第29話 世界の絶望、そして再生 ③

辺りに猛風が荒れ起こり、樹木の木々がざわざわ集まってくる。


その木々が人の姿を成し、レティーに襲いかかる。


「ヒカリ、離れろ!」


レティーが、ヒカリを突き飛ばす。


「私と、ヒカリちゃんの仲を壊す者は許さない…!ヒカリちゃんを守れるのは、私だけなのよ…!」


モルガンは、怒り狂う。辺りの樹木らも怒り狂い、呻き声を上げる。


そこで、ヒカリはハッとする。

バルバロネもキボウも、モルガンが吸収して強大な力を手に入れたものだ。


レティーは、舌打ちし爆炎を纏った弾を連射する。


だが、モルガンや妖樹の身体がブクブク不気味に泡立ちそして吸収していく。


「クソッ…もう少しだ…もう少しで…」


レティーの額から、汗が吹き出してくる。呼吸も、荒くなっていく。


「レティーさん…?」


ー自分は、いつも守られてばかりだ…


ー自分に出来る事は、何なのだろうか…?



樹木は、うねうね複雑に畝り続け、そして、束のようになりレティーに襲いかかる。


「よし、今だ…!!!」


レティーは器用に避けると、銃を連射し続ける。



炎弾は、妖樹らに辺り、地獄の雄叫びを上げて消失する。



「シールド展開…!」


レティーが、パンと手を叩いた。


朱色の炎が、辺りを赤く染め上げる。


モルガンは、ハッとし姿を止めた。



「悪いな…こちらも、随分前から準備していたんだよ。」


レティーは、意地悪げに微笑んだ。


朱色の炎から、次々とVXの軍団が姿を現した。


「…!?」


「確かに、シナリオ通りじゃないよなあ。だけど、お前の盲点をついたんだよ。お前は、創造主から記憶を分け与えられ、シナリオを予め知っていた。だから、お前は、創造主から信頼を受けていた。それを利用した。だから、全てお前の計算と信念の元に成り立っている。それが狂うと、お前は隙を見せる。」



「だから、何が言いたいの…!?」



「先ずは、お前に感謝しなきゃいけないよなあ…?」


「何ですって…!?」


「あの時、お前の仕掛けたウィルスに感染し覚醒した時、分かったんだよ。炎になら弱いってね。」


「…」


「お前は、私の体内にある真の力に気付いてはいなかった。それは、私が普段押さえ込んでいる力だからだ。お前は、それが分かってなかった。私の身体は、まだ本当には覚醒してなかったようだ。じゃあ、始めようか…?」


レティーの全身から、朱色の炎が迸る。



モルガンの動きは、封じられた。


「ちょっと、パック…パックは何処に居るの…!?」

モルガンは、ハッとし辺りを伺うも、パックの姿は見えない。


「パックは、お前の言うことは、もう聞かないよ。」


レティーは、全身炎をまといながら勝ち誇ったような顔をする。

その裏から、渋々パックが姿を現す。


「よくも、人の使い魔を…しかも、覚醒状態で、自我を保てるようになったのね…」

モルガンは、顔を歪ませる。


「だから、言ったろ。あたしの役割はヒカリを守ることだってね。それに、お前が思ってる程、あたしはウィルスを毛嫌いしている訳では無い、下僕にすれば、いいだけのことさ。」


「クソが…!」


モルガンの全身が、あたりの妖樹らの身体が青紫色に変色していく。


モルガンは、大きくうねりながら次々と妖樹らを吸収する。

そして、背中に翼のようなものが生え、巨大なセイレーンのような形状になった。


ーと、VXが次々と飲み込まれていった。


そして、青ずんだ顔で口をぱっくり上げ、レティー目掛けて首を大蛇のように延ばしていく。



ヒカリは、ごクリと唾を飲み込んだ。


そして、両手を大きく広げレティーの前に割って入った。


「…ヒカリ…?」


「大丈夫です。私が辛くなった時だけ、お願いします。」


ヒカリは、レティーにニッコリ微笑んだ。


「お前…」


レティーは、瞳孔を大きく揺らした。


「モルガンさん、私はここです。ここにいます。」


モルガンはビクッとし、動きを止めた。


「私は、ここにいます。どうか、落ち着いて下さい。レティーさんには、手を出さないで下さい。お願いします!」


ヒカリは、口調を強めた。


自分の為に、悲劇は起きて欲しくは無い…


「ヒカリちゃんが、そう言うなら、仕方ないわね…」


モルガンは、穏やかな顔つきになった。


「ヒカリちゃん、分かったわ。ごめんなさいね。」


モルガンは、ヒカリに抱きついた。


「てめぇ!」

レティーは、サブマシンガンを構えた。


「大丈夫です。」

ヒカリは、レティーを制した。


ーと、ズボンの右ポケットにあらり何か硬いものがヒカリの腰に当たった。


ハッとしそれを探ると、中から金色の短剣が出現した。


シーラが、こうなると知っていて、自分のポケットに予め入れて置いたものなのだろう。


この剣は、家で見た。


何か、神秘めいた家宝のようなものだろう。


ヒカリは、モルガンに抱きついた。


「ちょっ、ヒカリ…!」

「レティーさん、大丈夫です。」

ヒカリは、レティーを制した。

モルガンの両手は、優しくヒカリを包み込む。


彼女は、ミオじゃない…


ミオは、そんなことはしない。

ウィルスもばら撒かない。


誰にでも優しい子だった。


彼女は、ひかりお姉さんとミオの記憶を引き継いだ、プログラムだ。


モルガンは、ジワリジワリとコチラへ近付く。


「分かった…私も、一緒に行くから。ずっと、二人だけだよ?」


ヒカリはそう言うと、モルガンの胸に剣を強く突き刺した。


剣の先端から、眩いカナリア色の光と虹色の光が入り交じって、グルグル大きな渦を成していく。


モルガンは悲鳴を上げた。

そして、彼女の身体から光が溢れ出しそして身体は爆発し、粒の塊となり粉々になった。







「これで、正解なんですよね…?」


「ああ。アイツは、己の私利私欲を満たそうとした。愛が随分、歪んでやがる。」


「そうなんですね…」

寂しい気持ちが強くある。半年とは言え、随分良くしてもらっていた。


「アイツは、己の欲望を満たしたいが為に、ウィルスを世界中にばらまき、時間を巻き戻し続け千年以上も歪めてきた。ただ、お前とずっと一緒に居たいからだよ。」

「もー酷いですぅ。」

パックは、口を膨らました。

「お前も、良く協力してくれたな。」

レティーは、パックの頭を優しく撫でた。

「レティーさんは、いつから気付いて居たんですか?」


「今から数えて、お前の転生55回前位かな?だから、ずっと用心して準備していた。初めて違和感に気付いたのは、空にあるアルゴリズムの模様だ。」


「アルゴリズム…?」


「ああ、微妙に空に浮いている奴だ。」


レティーは、空を指さした。

そらには、薄っすらと幾何学模様が浮かび上がっている。


「アルゴリズムだけは、誤魔化す事は出来ない。時空を歪めると言う事は、アルゴリズムをも歪めるという事だからな。だが、アイツはそれに気付かなかった。何故なら、これはアイツには見えないからだ。アイツは、闇属性だから、光には弱い。だから、空の光を直視出来ないんだよ。」


「でも、私は光属性ですよね…?何故…?」


「ああ、そこで、奴は考えた。どうやって光を克服するかを。全身の表面に光を弾くバリケードを張った。だが、それは上手くはいかなかった。元が闇だからな。だが、奴は身体にダメージを受けようとも、お前と居ることを選んだ。その分、お前への気持ちが強かったのだろう。」


「私、前に、モルガンさんに会ったような気が…」


「それは、お前が前世にでも遊んだものだろう。アイツは、初めは不人気なキャラクターだったらしくてね…初めて自分を気に入ってくれる人が居て、凄く嬉しかったのだろうな。」


レティーは、何やら思い詰めたように遠くの空を眺めた。


「…そうだったんですね。」


「私は、随分、昔からあるソフトなんだ。創造主は、まず始めにプログラムを守る為に、何体か対ウィルス用のソフトを創った。それが私達シグマでね。そして、生まれた時からこの姿なんだ。奴に出会ったのは、戦の後だけどね。」


「…」


「そして、生まれた時から感じたんだ。私の中には、生みの親である創造主様の強い気持ちがね…」


そうか、だから、彼女はひかりお姉さんと面影が似ていたのか…


「私が可愛がっていた人がいた。そいつは、雰囲気や性格がお前そっくりだった。私は、彼女を可愛がった。あたしと創造主は、感覚や価値観が似てるから。多分、創造主とお前は何らかの繋がりがあるんじゃないか?」


レティーのその言葉に、ヒカリはハッと顔を上げた。


「私は、これから強くなってひかりお姉さんの意志を継ぎたいと思ってます。」


ヒカリは、強い口調でそういった。


「お前、強くなったな。」

レティーは、ヒカリの頭をポンと叩いた。


「私達を差し置いて、二人で何を話してたのかしら?協力するのに、随分と魔力を消耗したのですよ。」

後ろを振り向くと、シーラ達エルフ族が姿を現した。


「ああ、あの時は、バリケードとか、サンキュー、準備大変だったろ?」

レティーは、申し訳なさげに笑ってみせた。


「ええ、全くです。」


世界は、眩い光に包まれた。


空間が歪み、地面に大きな亀裂が走った。


その亀裂の隙間から、眩い光が差し込んだ。


このゲームは、終わりをつげようとしている。


そろそろ新世界の始まりだ。


「私達は、先に移動してますよ?」

シーラ達、エルフ族とパックは光の中へとダイブした。


「じゃあ、行こうか。」

「私達、ずっと一緒ですよね?」

「ああ、決まってるさ。」


ヒカリとレティーは、頷き合い手を繋ぎながらその光の中へと飛び込んだ。

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アビス・イン・ワンダーランド~ゲームギルドの世界へようこそ~ RYU @sky099

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