第4話 ゲームの世界も、楽じゃない… ④

ヒカリは、ゲームキャラの家に招かれた。


メルヘンチックで童話に出てくるような、お洒落な骨董品がズラリと置かれており、天井まで大きく吹き抜けている。


上から大きなプロペラがぶら下がっており、クルクル回転している。


奥の方から、甘い香りがしてくる。


「これ、今日積み立てのハーブティーと焼きたてのクッキーよ。お口に合うかしら。」


長身の女は、紅茶とクッキーを居間のテーブルに運んできた。


「あ、頂きます。」

ヒカリは、紅茶を啜りクッキーを摘んだ。


身体の芯から、じわりと温まる。


「美味しい…」


ゲームの世界だとは思えない、リアルな味にヒカリは感動した。


「良かった…これ、初めて挑戦したのよ。おかわりあるから、沢山食べてね。」


女は、ニッコリと微笑んだ。


「ありがとうございます。」


ヒカリは、ホッとした。彼女は、赤ずきんとは対称的で、人当たりが良い人そうだ。




「モルガン、そう言えば、お前の居るギルドの戦況はどうなってるんだ…?」


赤ずきんは、紅茶をすすりなが脚を組みら新聞を拡げて見ている。

そこには、この世界のあらましがズラリと書かれてあり、ヒカリは、眼を疑った。

画像が、動画のようにリアルに動いているのだ。

それは、正に前世で見た魔法使い映画さながらだ。


「そうね、ここずっと、サイモン一味が姿を見せないのよ…ギークからの連絡もないから、困ってるのよ。一応、地面に根を張って魔力探知してるんだけどね…」


「何か、張り合いないよな…つまんねーな…何か、クトゥラフとか、魔人の一団がもっとワラワラ出てくれないと、何のためにこうして居るのかが、分かんねーし。」


「赤ずきんは、戦い過ぎよ。ライフが削れてしまうわ。ただでさえ、回復力が弱いんだから。」

「良いよなー、お前は回復力はゴリゴリに高いからな…流石、土属性で防御型ってか…」


これが、ゲームキャラの会話というものなのか…と、ヒカリは感動した。


赤ずきんは、さっきの攻撃からして、炎属性で攻撃型なのだろうかー?


ヒカリは、前世はゲーム廃人なだけありゲームの攻略には詳しいが、リアルなキャラ同士の会話は初めてであり、目を大きく輝かせて感動した。


自分も、会話に参加してみたくなった。


「あ、あの…」

「何だ?」

赤ずきんのドスの効いた声に、ヒカリは再びビクっと仰け反る。

「サイモンとか、ギークって、何なんですか?」

「お前、それも分からないのか…?」

「サイモンは、魔王バルバロネの手下で総長よ。バルバロネの次に権力を握っているの。彼は、闇属性と光属性の魔力を自在に操り、世界を混沌の渦に巻き込もうとしてるのよ。

ギークは、私達の英雄よ。彼が居ないと、この街はすっかりやられていたわ。バルバロネは、ハッキリした姿は分からないのよ。変身に長けていて、闇の力が強くてね…若しくは、それに拮抗する強力な光属性の救世主がいれば話は別なんだけど…」


「奴は、1000年以上生きてるし、ここファンタジアは無事では済まないぞ…」


「そうね…今は、モロノエが奴の影封じに成功したみたいだから、それに伴って…」


ーと、モルガンがそう言いかけるや否や顔を濁らせ眼に涙を浮かべた。


ー嫌なことを思い出させてしまったのかと、ヒカリはハッと顔を上げた。


「す、すみません…嫌な事、思い出させてしまって…」


一瞬、奇妙な沈黙が流れた。


「え?いいのよ…モロノエ、死んだ訳じゃないから。あ、そうだ、今度の夏祭り、三人で一緒に行きましょう。」


モルガンは無理して繕ってるようで、ヒカリはとても申し訳なくなった。


「だーかーら、そんなの、行かないって…どうせ、お前は、キール目当てだろ…」


「もう、いやね…」


モルガンは、顔を赤らめる手を大きく振った。


「つまらないよ…あんな男、キザで自信家でナルシストで傲慢野郎だぜ。」


「そんなこと、無いわよ…筋骨隆々で身体鍛えてるのよ…」


「だから、何なんだよ…鍛えるのは、アタシもやってるぜ…腕立て伏せや腹筋、背筋は、毎日300回はしてるし。」


「あなたと、比べないでよ…」




これは、人生初めての光景だった。



ーこれが、じょ、女子会…



女子会が、初めてだった。

これが、恋愛話というものなのかー?


ヒカリは、今まで、どの女子からも忌み嫌われ孤立してきた。


女子達が楽しく会話で盛り上がっているのを間近で見てきた。


自分は、ひたすらゲーム攻略本を読んでいたが、本当は皆の輪に入って楽しく談笑がしたかった。


すると、スマートフォンがピーピーと音を立てた。


中を確認すると、アプリ通知があった。


『 レベル1、期限、2週間以内』

と、書いてある。もし期限内にクリア出来なかったら、振り出しに戻ってやり直しになるらしい。


それは、ゲームオーバーを言うものだろうかー?

それは、ヒカリのゲーマーとしてのプライドが許せないー。

ヒカリは、ありとあらゆるゲームをゲームオーバーせずに最高ランクまで上り詰めた実践がある。


「何、コソコソしてる?」


赤ずきんが、怪訝そうな顔でコチラを凝視している。


「え、アプリの通知がありまして…?」


「アプリー?」


「はい…」


「だったら、良いものがある。あたしは、近くでコソコソやられるのが、大の苦手なんでね…」


「赤ずきん、この子、旅人なんでしょう?この国は不慣れなんだから、優しくしてあげなきゃ。」


モルガンが、呆れ顔で眉を潜めている。


「あ、もう、こんな時間か…?お前、例のパンの配達まだだろ…アタシ、ついでにコイツ連れて時計屋に行ってくるよ。」


赤ずきんは、ハッとし腕時計を確認すると、モルガンから焼きたてのパンを受け取った。


「この子を変なことに巻き込まないのよ…」


「わーってるって…」

赤ずきんは、モルガンから受け取ったパンを荷台に詰めると、ヒカリを乗せて、近くの村市場へとバイクを走らせた。


雄大な山々と、古びた趣のあるレンガ出できた建物ー、

喉かな住宅街ー。

丘の上の教会ー

あらゆる種族が混雑している、賑やかで、活気ある町だ。


赤ずきんは、バイクを止め荷台から焼きたてのパンを取らりだした。


「ついて来な。」

「はい。」

ヒカリは、赤ずきんの後についてきた。


中に入ると、ベルがカラカラ鳴り、そこにはあらゆる種類の時計がぶらざっていた。


可愛い猫の置物のようなメルヘンチックな時計に、オルゴールの搭載された時計などがあり、

ヒカリは眼を輝かせた。


店の手前には、デジタル時計そっくりの時計が、ずらりと展示されている。


ーうわー凄い…


これは、最新機種だろう。

前世で見た、オレンジウォッチやスマイルウォッチそっくりな最先端な時計がズラリと陳列されていた。


「よお、赤ずきん…」

奥の部屋から、初老の丸渕メガネの男が姿を見せた。


「はいよ。いつものパンだ。」

赤ずきんは、男にパンを手渡すとお代を頂きそれを懐にいれた。


「ここで、探しな。手前のヤツは、通信機能が搭載されてるんだ。」


「はい…」



「最近の状況は、どうだ?私は、バンバン仲間がやられて、手に負えんトコまで来てる…」


「実はな…ギルドの仲間に問い合わせてはいるが…私の所もほぼ壊滅的で…」


「そうか…ギークが無事だと良いんだが…」


「そうだな…奴が再び動くと大変な事になるぞ。奴は、虹の塔と魔王石を狙っている。その石の力で蘇りを目論見、もし、それが叶うとなると…」


「そんな、暗い話はよせよ。精霊石と賢者の石を見つければ良いんだから…大丈夫だ。ギークは、きっと帰ってくる。キールだってついてるんだ。いけ好かないケドな。」


「ああ…そうだな。」



空間が、急にグニャリと大きく歪んだように感じた。


辺りが大きく揺れ、村の人々は悲鳴を上げ逃げ惑うー。


「来たかー!?」


赤ずきんは、銃を構えると辺りの不穏な気配を伺った。


「大丈夫だ…万が一に備えて、魔力で防御しといたから…だが…こんなに早いとはな…」


男は、狼狽え両膝をついた。



奥の丘の方から、人の悲鳴が聞こえてきた。

ゆらゆらと大きなクラーケンの脚が出現し、村そのものを飲み込もうとしている。


三人は、瞠目し外に出る。


赤ずきんは、銃を構え照準を敵に合わせた。



ーこれが、ゲームの世界というものなのか…?!


ゲームの世界も楽じゃない…と、ヒカリは顔を歪ませ俯いた。

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