アビス・イン・ワンダーランド~ゲームギルドの世界へようこそ~

RYU

第1話 プロローグ

虹ケ丘光は、摩訶不思議な世界を紡績と歩き続けている。


鴉のような奇妙なお面を被った黒マントの集団の会を目撃し、後頭部に強い痛みを覚えた。

強い閃光に包まれ目をつぶったら、今、こうしてこの奇妙な世界を旅していたのだ。


今、自分は脳震盪を起こし、幻覚や夢を見ているのだと思い、試しに自分の頬をつねってみたり頭を強く叩いてみると、強い痛みがはしる。何度力を込めてやってみても、痛みが脳髄に浸透してくる。



これは、紛れもない現実なのだと思い知らされる。

来たての時は、頭が真っ白になり狼狽し、元の世界に帰還することばかりが頭にあった。だが、手掛かりらしきものは皆目検討はつかない。スマートフォンの画面を何度観ても、圏外のままである。


雲の辺りから、ほのかに差し込む太陽の光の位置から、大体の方角や時間を推測する。

自分は、今、西の方角へと向かって歩いており、今は、夕方四時過ぎなのだろうー。

だが、歩いていく度に、太陽の光も辺りの花畑も目まぐるしく様変わりしている。

空間が、奇妙にグニャグニャ歪み、光は酔いそうになる。


頭が、強く混乱してくる。

試しに、自分の頭を強く叩き、早くこの奇妙な世界から抜け出すことばかり考えていた。

だが、しばらくしてそれは無駄足なのだとふっ切れ、徒労だと気付かされた。


眩い虹色の空に、茜色の雲ー。

無限に広がる、鮮やかな花畑に蝶々が華麗に羽をばたかせ飛び回る。


ファイナルファンタジーさながらのの幻想的な世界に、光の脳は混乱している。


時間感覚も麻痺してくる。かなり経った筈なのに、あまり経過したような感覚はない。

不思議の世界に迷い込んだかのような、不思議な感覚だ。


空腹も、喉の乾きも疲労感もないー。頬をつねっても痛みもない。暑さや寒さなどといった感覚もない。


ーもしかして、自分は死んでいる…!?


あの時、後頭部を強く叩かれ、自分はショック死したのだ。


だとしたら、ここは死後の世界だ。

ずっと先に亡くなった、ひかり先生に会えるかもしれない。


彼女は、光の小学校の頃の担任の先生であり、1人で居ることの多い光に良く話しかけてくれた。名前は、星ヶ丘ひかりで聡明で美人な人だった。同じ名前なのが、信じられなく申し訳ななった。

うる覚えだが、彼女は、学校の児童や他の教職員、保護者からの評判がとても良かった。

休み時間は、勉強を教えてもらい、一緒に遊び、お喋りして楽しんだ。光や他の児童の相談事にも親身になって乗ってくれた。彼女は、使命に燃え、正義感がとても強い先生だった。

いじめや不正に屈することも無い、芯の強い先生だった。いっぱい笑って、時を共に過ごした。

彼女は、光の恩師だ。


彼女は、病気で23年前に25歳の若さで亡くなった。

生きていたら、48になっていた筈だ。きっと、幸せな家庭を築いて、美しく歳を重ねていたことだろうー。


今、自分は35だ。彼女の年齢をすっかり超えてしまい、なんで自分が長生きしているのか、理解に苦しむ。


何の取り柄も価値もないデブスな自分が、彼女の年齢を優に超えずるずる生き延び、明るく聡明な彼女は早死したのかが、分からなかった。

彼女の年齢を超え生きながらえたのかが、不思議でならない。


世の中、本当に理不尽である。

生きるべき魅力的な人間が早死して、全てにおいて並以下で無価値な自分が生き続けるー。

神様は、頭がおかしい、狂ってるー。

出来るものなら、自分の寿命をそのまま彼女に与えたかった位だ。



しばらく花畑の中を散策していると、黒い亀裂のようなものが出現した。それは、静かに地響きを起こしグラグラ大きく揺れている。


光は、咄嗟に丸く蹲る。



急に、空間が大きくグニャリと歪み、場面は、急に切り替わり、奇妙な森の中へと自分がいた。


目の前に、猫の被り物をした、白いタキシード姿の摩訶不思議な人物が立っていた。



「虹ケ丘光様、ようこそ、お待ちしておりました!」

彼は、声を張り上げ、帽子を下ろし丁寧にお辞儀をした。


光は、口をあんぐり開けて氷固まった。


「ここは、臨界です。つまり、貴方様が生きていらしゃった世界と、これからご案内致します電脳世界を繋ぐゲートとなっております。あ、私の名は、ケット・シーと言います。以後、お見知り置きを。」

彼は、光の心を読んだのか、丁寧に状況の説明をした。声は若くて可愛らしい女性の声だ。何処と無く懐かしさはあれど、思い出すことは出来ない。背は、160から165暗いだろうかー?中の人は、女性だろう。


「え…私は、死んだんですか…?」

「ええ。残念ながら、そういう事になりますね…」

「…そうなんですね…」

ヒカリは、声のトーンを下げた。

大抵の人間は、パニックを起こすだろうが、

光は、寧ろ、ホッとしている。


「まず、これから貴方様の新しい住処となる、電脳世界のご案内をします。」


「この世界は、現世でいうファイナルファンタジーを彷彿とする世界となっております。そして、ゲームキャラが己の自我と感情を有し独自の文化を発展させてきました。」


「はぁ…」

頭が益々、混乱してくる。全くもって訳が分からない。カオスだ…

だが、目の前の彼はふざけた様子は無く、至って真面目に説明してくる。

実際のところ、自分は、気絶し夢を見ているのだろうかー?


いつの間にか、巨大な映写機とスクリーンがあり、ケット・シーは映写機をクルクル回した。


そこには、リマージュやゼルドの伝説さながらの、広大なファンタジー世界の動画が映し出された。


「この世界は、77もの大陸に別れております。そこでは、それぞれ歴史も文化も異なります。現世でいう、日本やアメリカ、イギリス、中国、韓国、ロシアなど…それぞれ歴史や文化が異なるように、雰囲気や様式、住民の性質が異なります。温和な民族から陽気な民族、獰猛な民族まで、様々です…更に、この世界では妖精、エルフ、人間、魔人、妖魔、魔法使い、ゴブリンやドラゴンなどあらゆる種族が共生しております。そして、それぞれが異なるスキルを用し、助け合って生きているのです。勿論、お金を稼いでその金でスマートフォンを買い替えたり、充電器や装備品を購入することだって出来ますよ。詳細は、アプリを読んで頂ければと、思います。」


広大で、メルヘンさながらの幻想的で魅惑的な世界や種族等に、光は目が釘付けとなった。


光は、ケット・シーの案内に合わせ、スマートフォンを取り出し、その奇妙なアプリをダウンロードした。

表紙には、緑色となり六芒星と、謎めいな幾何学模様のような文字が書き記されていた。


試しに、アプリのページを読み進めて見ると、武器の選択から、調達、スキルの使い方や戦い方、エナジーの蓄え方や、仲間の増やし方など、絵や図解と共に書き記されていた。終いには、悪魔や魔女、ドラゴンや妖魔等の攻略方法、各種族の説明、各大陸の特徴についても詳細に書き記されているのだった。ページは1000ページ程もあり、光は度肝を抜いた。


「安心してください。このアプリは、決して怪しいものではありませんので…あと、街の本屋や図書館で、マニュアル本がありますし、パソコンにアプリが搭載されてありますので、万が一スマートフォンが壊れたり、アプリが正常に動作しない時に、役立ちます。」


「…そうですか…」


このケット・シーは、終始陽気な口調であり、被り物からして、見るからに怪しい。


「では、このモニターに、なりたい自分の特徴を設定して頂くことになります。」

ケット・シーは、巨大なパソコンの前に光を座らせ、カチカチマウスを操作した。

画面が切り替わり、下着姿のアバターの画像がそこにあった。

その下には、様々な顔のパーツや髪型などのパーツ、肌の色、体型などが、30種類程ズラリと羅列されてある。


「下の各パーツから、貴方様がなりたい容貌を選んで頂けます。目の大きさや形、色、髪型や髪の色、肌の色、頭のサイズ、体型を自由に選択できます。種族も自由に選べます。選択し終わったら、右下の矢印をクリックして、ファッションやスキル、武器の選択に進んで頂きます。下の白い四角には、好みの身長や体重、体脂肪率、スリーサイズをご入力して頂きます。そして、最後に年齢設定や名前のご入力で完成です。」


「分かりました…」

仕方ない…彼に従えば、何か現世に戻る手掛かりが出来るかも知れない…


光は、とりあえず、モニター前に座ると、カチカチマウスを操作した。


容貌は、長身細身でグラマーな体型がいい…


もし、本当に変われるのなら、7.3頭身以上のモデル体型がいい…


生まれ変わるのなら、陰気なチンチクリンなデブスは絶対に嫌だ…


そうだ、あのリマージュの容貌にしよう…


ヒカリはカチカチマウスをクリックしし進め、生前、遊んでいた、リマージュのエルフさながらの容貌を選択した。


年齢は、17歳にした。

光はずっと、10代の内から人生をやり直したいと思っていた。


最後に、名前の選択に入った。


光は、祖母からもらった名前だ。

どうしても、変え難い…


でも、生前の惨めな自分から転生したい…


悩んだ挙句、カナでヒカリと入力することにした。


「終わりました…」


「では、此方を通って頂きます。」


お遊戯会出よく見る様な、小さく幾何学模様の刻まれた門を潜りぬけた。


門が、一瞬、ピカッと輝き出し、光は目を閉じた。全身が熱く、燃えるような感覚を覚えた。


「これが、生まれ変わりの貴女の姿であります。」


ケット・シーは、姿見を光に向けた。


鏡を見ると、光は眼を疑った。

その中には、高身長で細身で華美なエルフさながらの見知らぬ女が立っていた。


ーまさか、これが自分…!?


何かの間違いだろうと、適当にポージングしてみるが、鏡の中の女も自分とそっくりの動きをしていた。



「転生完了しました。では、ゲートを通って頂きます。」

ケット・シーは、そう言うと扉を開けた。


扉の向こう側から、陽光が差し込むー。

あまりの眩しさに、光は目を閉じ顔を覆った。


「では、気をつけて行ってらっしゃいませ!」

ケット・シーは、丁寧にお辞儀をした。

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