能力発動したのを見て、ハッとした。お前は、接近戦の方が向いている。」
「そうですか…私は、あんまりピンと来ませんが…」
自分は、ずっと遠距離戦が向いているとばかり思っていた。
「そして、こんな、ゴデゴデのアクセサリーは、やめろ。メイクも程々にしな。」
「はい…」
ヒカリは、ハッとしピアスとペンダントを外すと胸ポケットへとしまった。
調子乗ってオシャレをしていたことが、急に恥ずかしく思えた。
「まず…お前は、魔力の制御の仕方からだな…」
「制御の仕方…?!」
「そうだ。」
「お前は、ここの世界は初めてだろうから、知らないだろうけど、戦士には炎属性と、水属性、風属性、土属性に闇属性、光属性があるんだ。それぞれ特性は異なるんだ。」
「はい、それ、知ってます。ゲームをよくやっていたので。因みに、私は光属性です。」
「んん…?ゲーム…?なんだ、そりゃあ…」
赤ずきんは首を傾げ、ヒカリはドキッとし冷や汗をかく。
「ゲームというか、知識とイメトレですね…それを、ゲームに例えてですね…」
「まぁ、いい。まず、イメトレだ。お前は、先ず力の制御が先だ。あの時、は、酷かった…あれから考えて、お前が、キボウじゃないって確信についた。まあ、それは、いい。」
ーあの時とは、クラーケンが出現した時だろう…
二人は立ち止まり、30メートル程、間合いをとる。
「先ず、深く深呼吸して、頭の中で己の気の流れを整えるんだ。そこで、整ったと思ったら、再び深く息を吸い込んで、己の魔力を少しづつ吐き出していくんだ。あたしがやってみるから。」
赤ずきんは、そういうと目を閉じ深く深呼吸する。
そして、また深く深呼吸すると、彼女の背中から赤い炎が波を撃つように出現し、激しい渦を成し竜巻状になり取り囲んだ。
「うわ…凄い…」
「まあ、慣れたらこうなる。力は強ければ、いいってもんじゃない。制御し、自在に操作出来るかが肝なんだ。やってみ。」
赤ずきんは、そう言うと炎を吹き消した。
ヒカリは、赤ずきんに倣って気持ちを込め、深く息を吸い吐くを繰り返した。
全身の内部から、熱いものがこみあげてくる。
全身に煮えたぎったマグマがふつふつブクブクと湧き上がってくる。
身体が、燃えるように熱いー。
光のシャワーが、滝のように迸り、ぶくぶくと泡のようにぶつかり合い、破裂する。
花火爆弾を彷彿とする、その膨大な光の泡の塊は、ヒカリを包み込む。
「うわ…っ!?」
ヒカリは、悲鳴を上げ大きく後転し、50メートル離れた川の中へ飛ばされ沈んでいった。
ー水…?!いやだ、怖い…
キーンと、強い耳鳴りがした。
痛覚を刺激する。
脳髄が熱い鉄の塊に撃たれたかのような、強烈な痛みだ。
何なんだろうー?この既視感は…
鬱蒼とした不気味な森の中で、三人の魔女に取り囲まれる映像が、フラッシュバックする。
金銀銅の、眩いローブを纏った三人の魔女と、それを覆うかのような金銀銅の眩い光が、辺りを眩く包み込むー。
これは明るい光だが、深い邪気に包まれていた。人間の欲望を纏った不気味な光だ。
これは、光じゃない。
闇だ。目の前の魔女達は闇属性の魔女だ。光に憧れ、光属性の者達から魔力を奪った。
空には、満月が不気味なまでに柿色に大きく輝く。
身体は、鉛のように重く動かないー。
傍には、息絶え絶えなドラゴンの親子がいる。
漆黒の奇妙な羽根が、宙を舞う。
ゆらゆら揺れ動く、泥の塊のような四体の影人形ー。
地面の隙間から次々湧き上がる、ドブネズミ達ー。
深い火傷と擦り傷だらけの自分は、何か、叫び声を上げていた。
すぐ側の樹木が自分を飲み込み、意識が朦朧とする。ヒカリは、最後の力を振り絞り必死にもがき、抵抗するー。
だが、ヒカリは為す術なく力尽き、濁流の川の底へと沈んでいくー。
ヒカリは、急に戦慄と哀しみを覚え、目から涙が溢れ出てくるー。
これは、一体…
「おい、起きろ!」
赤ずきんが、ヒカリの頬をぺちぺち叩く。
目を覚ますと、近くに赤ずきんの顔がぼんやりと視界を覆った。
ヒカリは、ケホケホ水を吐き出す。
「え、私…どうなって…」
「お前は、川に沈んで、10分程、意識失ってたんだよ。結構流されたから、大変だったよ。ったく、本当にド素人なんだな…」
自分も赤ずきんも、ずぶ濡れだ。自分の胸ははだけており、その上に赤ずきんの手が添えられていた。
彼女は、自分が意識を失っている間、救命措置をしてくれていたらしい。
彼女は、この私をわざわざ泳いで助けてくれたのだろうかー?
今まで、誰からも助けて貰った事がなかったヒカリは、感極まり胸の中が熱く込み上げる物を感じた。
「ッたく…余計な手間掛けやがって…お前、呼吸もしてなかったから、結構大変だったぞ。」
「そうですか…すみません。」
彼女を初めて見た時、ぶっきらぼうでぞんざいで苦手意識が強くあったが、どうやら良い人そうでヒカリはホッとした。
「それにしても、お前、どうしてこんなに弾き飛ばされたんだ…?50メートルも飛ばされてたんだぞ…」
「え…?!50メートル…」
「お前、素質あるかもな。ホラよ。」
赤ずきんはそういうと、ヒカリにタオルを手渡した。
「…ありがとうごさいます…」
あの闇夜の深い地獄の光景は、一体、何だったのだろうかー?
あの魔女達と、ドラゴンの親子は、一体、何なのだろうー?
夢では無いということは、直感と感覚で分かった。
ヒカリは瞠目し、体感した筈のないあの光景がしばらく頭から離れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます