第22話 悪雲の幕開け、ゲーム世界の危機…!? ①

辺りにキリキリした重い空気が張り詰める。


ーと、赤ずきんの目は、次第に曇っていき、大仰にため息をついた。


「ふん、とんだ根性無しだな。これで、今までよく大会の主催をやってきたものだ。」


赤ずきんは、眉を八の字に寄せ銃口を緩めた。


「分かりました、直ぐに解毒剤と救助隊を用意するので、今暫く…」

男は、渋々了承することにした。


ーと、赤ずきんは彼の帽子の模様と数字を見てハッとした。


カチッ…


「殺しは、しないよ。中に弾は入ってない。こんな奴殺したって、何の得にもならないし。」


辺りの者は、ホッとしざわめき立った。


「これで、大方、ご主人は誰なのかは検討がついた。」

赤ずきんは、呼吸を整えながら渋い顔で何やら考えているようだった。


「そう?良かったわ…」

モルガンは、ホッとし胸を撫で下ろした。


「何、ぼーっとしてるんだよ!?解毒剤と救助隊だ!あと、警察も呼べ…!」

赤ずきんは、傍で唖然と突っ立っている司会者を仰いだ。

「あ、はい…!」

司会者は、アップルウォッチを起動すると係員に連絡し始めた。





赤ずきんは、ヒカリの方を向き直った。


「ヒカリ、あの時は、助かった、ありがとう。」

「え、こちらこそ、沢山助けて貰ってるし…お互い様ですよ。」

「あの時は、ほんとにごめん。」

「え…?」

「あれ、お前にとって、あれはあんなに苦しい技だなんて、知らなかったから…」

赤ずきんは、申し訳なさそうにしている。

「そんなことは…」



「レティー、駄目よ。安静にしてなきゃ…」

モルガンが、慌てて駆け寄ってくる。


「だから、大丈夫だってば…」

赤ずきんは、ゲッソリしながらもモルガンの手を軽く払い除けた。



「あの…レティーさんは、何故、私を気にかけてくれるんですか?」


ヒカリは、疑問に感じていた。

彼女は、ぶっきらぼうで態度が大きいが、時折、自分に対して特別に優しくしてくれる。

キボウそっくりな自分を見て、嫌悪は微塵も見せたりなんかはしないのだ。


「何でかなあ?お前が、あいつに似てるからかな…?」

「あいつ…?」

「あいつ、不器用だったけど、一生懸命だったからさ。」


赤ずきんは、遠い目をしていた。



「そうなんですね…」


あの時、モルガンが言っていた時の事を思い出した。


あね、妹のように可愛がってくれた人…


彼女は仲間の裏切りにあい、殺された。


「苦しいんなら、もうその技使わなくてもいいし、戦いが嫌なら無理して参加しなくていいからさ。色々済まなかった。」


赤ずきんは、ぱんとヒカリの肩を叩いた。


そう言われると、何処と無く悔しくなってしまう。


ーあーあ、自分は、誰からも頼られる事はないのか…

私だって、誰かの役に立ちたいー。

弱いままじゃ、嫌だ…



気を紛らわせようと、疑問に感じていた事を赤ずきんにぶつけてみた。

「あの…ウィルス感染って、この世界だとそんなに重大なものなのでしょうか?私、あんまりピンと来なくて…」



「かつて、共に戦って来た仲間がいたんだ。このチームが結成されるずっと前の話だがな。だけど、彼等は、ウィルスに感染し豹変したんだ。そして、豹変し凶暴化し完全な魔獣のようになった。私は、仕方無く引き金を引いた。そうするしか、手段は無かったんだ。」


赤ずきんは、遠くの空を眺めていた。


「お前には、まだ分からないかも知れないが、ウィルスとは80%の感染で完全に元に戻れなくなるんだ。そして、感染した者はウィルスと化して感染を拡げていくんだ。」


「…そうなんですね…。」


そのウィルスとは、パソコンが感染するようなものだろうー。


矢張、ここはゲームの世界なのだと感じた。


「だから、お前は絶対に感染するなよ。もう、仲間を打ちたくは無いし懲り懲りなんだよ。」


赤ずきんは、右頬の痣に手を当てた。


ヒカリは、その痣にハッとした。


彼女は、何も言わなかった。


痣も、きっとその時に出来たものに違いない。


モルガンに頼めば、それは簡単に無くして貰える筈だ。


だが、彼女はそれはしない。


仲間を忘れたくないから、無かった事にはしたくないから、ずっと残したままにしているのだと、ヒカリは思った。



「おう、皆、無事でよかったら」

会場の裏口から、血相を変えた男が姿を現し駆け寄ってきた。

「遅いぞ、ギール、キグナスの皆は無事か?」

「ああ、無事だ。解毒剤かっさらって、片っ端から打っといた。」

「あ、まだあるかしら?レティーが感染したみたいで…」

モルガンは、顔を赤らめ緊張した面持ちで彼に尋ねた。

「ああ、勿論あるさ。」

ギールは、ズボンのポケットから小瓶を取り出した。

「おう、サンキュー」

赤ずきんは、彼から小瓶を受け取り液体を飲み干した。



裏口から、ギルドのメンバーが続々と姿を現してきた。


あの時、ステージ内で見た人達である。


「新しい仲間だ。コイツは、ヒカリで、コイツはパックだ。」

赤ずきんは、ヒカリとパックを引き寄せ仲間に紹介した。

「よ、宜しくお願いします!」

ヒカリは、顔を赤らめながらもペコリとお辞儀をした。

「宜しく頼むよ。」

ギールは、笑顔で迎え入れた。

「なぁ…パックは、キグナスのメンバーだろ?大丈夫なのかよ…?」

「ヘンゼル、大丈夫だ。喧嘩を吹っかけてきたのは、向こうの方だ。どっちにせよ、コイツは捨て駒だったんだ。」


辺りは騒然とした。

「へ…?」

パックは、一番、困惑した表情をしていた。


「お前は、殺される運命だったんだぞ?」

赤ずきんは、パックを軽く流し目で見た。




「で、コイツもギルドに向かい入れる。おーい、こっち来いよ!」

赤ずきんは、会場中央で放心状態になっている丸ぶち眼鏡の男を手招いた。


「え…いや、」

彼は、ブンブン首を大きく横に振った。

「大丈夫か?マフィアの幹部だろ…?」

ギールが、顔を顰めた。

「コイツは、捨て駒だ。その内、処分される運命にある。組織の内情はある程度、知っている筈さ。最近、ネットワークがおかしくなっている。世界に歪みが生じて来ているみたいなんだよ。だから、彼をギルドに引き入れる。コイツは、ネットワークとプログラムに詳しいだろうから。」

「そうとは言え、急すぎやしないか?」

「ギール、危機がそこまで迫ってきている。繋がりが切断されブラックホールが次々と確認されて来てる。」

「そんな…そしたら、世界は終わりだわ…」

モルガンは、青ざめていた。

「でも、大丈夫なのか…?だって、お前、あの時ブチ切れてたじゃ…」

「今は、それ所じゃない。」

赤ずきんの目には、迷いは無かった。


「わ、私は、お断わりしますよ。早速、ボスに報告を…」

男は、アップルウォッチを起動した。


その時だった。


「寝返ったら、分かってんだろうな…?」

赤ずきんは、ドスの効いた鬼のような形相で彼を睨みつけた。


「は、はい…」

男は、萎れた植物のように大人しくなった

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