第8話 一難去ってまた一難、大惨事の幕開け!? ①
モルガンの店に来て、七日が経過した。
今日を含めて、あと七日で、仲間を五人集め、ゴブリンを倒し、お宝の地図を見つけ、お宝を奪還しないといけない。
ミッション1は、クリアした。
仲間とは、モルガンの事だろう。
一番厄介なのは、ゴブリンを殺す事だ。
ゴブリンだろうが、ドラゴンだろうが、殺すことは出来ないー。
殺せないまま、ズルズル時間だけが経過していく。
一体、どうしたらいいと言うのだろうかー?
とりあえず、ヒカリはベットから起き、身支度と洗顔を済ませると、キッチンまで向かった。
奥の方から、カレーのスパイスの匂いが立ち込める。
見知らぬ旅人を、こんなにもてなしてくれた人は初めてだ。
今まで、周りから邪険に扱われていた自分は涙腺が緩くなってしまうー。
「これ、赤ずきんさんに渡して下さい。スマイルウォッチ代です。この時計、宝の持ち腐れになってしまいましたが…」
ヒカリは、懐から金の入った封筒を取り出しモルガンに手渡す。
「ヒカリちゃん…イイのよ。赤ずきん、分かってるから。それに、私も彼女も貴女にずっとここにいて欲しいと、そう思ってるから。」
モルガンのその言葉に、ヒカリはドキッとした。
彼女は、何か、勘づいているー。
「え、あ…すみません…」
「大丈夫。赤ずきん、貴女がキボウじゃないことは分かってるから。」
モルガンは、封筒をヒカリに返す。
「そ、そうなんですね…」
「ええ。彼女、魔力感知能力がそれなりに高いのよ。あの時、一瞬、疑ってしまったみたいだけど、ちゃんと分かってるから。ただ…謝るのか苦手な子なのよ。不器用過ぎてね…頑固で素直じゃないから。」
「分かりました、そろそろ、ご飯ですよね?赤ずきんさんを呼んできますね。」
「助かるわ。赤ずきんなら、裏庭の森の中で銃の手入れをしてるみたいよ。」
「ありがとうございます。」
ヒカリは、赤ずきんを呼びに裏山の方まで足を運んだ。
ーと、赤ずきんが、何からドワーフのような鬼のような小人と対峙しているのが見えた。
ーこれは、ゴブリンだ。
「邪魔くせぇ…人の縄張りに入りやがって…」
赤ずきんは、ゴブリンをギロリと睨みつけると、銃をカチカチ鳴らした。
ゴブリンは、丸く蹲りブルブル震えている。
「な、何しようとするんですか!?」
ヒカリは、中に割って入り赤ずきんを牽制する。
「…ああ?」
「やめてください!ゴブリンだからって、殺して良い理由にはなりません!彼らだって、自我と感情があるんですよ!」
「…」
赤ずきんは瞠目し、ヒカリを凝視し動きを止めた。
「お前…ホントにキボウじゃないんだろうな…?」
「だから、違いますって…私は、ヒカリです。」
「まぁ、今は、コイツらを始末するのが先だ。」
赤ずきんは、銃を構えると照準をゴブリンに向けた。
「こ、怖がってるじゃないですか!?」
ヒカリは両手を拡げ、赤ずきんを牽制する。
「ケッ…いけ好かない野郎だ。分かってんのか?コイツは、ウィルスなんだよ?」
赤ずきんは、眉毛を八の字に寄せるとヒカリを押しのけ銃口をの引き金に手をかけた。
「そんな…ウィルス呼ばわりしないで下さい!」
ーと、ヒカリがそう言い終えるやいなや、パーンと銃口から弾が発射された。
ヒカリがハッとし振り返ると、額に弾が当たり赤い炎に包まれている、ゴブリンがそこに鎮座していた。
「そ、そんな…酷い…」
ヒカリが瞳孔を揺らしながら、動きを硬めているのを他所に、赤ずきんは三歩進み、再び銃口をゴブリンに向け発砲した。
バーンと、大きな爆炎がゴブリンを包み込む。
「だせー奴…でも、これでお前が少なくともキボウじゃないってことは、ハッキリ分かった。」
ーと、赤ずきんは、何やら思ったかのように眼を細め、銃口の煙を吹き消す。
ゴブリンは、赤い爆炎に包まれながら黒焦げになっていくー。
そして、彼の身体は黒灰の塊になり消失して行った。
「あーあ、白けちまったぜ…」
赤ずきんは、そう言い捨てると気怠げにその場を去った。
自分は、彼女のようになることは、到底出来ないー。
しかも、ゴブリンをウィルス呼ばわりするだなんてー
赤ずきんは、人の心が無いのだろうかー?
自分は、到底、殺める事は出来ないー。
これで、ゲームオーバーになって振り出しに戻ってもいい。
何故、自分がゴブリンを必死に庇ったのかは分からないー。
ただーゴブリンに、自分と重なるものを感じたからかもしれない。
前世での惨めな自分と重なってしまうのだ。
更に六日が経過した。
そろそろ、期限が近付いてくる。
幾らミッションだからとはいえ、ゴブリンを殺す事は出来なかった。
ドラゴンを攻撃することも、出来なかった。
どんなにゲーム世界だからって、他者を攻撃することはどうしても躊躇してしまう。
これで、振り出しに戻ってもいい。
素敵な出逢いと、パン屋の仕事が無くなってもいいと、ヒカリは腹を括った。
まともに働いた気がする。あれは、貴重な経験だった。
良い思い出として取っておこう。
これから、何十回何百日と、
自分は振り出しを経験することになってもいい…
ヒカリは、そう覚悟した。
この日の朝も、豪華な手料理が並べられていた。
シチューに、バケット、有機栽培で取れた野菜にオレンジジュースと、ヒカリは心からのおもてなしを受けたような気がした。
「あ、ありがとうございます。とても良い思い出になりました。記念に取っておきます。」
「何の事かしら?」
「全く…変なヤローだぜ…」
赤ずきんは、脚を組むとバケットを豪快に頬ばる。
この二人は、自分がもうすぐで居なくなるのを知らないー、
ーありがとう…
ヒカリが、そう思うや否や、
突如、店の中央に黒い渦の塊が出現し、辺りを漆黒に染め上げた。
漆黒の激しい渦を無し、三人は顔を覆った。
そして、その渦の中から、
全長三メートル位の、漆黒の翼を拡げた、漆黒のマネキンのような魔人が、ゆらゆら左右に揺れながら、コチラに向かって歩み寄ってくる。
眼は金色で頭部は猫のようだ。
「これは…もしや…」
赤ずきんは、ソイツに銃口を向けるながら眼を小刻みに揺らしていた。
「どうして、分かったのかしら?魔力でバリケード張ったはずなのに…」
モルガンも、困惑している。
ーコイツも、バルバロネの手下なの…?!
漆黒の魔人は、大きく舌なめずりをし三人を見下ろしていた。
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