第9話 一難去ってまた一難、大惨事の予感…!? ②

漆黒の翼を拡げた魔人は、闇を切り裂くように羽根の弾丸を放っていた。その弾丸は、空気を切り裂き、音を立て、破壊力を持って赤ずきんに飛んでくる。


しかし、モルガンは、咄嗟に透明なバリケードを張った。バリケードは、丸く膨れ上がり、瞬時に弾丸を跳ね返した。魔人は、その瞬間、身体の中からガスのような黒い煙を放出した。


赤ずきんは、何かを感じ取ったように、顔を上げた。奴と目が合った瞬間、彼女は、瞳孔を大きく見開き思わず息を呑んだ。


「これは、例のゴブリンが強大化した姿だ。」


「ゴブリンが…何で…?」

とヒカリは尋ねる。


「だから、言ったろ…?ソイツらは、ウィルスなんだよ。それを放置するというのは、こういう事になるんだ。コイツは、戦うのは厄介なんだよ。」


赤ずきんは、眉を寄せながら両手に銃を構える。


魔人は、赤ずきんに向かって、悪魔のような声で怒りをぶちまけた。


「ゴオーオーオーオーーーーー!!!!」


「チ…ッ、よりによって、何で、ここに入りやがったんだよ…?」彼女は、顔を引き攣らせ、両手にサブマシンガンを構えた。


魔人の頭部に弾丸を連射する赤ずきん。その音は、魔人の悲鳴と共に響き渡った。

「ゴオーオーオーオーーーー!」

魔人は、地獄のような声を上げた。

辺りは、大きくぐらついた。

頭部に穴が開いた。その中から、黒い煙が噴き出してくる。


その煙が、グニャグニャと伸び、触手のような形状をして、赤ずきんに迫ってくる。彼女は、その触手を避けながら、魔人に突進して、サブマシンガンを連射し反撃する。


魔人は、黒い羽根を弾丸のように飛ばし、反撃した。しかし、赤ずきんは、その器用な動きで羽根の弾丸を避け、魔人の胸元を狙って、サブマシンガンを全力で打ち込んだ。


魔人の身体は、激しく揺れ、黒い煙が噴き出した。そして、彼女が距離を取ると、魔人は、その場で崩れ落ちた。



「ふぅー」

赤ずきんは、額の汗を脱ぐうと二丁の銃口の煙を吹き消した。


「あ、アレの正体は何…」

ヒカリは、信じられないとばかりに超えを震わせた。全身にゾワゾワと寒気が走る。

ゲームの世界でしか体感したことのない戦慄をリアルに体感し、ヒカリの身体は大きく硬直した。


「だから、アレは例のゴブリンなんだよ。放置すると、こうなるんだ。ウィルスの元だ。お前、それも知らなかったのか…?ホントに異世界人なんだな…」

「ええ、何のことか…」


「アイツらは、わざとか弱いフリして同情を誘うんだ。良いか?ゴブリンには良い奴とウィルスになる奴が居るんだよ。」


「そうなんですね…初めて、知りました。」


「あたしの敵は、ゴブリンじゃない。真の敵は、もっと強大で禍々しいんだ。」


赤ずきんは、眉間に皺を刻み何やら思い詰めたように遠くの宙を見つめている。


「それにしても、妙だな…この辺りにはゴブリンが出る筈がない。第一、この村はシドを含め卓越した境界師が集まってる。」


「そうね…もし、集まるのなら都市部を狙う筈だもの。しかむ、こんな辺鄙な村を…」


「だとしたら、奴らが動くな…」




その日の朝は、ヒカリの心は重かった。


明日の午後4時に、自分はゲームオーバーになる。


モルガンと赤ずきんと、もっと色々話したかった。


もしかしたら、友達になれていたかも知れないー。


転生したら、2人とはお別れだ。



だが、流石にドラゴンを狙撃することは出来ない。


前世の世界でも駄目…この世界でも、自分は通用しないのか…と、ヒカリは目を潤ませ唇を噛み締める。



ヒカリは無理に明るく装い、朝食を済ませ、食器を片付けモルガンの手伝いをした。




すると、どんどんどんと、ドアを大きく叩く音が響いてくる。



「まずい、検問が来た。」


新聞を見ていた赤ずきんは、ハッとし、ドアの方を向いた。


「私が、時間稼ぎしてるから…あの変身薬で、ヒカリちゃんを…」


モルガンは、そう言うと外に出て検問の話し相手になって時間稼ぎをした。


「やばいな…お前、キボウだと間違えられる…」


「キボウ…?」


「お前は、キボウと姿も声も魔力も似てるんだよ。」

赤ずきんは、爪を噛むと眉尻を寄せる。


「仕方ない…」

赤ずきんは、キッチンの冷蔵庫から青汁のような奇妙なドリンクを取り出すと、ヒカリの目の前まで持ってきた。


「え…?いや…」

ヒカリは、困惑した。青汁は、苦手だ。


「いいから、つべこべ言わずに飲め。」

赤ずきんの切羽詰まったどぎつい声に、ヒカリは背筋に寒気を覚えた。

「え、」

それは、ブクブク泡をふかしている。

まるで、毒が入っているかのような魔女の毒薬のような奇妙な液体だ…


「…これ、私が飲むんですか…?」

ヒカリは、顔を引き攣らた。


だが、彼女の鋭い眼光が、コチラを睨みつけ、狼のように睨みを効かせている。


「飲むんだ!時間が無い!」

赤ずきんは、血相を変えヒカリに詰め寄る。

「へ…っ?」

ヒカリの声は、裏返った。


ーと、赤ずきんは奇妙な液体をヒカリの口に近付ける。


酸っぱいような苦いような摩訶不思議な匂いが、ヒカリの臭覚を覆った。


「おえ…っ」

ヒカリは、吐き気を催す。

「ただの変身薬だよ。毒なんか、入ってない。」




ー逆らったら、殺される…


ヒカリは、顔を渋らせながら恐る恐る変身薬を飲み干した。






ーと、服がみるみるガボガボになった。


自分の手を見ると、猫の手のようになっており、違和感を覚えた。


近くの姿見を見ると、自分は猫になっていたのだ。



「え…っ」


「ついでに、猫のようにしてろよ。」

赤ずきんは、ヒカリの着ていた衣服を抱え衣装タンスの中に放り込み、ドリンクの入ったコップを綺麗に洗った。



ドアが、キィーと音を立てて開き、憲兵がやって来た。


「検問に来た。オタクにキボウがいるんじゃないかと、噂になっててね…」


「怪しい者は、いませんよ。」

赤ずきんは、猫になったヒカリを抱き抱え頭を撫でる素振りをしてみせる。

彼女は、やや乱暴にヒカリを撫で、ビクッとする。


「ウィルスが出たから、キボウが戻って来たんじゃないか?と、噂になってるんだよ。私は、ずっとキボウを追っていてね…ちょっと、中を拝見させて頂きますよ?」


憲兵は居間から台所、棚の中、2階に上がり、寝室のベットの下、隅々まで捜索する。




憲兵は、階段を降りると、何やらメモ書きした。



赤ずきんとモルガンは、深くため息ついた。


「そろそろね。」

「うん、そろそろだな…」



30分ほどして、ヒカリは元の姿に戻った。


「おい、ヒカリ、行くぞ。」

「はい…?」


ヒカリは、赤ずきんのバイクに乗ると、一緒に村市場へと向かった。



「何処、行くんですか?」

「武器を買いに行くんだよ。」

「武器…ですか…?」

「今は、人手不足なんだ。お前も、戦うんだよ。こんなペナペナな弓矢で戦えるかよ。」


確かに、自分の武器はペナペナだ。だが、今の自分はレベル1だ。





武器屋は、まるでダークファンタジーのクトゥラフを彷彿とする、奇妙な店だ。


盾から弓矢、剣、銃、ムチ、サバイバルナイフ、日本刀まで何でも揃ってる。

ギリシャ神話や古代エジプト、古代中国や日本書紀に出てくるような、重厚感ある本格的な武器が陳列されている。


「ふむ…どれがいいか…」


赤ずきんは、店内を見回し武器を手に取って振り回す素振りをした。


その右横顔を見ると、ヒカリは、ドキリとして見惚れてしまった。


深みがかった翡翠色の瞳にツリ目ガチな切れ長のアーモンドアイ、シャープで綺麗に整えられた眉、長いまつ毛にウエーブがかった艶やかなブロンドのボブヘアー…


容姿端麗というより、眉目秀麗と言った方が良いだろうかー?


しかも、ほぼすっぴんだ。

バッチリメイク決めてきた自分が、とても恥ずかしく思えた。


右頬にうっすら痣のようなものがあるが、それを中和するかのような爽快なイケメンである。


彼女は、神話に出てくる天使ミカエルを彷彿とする端正な容貌をしている。



「おっ、赤ずきん、丁度良いのがあった。コレ、特殊な金属で加工してあってね…」

店の奥の方から、白銀色の眩い光沢を放つ剣を持ってやってきた。


「丁度いい。コレで、お前を鍛える。」

赤ずきんは、剣を見るやいなや意地悪げに微笑む。


「え、、、いや…」

ヒカリの心臓は、大きくひっくり返った。


これから、地獄の特訓が始まろうとしていた。


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